エンクロージャー(第1次)|羊毛需要で耕地囲い込み進展

エンクロージャー(第1次)

概念と時期

エンクロージャー(第1次)は、15世紀末から16世紀のイングランドで進んだ、共同利用の耕地・草地を生け垣や塀で囲い私有地化する運動である。羊毛需要の高まりを背景に、地主が開放耕地を牧羊地へ転換し、慣習的な入会権を縮小・消滅させたことに特色がある。のちの大規模な囲い込みと区別するために、先行段階として位置づけられる。

背景―羊毛需要と農業構造の変化

百年戦争後の交易回復と低地諸州・イタリア市場の活況により羊毛・毛織物が高値を維持した。イングランドでは粗放な放牧経営が利潤を生み、開放耕地の細分耕作よりも牧羊地の一括経営が有利となった。こうしてエンクロージャー(第1次)が促進され、耕地の統合、圃区の整理、畦や生け垣の設置が進んだ。この流れは国内の毛織物工業の発達とも連動し、農村から都市への原料供給網を強化した。

展開―共同地から牧羊地へ

対象となったのは共同草地(コモンズ)や三圃制の耕地で、地主・ジェントリが地代収入と羊毛利潤を兼ねて囲い込んだ。併行して賃貸借契約の更新・地代改定が行われ、短期小作から長期リースへ移行する例も生じた。村落の用益権は裁判所で争われることが増え、村役人の合意が得られない場合でも、実力的に生け垣を築く事例が報告されるようになる。

社会的影響―自作農の没落と流動化

エンクロージャー(第1次)は、細分された耕地を失ったコテジャーや自作小農の没落を招き、賃金労働者や放浪民の増加を伴った。人口流出は地域差をもって都市部の労働市場を拡大し、手工業・商業の集積をもたらした。港湾都市や商業中心の台頭は北海・大西洋交易へ通じ、のちの国家財政・海軍力強化の基盤となる。

政治と法―抑制と黙認のあいだ

王権・議会は食糧供給や治安の観点から一時的な抑制法や調査を行ったが、長期的には私有地の効率的経営を黙認する方向へ傾いた。耕地縮小に対する罰金や復旧命令が出される一方で、市場拡大に資する生産性向上が重視され、農政は揺れ動いた。地方では治安判事が貧民対策や労働規制を運用し、村落秩序の再編が進んだ。

地域差と事例

湿潤で牧草に適した中部・東部の州で囲い込みが顕著で、畜産と穀作の比率が地域ごとに再編された。地主の投資余力や市場への近接度、輸送条件が進行速度を左右し、同時代でも推進地域と停滞地域が併存した。村落共同体は合意形成の成否で帰趨が分かれ、合意型の囲い込みは抵抗が比較的少なく、強行型は訴訟・騒擾へ発展しやすかった。

国際商業と海運への波及

羊毛・毛織物の輸出は外貨獲得と商船の増加を促し、港湾や金融の発達を支えた。ネーデルラントの加工・流通機能は依然として強く、16世紀のアントウェルペンや17世紀のアムステルダムは取引の結節点であった。のちに海外進出が加速すると、貿易会社として東インド会社オランダ西インド会社が活動を広げ、毛織物・金属・穀物などの交易網が拡大した。

対外関係と国家競争

交易利得と造船・航海技術の蓄積は海軍力の増強を下支えし、16世紀末の対スペイン戦に影響した。著名な海戦や艦隊動員は国内経済の厚みを反映し、結果として無敵艦隊の遠征とその挫折、ひいてはアルマダ戦争スペインの衰退の文脈で語られることが多い。農村再編が国家競争力の一要素として連関したのである。

都市と市場の再編

農村の労働移動は都市需要を押し上げ、消費市場の拡大を通じて賃金労働の比重を高めた。国内商業は地域間分業を進め、港湾・金融・保険などの周辺部門が発展した。ヨーロッパ商業圏では、低地地方や南ネーデルラント(南部10州)が依然重要な役割を果たし、イングランド産品の販路と価格形成に影響を与えた。

歴史的評価

エンクロージャー(第1次)は、共同体の慣習地を侵食しつつ、土地生産性と家畜生産の集中を進め、資本蓄積と賃労働化を促した。これは後続の大規模な地籍整理や農業革命の前提であり、議会主導の制度改革、海運・金融・対外交易の拡大、さらにはイギリス議会政治の展開とも相関する。初期の囲い込みは、社会的痛みと経済的効率性のせめぎ合いの中で、近世イングランドの国家・社会・経済を長期にわたって規定したのである。