ガリウム砒素|高速通信と光デバイスを支える先端半導体

ガリウム砒素

半導体材料の中でも、とりわけ高速通信や高周波デバイス向けに重要視されているのがガリウム砒素(GaAs)である。ガリウムとヒ素を化合して得られるIII-V族化合物半導体に分類され、シリコン(Si)とは異なる特性を示す点が特徴となる。具体的には、高い電子移動度やバンドギャップエネルギーを有するため、超高速通信回路やマイクロ波デバイス、さらに赤外領域の光電子デバイスに至るまで幅広い分野で活用されている。直感的にはSiより加工コストが高い一方で、その優れた電気的・光学的特性を必要とする先端アプリケーションでは欠かせない存在になっている。たとえば携帯電話の高周波増幅回路や衛星通信機器、光ファイバー通信で使われるレーザーダイオードなど、高速かつ高周波動作が必須となる製品にはガリウム砒素ベースのデバイスが採用されることが多い。

結晶構造とバンドギャップ

ガリウム砒素は、結晶構造として亜鉛閃石型(ZnS型)をとる。そのエネルギーバンド構造は直接遷移型のバンドギャップを有しており、約1.43eVという値を持つ。この直接遷移型の利点は、発光効率が高いことである。すなわち、キャリアが再結合する際に光を放出しやすい特性を持つため、LEDやレーザーダイオードに適している。また、電子移動度がシリコンより高いことから、トランジスタや高速デジタル回路で高いスイッチング速度を実現しやすい。結果として高周波アプリケーションに求められる低損失化、高効率化を後押ししている。

応用分野

半導体レーザーやフォトダイオードなどの光学デバイスは、光通信の基幹技術として不可欠である。特に長距離光ファイバー通信や宇宙空間でのレーザー通信では、安定して高出力を発生できるガリウム砒素製のレーザーが用いられる。一方、マイクロ波帯からミリ波帯までの高周波増幅器や発振器の分野でもGaAsベースのHEMT(High Electron Mobility Transistor)やMESFET(Metal-Semiconductor FET)などが重要な役割を果たしており、携帯電話の基地局や衛星通信機器、レーダー装置などに搭載されている。また、太陽光発電の分野ではGaAs系太陽電池が高い変換効率を示し、人工衛星の電源として利用されるケースも見られる。

製造プロセスと課題

結晶育成技術としては、MBE(Molecular Beam Epitaxy)やMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)が活用され、基板表面に原子層レベルでGaとAsを交互に堆積させることで高品質なエピタキシャル膜を形成する。これによって微細な量子井戸やヘテロ構造が可能となり、デバイス特性を最大限に引き出す設計が行われる。しかし、ガリウム砒素はシリコンに比べて結晶育成が難しく、基板コストも高い。毒性を伴うヒ素を扱うため、厳格な環境管理と安全対策が求められるなど、製造面では依然としてハードルが高いといえる。

性能向上のための工夫

高周波デバイスや光デバイスの性能をさらに引き上げるために、GaInAsやAlGaAsなど他のIII-V族元素を添加した合金化や超格子構造が試みられてきた。たとえばAlGaAs/GaAs構造では、バンドギャップの段差を利用してキャリアを閉じ込め、レーザー発振効率を大幅に向上させることができる。量子井戸や量子ドットを組み込むことで、波長チューニングやしきい値電流の低減といったメリットも得られる。一方、デバイス製作プロセスの微細化に伴い、エッチング精度やリソグラフィ技術の高度化も求められ、シリコンプロセスとは異なる専門的なノウハウが競合優位の源泉となっている。

将来的な展望と用途拡大

高次の周波数帯を活用する5G/6G通信の進展や、衛星利用が増える中での宇宙インターネット計画などが進めば、ガリウム砒素による高周波デバイスのニーズはさらに高まる可能性がある。既にGaN(窒化ガリウム)など他のワイドバンドギャップ材料が注目を集めているが、GaAsの完成度の高さや性能面での安定性は依然として有利な部分がある。特に衛星や高速通信分野では、長年にわたる実績と技術蓄積が評価されており、今後も重要な選択肢として位置付けられるであろう。