START II
START IIは、アメリカ合衆国とロシアが冷戦後の核軍縮を進めるために署名した戦略兵器削減条約の一つである。戦略核戦力の上限を引き下げるだけでなく、配備形態そのものに踏み込み、特定の大陸間弾道ミサイルの構成を抑制する点に特徴がある。最終的には発効に至らず、後続の軍備管理枠組みへ課題を残した条約として位置づけられる。
成立の背景
START IIが構想された時期は、ソ連解体後に戦略核の管理主体が再編され、国際秩序の不確実性が増した局面である。大量の核兵器を抱える当事国にとって、数の削減と同時に、危機時のエスカレーションを招きやすい運用を抑えることが重要課題となった。こうした問題意識の下で、戦略核の上限設定に加え、抑止の安定性を意識した条項が盛り込まれた。
条約の骨格
START IIは、戦略核弾頭数を一定の範囲へ削減する目標を掲げ、期限内の達成を想定した枠組みであった。同時に、配備手段の内訳に関する考え方を示し、弾道ミサイルの一部運用に制約を課すことで、相手の先制不安を高めうる構成を減らす狙いがあった。
主要なポイント
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戦略核弾頭の上限を引き下げ、削減の工程を設定する。
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複数弾頭を搭載する地上配備型大陸間弾道ミサイルの扱いに強い関心が置かれた。
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削減の実効性を担保するため、検証や手続に関する枠組みが議論の前提となった。
複数弾頭ICBMをめぐる狙い
START IIが注目された理由の一つは、複数弾頭ICBMの整理を通じて、危機時の誤算を減らそうとした点にある。地上配備の固定的な戦力が多数の弾頭を抱えると、相互不信が高まった局面で「先に叩かれる前に動く」という心理が強まりやすいと考えられてきた。そのため、弾頭数の総量管理に加え、配備形態の是正が政策目的として語られた。
MIRVという論点
複数の弾頭を一つのミサイルに搭載する方式は、抑止力の効率を高めうる一方で、相手に対して高い破壊力を短時間で集中させる能力を与える。START IIは、この論点を強く意識し、運用の性質そのものに踏み込む姿勢を示した。
署名と国内手続
START IIは1993年に署名され、各国の批准手続を経て発効する設計であった。しかし、国内政治の力学、財政負担、既存戦力の処理に伴うコスト、そして安全保障環境の変化が重なり、手続は円滑に進まなかった。特にロシア側では、削減が安全保障上の不利につながるとの懸念や、関連する国際環境への条件付けが強まった。
発効に至らなかった要因
条約の運命を左右した要因として、戦略環境の変化と軍備管理の相互依存が挙げられる。象徴的なのがABM条約とミサイル防衛をめぐる対立であり、攻撃兵器の削減と防御の拡大が同時に進むことへの警戒が、条約の政治的支持を弱めた。結果として、最終的にSTART IIは発効しないまま、別の枠組みへ移行する流れが形成された。
国際政治への影響
START IIが発効しなかったことは、軍備管理が単独の条文設計だけで完結せず、当事国の脅威認識や同盟関係、技術政策、国内政治に左右される現実を示した。一方で、戦略核を削減し、運用上の不安定要因を抑えるという発想自体は、その後の交渉にも継承され、戦略核管理の議論に論点を残した。START IIは、冷戦後の軍備管理が直面した構造的な難しさを象徴する事例として理解されている。
理解のための整理
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目的は単なる弾頭数の削減ではなく、危機時の誤算を増幅しうる配備形態への着目にあった。
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批准と実施には、軍事的合理性だけでなく、国内政治と財政、関連条約や防衛政策との整合が不可欠であった。
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発効しなかったこと自体が、軍備管理の条件が時代とともに変動することを示す歴史的材料となった。