コンカレントエンジニアリング|各部署を平行的に実行する設計手法

コンカレントエンジニアリング

コンカレントエンジニアリング(CE)とは、コンカレント(同時に)を意味するように、設計と製造、あるいはその他(企画、マーケティング、保守、物流等)を、平行的に実行するこ設計手法である。このことから統合製品開発(IPD)とも呼ばれる。コンカレントエンジニアリングを進めると、企画・アイデアから製品までのリードタイムを短縮することができる。時間の節約は、プロセスのすべてのステップを考慮して設計し、製造の段階に進む前に設計変更を行う必要がなくなるためである。製品は早期に完成し、量産化プロセスでの無駄な工数を抑えることができるため、生産期間がさらに短縮される。

歴史

コンカレントエンジニアリングは2008年頃に新しい設計管理システムとして生まれ、近年では最適化されたエンジニアリングサイクルとして広まった。現代では、多くの企業、組織、研究機関、特に競争の激しい自動車、航空機、航空宇宙、医療、半導体および半導体製造装置分野で実施されている。

概要

コンカレントエンジニアリングは、厳しいグローバル経済の中で、コストを抑えとリードタイムを短縮するという要求が増した中で生まれた開発プロセスである。コンカレントエンジニアリングは、設計・開発部門、製造部門、企画部門、営業部門、資材部門、購買部門のすべてを開発プロセスの初期段階に関わることで、グローバル展開、迅速な市場投入、設計時に製造プロセスを実現させる。これは、競争相手に対して優位性を持つ上で非常に重要なメリットといえる。

ポイント

コンカレントエンジニアリングのポイントは、製品の開発フェーズの初期段階ですべてを考えること、そして、各部門が同時並行で業務を進めることにある。

ライフサイクルのすべての要素を初期フェーズで

製品のライフサイクルのすべての要素(企画、機能、生産、組み立て、テスト、保守、環境、法律、廃棄・リサイクル)を設計の初期フェーズで慎重に考慮することである。初期フェーズで開発部門や製造部門を筆頭に各部門に負荷をかけることで、その後のプロセスをスムーズに行うことができる。

開発プロセスは、すべて同時に

開発プロセスは、企画部門、営業部門、開発部門、製造部門、流通部門、資材・調達部門、すべて同時に行われる。同時並行に進めることで、後々の無駄なトラブルを回避し、生産性を高め、製品の質を大幅に向上させることを目的とする。設計プロセスの初期段階で負荷をかけることで、早期にトラブルや課題を特定・修正することができる。その後の開発部門のリソースを、VE(ヴァリューエンジニアリング)による付加価値の高い開発やコストダウン戦略などに注力させることで、製品の質が向上する。最終的にハードウェアの実際の製造に進む際にしばしば発生する高額なエラーを回避できる。

企画部門、営業部門

企画部門、営業部門はもっとも初期の段階からかかわる部門で主導的役割を果たすことが期待される。市場調査や他社比較から現場の声まで総括的に判断し、開発部門の意見を聞きながら企画を作り上げる。次第に開発部門にインプットをすることでプロジェクトを推移推移していく。

資材・調達部門

部品や材料の調達において、サプライチェーンがグローバルでより複雑な環境となっているため、国際情勢の混乱や半導体不足などにより、想定外にリードタイムが伸びることがある。また、部品や製品の独自性が進み、製造中止になった製品の代替製品がすぐに入手できないなどのトラブルが多い。コンカレントエンジニアリングはある程度、開発が進んだ段階で資材・調達部が早期にかかわることで、そうした情報を開発部門と連携して戦略的に対応することができる。こうした積み重ねが、部品の標準化を実現できる。

製造部門

開発部門と製造部門が早期に連携することで、より組み立てやすい、加工しやすい生産設計を実現することができる。工程が後になるほど、設計変更の手間やコストが高り自由度もなくなるため、早期にそうした戦略を組み込みながら進める必要がある。

情報共有のタイミング

開発プロセスは、企画部門、営業部門、開発部門、製造部門、流通部門、資材・調達部門、すべて同時に行われる。同時並行に進めることで、後々の無駄なトラブルを回避し、生産性を高め、製品の質を大幅に向上させることを目的とする。設計プロセスの初期段階で負荷をかけることで、早期にトラブルや課題を特定・修正することができる。その後の開発部門のリソースを、VE(ヴァリューエンジニアリング)による付加価値の高い開発やコストダウン戦略などに注力させることで、製品の質が向上する。ただし、情報共有のタイミングは戦略的に行わなければその成果を得ることはできない。企画部門、営業部門はより早期な段階で主導的立場でスタートさせて、徐々に開発部門を中心に移していき、次に製造部門に主導権を移していかなければならない。

設計変更の最小化

コンカレントエンジニアリングは、設計変更の最小化をはかり、全体のコストを抑えることができる。

コストダウン

設計や購買、品質、製造のすべての関係者に目標のコストダウンを決めることで、各部門が原価を落とす提案をすることとなる。特に開発費を押え、開発からの量産工程までのリードタイムを短縮することでコストを大きく減らすとともに変化する市場に早期に対応できる。

協力関係

社内だけでなく、協力会社との協力関係、互恵関係を成立することで、無理なコスト削減の要求がなくなり、協力会社の利益確保が実現できる。

モチベーションの向上

コンカレントエンジニアリングは、個々のエンジニアや関係者が協力的に進める必要を強いられることから、それぞれが全体の設計プロセスにより多くの発言権を持つことができる。製造部門や営業部門が開発の初期段階に意見を言えるといったように、個々のエンジニアに発言権を与えることで、それがモチベーションとなり個々の生産性と製品の質が向上すると言われている。

ウォーターフォールモデルとの比較

ウォーターフォールモデルは、従来行われてきた開発モデルで、営業→企画→開発→製造→流通→保守・管理をバトンタッチしていくように行われる開発プロセスである。(バトンタッチプロセスとも言われる。)ウォーターフォールモデルでは、ユーザー要件から始まり、設計および実装へと順次進んでいき、最終的に完成品になるが、この設計システムでは、何かがうまくいかない場合、そのたびに設計内容が大幅に変更され、開発部門が大きな工数を割く必要がある。コンカレントエンジニアリングでは、製品のライフサイクルのすべての側面が同時並行で進めることで、早急に方向転換を行うことができる。このような後戻りがなくなることは、開発部門が早い段階で次のプロジェクトに移行できる大きなメリットがある。

フロントエンジニアリング

リレーション・レースアプローチとは、設計、製造、品質保証、マーケティング、販売、サポートなどのさまざまな機能が同時に進行する方法を示している。ウォータフールモデルでは、これらの機能は順番に行われることが多いが、リレーション・レースアプローチでは、製品開発の各フェーズが他の段階関わることで、開発プロセスが並行して進行し、全体のプロセスが効率化されることである。

同時設計に関連する課題

コンカレントエンジニアリングの課題は、初期設計レビューの実施、エンジニアや各部門の効率的なコミュニケーション、ソフトウェアの互換性、設計プロセスのオープン化がある。

初期設計レビューの実施

初期設計レビューを実施しなければならない。初期設計レビューでは、他部門がかかわるが、無駄な時間を過ごさせないよう内容を明確にしなければならない。参加者も精査しなければならず、高いマネージメントスキルが求められる。

エンジニアや各部門の効率的なコミュニケーション

開発プロセスはエンジニアが中心で行われることが多いが、他部門メンバーはその製品において専門的な知識が不足していることも多く、その中で濃密なコミュニケーションが必要である。それぞれの立場や利益を尊重したうえで、最適な製品の開発に向けて進めなければならない。

ITスキルとコスト

コンカレントエンジニアリングには、3D モデルや解析を使いこなすIT技術と効率的に情報交換が必要である。普段、技術情報や図面を見慣れない営業部門、調達部門、新人など誰もが理解する必要があるため、3Dモデル(3D CAD)が必須である。また、リードタイムを短縮するため、解析ソフトを使いこなすエンジニアも必要である。これらを軸にプロジェクトチームを編成し管理することで、情報の共有を行わなければならない。ただし、こうしたソフトウェアにはきわめて高いコストがかかるため、資金が足りない企業には困難となる。

設計プロセスのオープン化

設計プロセスを広くオープンにする必要があるが、オープンにすることは情報の漏洩がしやすくなることを意味する。新しい製品にはコア技術や機密情報が詰まっているため、リスクが高い。

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