ゴム鏝
ゴム鏝は、弾性体の鏝面で材料を押し広げ、傷を付けずに面をならす左官用の手工具である。ゴム特有の追従性と反発弾性により、微細な凹凸や曲面にも接触面が密着しやすく、砂粒を巻き込みにくい。タイル目地の充填、樹脂系・アスファルト系防水材の塗り付け、漆喰や石膏の仕上げ、各種パテの平滑化など、硬い金属鏝では跡が出やすい用途で力を発揮する。刃先が柔らかいため基材に擦傷を生じにくく、化粧面やコーティング下地の最終ならしにも適する一方、強い押圧で平面を出す作業は金属鏝に劣ることが多い。
構造と材質
ゴム鏝は、握りやすい柄(木・樹脂・アルミ)と弾性ブレードで構成される。ブレードはEPDM、NBR、シリコーン、ポリウレタンなどが用いられ、硬度はShore Aでおよそ40〜80が一般的である。低硬度は追従性に優れ、粒子を転がして面をなでる動作に適し、高硬度は押圧による整面力とエッジの直進性に優れる。ブレード厚みは約3〜8mm、形状は矩形、両端R、先端テーパー、コーナー保護付きなどがあり、替え刃式や一体成形式が流通する。溶剤・油に対する耐性は材質で大きく異なるため、使用材料に合わせた選定が必須である。
- EPDM:耐候・耐水・耐オゾンに優れる。油・炭化水素溶剤には弱い。
- NBR:耐油性に優れ、パテやシーリング材に適するが耐候性は中程度。
- シリコーン:耐熱・耐寒性に優れる。機械的摩耗はやや弱い。
- ポリウレタン:耐摩耗・反発性が高い。溶剤の種類に注意が必要。
主な用途
用途は仕上げ材の特性と下地条件で使い分ける。とくに金属エッジが嫌われる化粧面や、凹凸を残しつつ平滑感を出したい場面でゴム鏝が選ばれる。
- タイル目地の充填・ならし:スラリーや目地材を対角方向に押し込み、余剰を斜め引きで除去する。
- 防水材・床材の塗り付け:ウレタン防水、エポキシ床などで層厚を均し、ピンホールを抑制する。
- 漆喰・石膏・樹脂パテの仕上げ:金属跡を避けて柔らかな肌に整える。
- 脆弱・軟質下地の養生的ならし:断熱材や既存塗膜上での軽圧作業に有効。
選定のポイント
ゴム鏝の選定では、硬度、ブレード寸法、エッジ形状、材質の耐薬品性、柄の握りやすさ、替え刃の入手性を確認する。幅は60〜120mm、長さは120〜240mm程度が扱いやすい。溶剤型材料では材質の溶解・膨潤の有無を必ず事前確認し、試験片での塗り伸ばしテストが望ましい。狭小部や入隅は先端テーパーや小型サイズ、広面は大判でストロークを長く取ると仕上がりが安定する。
硬度選びの目安
Shore A≦50:凹凸・曲面追従、目地材の拭き残し低減。A55〜65:汎用。A≧70:直進性と押圧による整面を重視。厚みが増すと曲げ剛性が上がり、同硬度でも体感は硬くなる。押し圧に対する永久ひずみ(コンプレッションセット)が小さい材質ほどエッジが長持ちする。
サイズと剛性
長尺はストロークが安定し平滑度を稼げるが、局所追従性は低下する。短尺は小回りが利き、入隅・立ち上がりに向く。バックプレート(台金)付きは面内剛性が高く、層厚制御に有利である。
使い方の基本手順
下地の清掃・含水管理→材料の粘度確認→鏝角10〜20°で当て、押圧と速度を一定に保つ。直交2方向のストロークで塗りムラを平均化し、最後は軽圧の長手引きで表面を整える。粗骨材を噛んだら直ちに除去し、エッジを汚さない。タイル目地では斜め引きで充填後、斜め拭きで余剰材を回収する。
エッジの管理
使用中に角が欠けたり毛羽立つと筋や曳き傷の原因となる。微小なバリは鋭利な刃でトリミングし、細目の耐水ペーパーで面取りする。高温や溶剤で軟化した場合は、平置きで形状を回復させる。
メンテナンスと保管
水系材料は速やかに水洗いし、中性洗剤で残渣を落とす。溶剤系はウエスで拭き取り、必要最小限の溶剤で清掃する。長時間の浸漬は膨潤や接着剥離の原因となる。直射日光と高温を避け、平らに保管する。エッジを他工具と接触させないよう個別保護すると寿命が延びる。
安全・品質管理
手袋・保護眼鏡を着用し、溶剤蒸気下では換気と有機ガスマスクを併用する。作業前にブレードの割れ・硬化・変形を点検し、不具合があれば交換する。サンプルボードで塗り肌・層厚・ピンホールの有無を確認し、気泡が残る場合は粘度調整やストローク角度を見直す。
代替工具との比較
ゴム鏝はステンレス鏝や角鏝よりも基材を傷つけにくく、微細凹凸への追従性に優れる一方、強圧での平面出しやシャープな角出しは苦手である。液状材料の厚膜塗りではスキージー(ラバー引き)が能率的、狭隘部やコーキングの均しには専用のヘラが有利である。用途ごとの工具特性を理解し、工程内で適切に使い分けることが品質と生産性の向上につながる。