オシロスコープ
オシロスコープは電圧の時間変化を可視化する計測器であり、波形の形状、周期、過渡現象、ノイズ成分を直感的に確認できる装置である。縦軸は電圧、横軸は時間を表し、プローブで取得した信号を入力増幅、サンプリング、デジタル処理を経て表示する。研究開発、故障解析、生産ラインの立上げからフィールド保守まで幅広く用いられ、電源リップルの評価、スイッチング波形の立上がり時間測定、シリアル通信のデコードなどに必須である。
原理と基本構成
現行のオシロスコープの主流はデジタルストレージ方式である。入力信号はアッテネータと前置増幅器で所要レンジに整合され、AD変換器でサンプリングされる。内部トリガが条件を満たすとメモリに保存されたサンプルがディスプレイへ描画され、時間軸スケールと電圧軸スケールに応じて波形が再構成される。XY表示に切替えればリサージュ図形による位相差観察も可能である。アナログ機も存在するが、デジタル機は波形の停止・保存・演算・統計処理に優れる。
主要仕様と読み方
- 帯域幅:信号の有効周波数範囲を規定する。高速エッジ観測には基本波の10倍程度の帯域を確保するのが安全側である。
- サンプリングレート:1秒間の標本数であり、ナイキストの観点から観測周波数の少なくとも2.5~4倍以上を目安とする。
- メモリ長:保存できるサンプル点数であり、観測時間窓=メモリ長×サンプル周期で決まる。ロングレコードはトランジェント捕捉に有利である。
- 入力インピーダンス:一般に1MΩ//数十pFまたは50Ωを選択可能。高周波では50Ω終端が反射低減に有効である。
- 垂直分解能:8~12bitが一般的で、平均化や高分解能モードにより有効ビット数を向上できる。
- トリガ機能:エッジ、パルス幅、ランタイム、欠落、シリアルプロトコルなど。安定した波形停止に直結する。
補足:帯域幅と立ち上がり時間
一次近似では立ち上がり時間trはtr≒0.35/帯域幅で見積もられる。観測対象のtrより十分小さいtrを達成できる帯域のオシロスコープとプローブを選定することが重要である。
プローブと接続
パッシブ10:1プローブはレンジ拡大と負荷容量低減のバランスに優れる。高周波・微小信号にはアクティブプローブ(FET入力)が有効で、差動測定には差動プローブを用いる。接地リードはループ面積を最小化する短いスプリング接地を推奨する。50Ω系では同軸直結と終端を厳守し、反射とリンギングを抑える。プローブ補正用の方形波で高域補償を整え、平坦な矩形を得てから本測定に入るべきである。
補足:プローブ補正と接地
プローブ補償は高域の容量分圧を整える作業であり、オーバー/アンダーシュートが最小となる位置に調整する。接地は安全と忠実度の両面で重要で、測定対象のGNDとオシロスコープのプローブGNDが系統接地で共通になる点を理解し、フローティング測定には絶縁アンプや差動プローブを用いる。
トリガと解析機能
エッジトリガは基本で、パルス幅、グリッチ、ラント、ドロップアウトなどの高度トリガが過渡事象の再現性を確保する。測定カーソル、統計、ヒストリ機能で多数波形を比較し、パーシステンス表示でジッタや揺らぎを可視化できる。周波数解析にはFFTを用い、基本波と高調波、ノイズフロア、スプリアスを評価する。混合信号オシロスコープ(MSO)はアナログ波形とロジック信号を同時観測し、I2CやSPI、UARTなどのプロトコルをデコードしてイベントにジャンプ可能である。
補足:サンプリングとエイリアシング
離散標本ではナイキスト周波数を超える成分が折り返す。等間隔サンプリングで速い繰返し波形を観る場合、等価時間サンプリングが選べる機種もあるが、非周期過渡にはリアルタイムサンプリングが必須である。アンチエイリアスの観点でも、十分なサンプル密度と前処理のローパスを検討する。
活用例
電源のリップル・ブルーム測定、スイッチング電源のスイッチノード波形の過渡解析、DCモータのPWMデューティと電流リップルの相関、オーディオ回路のクリップ点推定、センサ(ひずみ、圧電、加速度)の動特性観察、USBやCANのアイパターン簡易確認などに有効である。製造現場では治具のタイミング検証や不良再現のトリガ条件探索に使い、設計段階では立上がり時間とオーバーシュート、EMI予兆の可視化に用いる。
安全と測定上の注意
筐体接地のACメイン接地とプローブGNDは原則共通であり、誤って高電位点にGNDクリップを接続すると短絡事故となる。高電圧・三相・インバータの直流中間回路などは差動プローブや絶縁プローブで測定し、過電圧カテゴリ(CAT)と定格を遵守する。フローティング測定にアイソレーション・トランスを安易に用いるのは危険で、機器の安全規格と社内手順に従うべきである。
校正と品質管理
定期校正は直流精度、時間軸、周波数軸、トリガ精度を対象とし、標準器とのトレーサビリティを確保する。日常点検として自己診断、ゼロ調整、プローブ補償を実施し、測定条件(帯域制限、平均回数、サンプルレート、メモリ長、終端状態)を記録することで再現性を担保できる。適切な仕様選定と正しいプロービング、妥当なトリガ設定を組み合わせることで、オシロスコープは設計・製造・保全の各工程で高信頼のデータ取得を実現する。