SPD|雷・開閉サージから設備保護

SPD

SPD(Surge Protective Device)は、雷サージや開閉サージなど一過性の過電圧から電気・電子機器を保護するために配電系統や信号ラインに挿入する保護デバイスである。瞬時に低インピーダンス経路を形成して過剰なエネルギーを大地へバイパスし、機器の絶縁破壊や誤動作を抑制する。工場の受配電、ビル設備、通信・制御回路、再生可能エネルギー(PV, 風力)など適用範囲は広く、リスク評価に基づく多段保護設計が基本となる。

基本概念と役割

SPDの本質は「通常は回路へ影響を与えず、異常時のみ動作する保護素子」である。雷撃や開閉操作に伴う過電圧が印加されると、クランプ動作により端子間電圧を安全な残留電圧以下へ抑える。これにより絶縁耐力を超えるストレスの印加時間・エネルギーを短縮し、ケーブルや機器の劣化を防止する。

動作原理(クランプと放散)

動作は概ね「トリガ→導通→消弧→復帰」の順に進む。非線形素子が閾値電圧を超えると急峻に導通し、サージ電流を大地側へ流す。サージ波形(例:雷サージの8/20μs, 10/350μs)に応じて、素子は熱的・電気的ストレスに耐えた後、残留電圧を最小限に保つことが求められる。平常復帰後は漏れ電流が小さいことが望ましい。

主要素子の種類

代表的素子は次の三種である。バリスタ(酸化亜鉛、ZnO)は応答が速く、広範囲の電圧でクランプ特性を示す。ガス放電管(GDT)は大電流耐量とサージエネルギー吸収に優れるが点弧遅れとアフターフォローに配慮が要る。シリコンアバランシェダイオード(SAD, TVS)は非常に高速で低残留電圧だが耐量は小さめである。実機ではこれらを組み合わせて多段構成とする。

分類(クラス/T種別と保護階層)

配電系では雷保護レベルに応じてT1(直撃雷由来の大電荷に対応, 10/350μs波形)、T2(配電用, 8/20μs)、T3(機器直前の微細保護)を段階配置する。サービス入口にT1、分電盤にT2、機器近傍にT3という多層配置により、残留エネルギーを段階的に低減し、最終機器でのストレスを最小化する。

定格と主要パラメータ

選定ではUc(連続使用電圧)、Up(残留電圧/保護レベル)、In(公称放電電流, 8/20μs)、Imax(最大放電電流, 8/20μs)、Iimp(インパルス電流, 10/350μs)、応答時間、漏れ電流、短絡保護要否(前置ヒューズ/MCB)などを確認する。配電系の系統電圧、接地方式(TN/TT/IT)、雷リスク、機器の耐圧との整合が肝要である。

配線・設置の要点

配線は極力短く直線的にし、L-PE, N-PE間の総ループ長を最小化する。誘導成分による過渡電圧増大(L di/dt)を避けるため、並行配線・ねじり対策を行う。接地は等電位化を徹底し、母線へ低インピーダンスで接続する。前置保護(ヒューズ/MCB)はメーカー推奨に従い、故障時の安全遮断と協調保護を確保する。

信号・通信ライン向け

低電圧・高速信号にはSADや低容量のGDT+SAD直列などを用いる。イーサネット、RS-485、4-20mA、測温抵抗体(RTD)などは信号帯域とラインインピーダンスを乱さない素子容量の選定が重要である。避雷素子はライン-ライン、ライン-接地の構成で配置し、グランド参照の取り方に整合させる。

PV・再エネ・産業用途の留意点

太陽光発電(DC 1000–1500V級)では極性毎とフレーム接地の保護、逆流・地絡監視装置との協調、アーク抑制を考慮する。風力や長距離ケーブルでは雷サージの進入点が複数となるため、各ノードに段階的SPDを配置し、EMC対策と合わせてシステム全体の耐性を高める。

規格・適合性

評価はIEC 61643シリーズやUL 1449などに基づく。試験波形、エネルギー耐量、残留電圧判定、自己保護機構、過熱・短絡時の安全性が検証対象となる。ラベル記載のクラス/パラメータを読み取り、設計条件と適合させることが、実運用での信頼性確保につながる。

保全・劣化と監視

バリスタは繰返しサージで劣化し、漏れ電流の増大やクランプ特性の変化を招く。モジュール式SPDは熱遮断機構や状態表示(緑/赤窓、ドライ接点)を備え、定期点検や設備監視へ連携可能である。雷多発地域や重要負荷では予防交換や履歴管理を推奨する。

よくある設計上の落とし穴

配線インダクタンスの過小評価

理論値のUpだけを見て長い引き回しを行うと、配線インダクタンスにより実効残留電圧が大きく上振れする。端子直近・短配線が原則である。

段階協調の欠如

T1なしでT2のみを設置したり、T3のみで最終機器を守ろうとすると、期待耐量を超えるサージが侵入しやすい。入口から末端までの一貫設計が必要である。

前置保護・遮断協調不備

SPD故障時に前置ヒューズが遮断せず、二次災害となる例がある。選定段階で遮断器の定格・I²tとSPDの故障様相を照合する。

設計手順の指針

  1. 雷環境・系統方式・負荷耐圧を把握し、保護目標電圧を設定する。
  2. 入口(T1)—分電盤(T2)—機器直前(T3)の多段構成を定める。
  3. 各段でUc/Up/In/Imax/Iimpを整合させ、前置保護器と協調させる。
  4. 配線レイアウトと接地の等電位化を設計し、配線長を最小化する。
  5. 点検・交換容易なモジュール構造と状態監視を組み込む。

関連する概念との位置づけ

SPDはサージ抑制を担い、無停電電源(UPS)や電圧ディップ対策、接地・ボンディング、EMI/EMCフィルタなどと併用される。電源品質の総合設計では、これらを競合ではなく補完要素として配置し、期待される運用信頼度に見合ったリスク低減を図ることが重要である。