PT100
PT100は、0℃における公称抵抗値が100Ωである白金測温抵抗体で、工業計測で広く用いられる温度センサである。白金の電気抵抗は温度とともに安定に増加するため、再現性・直線性・長期安定性に優れ、-200〜650℃程度の広い範囲で信頼できる測定が可能である。規格はIEC 60751(JIS C 1604相当)により材料係数や許容差が定義され、代表的な温度係数はα=0.00385である。
原理と基本仕様
PT100は白金素子(薄膜または巻線)の温度変化に伴う抵抗変化を読み取るものである。0℃でR0=100Ω、温度上昇により抵抗がほぼ比例的に増加する。素子はセラミックやガラス封止で保護され、シースやプローブ形状に実装される。測定レンジや応答時間、許容差は用途に応じて選定する。
抵抗–温度特性(R–T特性)
おおよそ0〜100℃では一次近似式R(T)=R0(1+αT)が使える。より広範囲ではCallendar–Van Dusen式が一般に用いられる。T≥0℃ではR(T)=R0(1+AT+BT^2)、T<0℃ではR(T)=R0[1+AT+BT^2+C(T-100)T^3]で表され、α=0.00385系の代表値はA=3.9083×10^-3、B=-5.775×10^-7、C=-4.183×10^-12である。これによりPT100の抵抗値から温度を高精度に換算できる。
精度クラスと許容差
IEC 60751は許容差をクラスAA・A・Bなどで規定する。代表例として、クラスAAは±(0.1+0.0017|T|)℃、クラスAは±(0.15+0.002|T|)℃、クラスBは±(0.3+0.005|T|)℃である(Tは℃)。高精度なプロセス制御にはAAやA、汎用監視にはBが選ばれることが多い。許容差はセンサ単体の誤差であり、計測回路や配線の影響を別途考慮する必要がある。
配線方式とリード補償
PT100の読み取り精度はリード線抵抗の影響を大きく受ける。2線式は配線が簡単だが誤差が大きく、3線式は工業用途で一般的で、ブリッジでリード抵抗を近似相殺する。4線式は最も高精度で、電流供給と電圧検出を分離しリード抵抗の影響をほぼ排除できる。長距離配線や低温域の高精度測定には4線式が推奨される。
計測回路の要点
代表的な読み取り法は、定電流源でPT100に微小電流を流し、両端電圧から抵抗値を算出する方式である。Wheatstone bridgeと計装アンプを組み合わせる手法も多い。ADC直結では基準抵抗と比率測定を行い、分解能・ノイズ・ドリフトを抑える。アナログ前段の低ノイズ化、50/60Hzノッチや差動計測、自己発熱対策が重要となる。
実装上の注意
励起電流は0.1〜1mA程度が一般的である。大きすぎると自己発熱で温度を押し上げるため、応答性や熱抵抗を考慮して最小限とする。シールド・ツイストペア・適切な接地でノイズを低減し、湿潤環境では絶縁劣化やリークに留意する。
自己発熱と応答性
自己発熱はI^2Rで増加し、素子が熱的に周囲と平衡するまでの遅れ(時定数)にも影響する。薄膜素子は熱容量が小さく応答が速い一方、巻線素子は長期安定性や高温域での信頼性に優れる。プローブ径や取付方法、熱伝導グリースの使用は熱時定数を大きく左右する。
自己発熱の低減策
励起電流の最適化、パルス励起やデューティ制御、測定時間の短縮、放熱性の高いプローブ選定により誤差を抑制できる。校正時は実運用と同じ励起条件に合わせることが望ましい。
構造と形態(薄膜/巻線)
薄膜型は小型・低コスト・量産性に優れ、-50〜400℃程度で多用される。巻線型は白金線をセラミックやガラスに巻回し、-200℃付近の低温域や高温域での安定性に強みがある。機械的衝撃や熱サイクル耐性、雰囲気(腐食性・圧力)に応じてシース材質(ステンレス等)や保護管を選ぶ。
校正とトレーサビリティ
PT100は氷点セル(0℃)や定点セル(例えばZn、Sn)を用いた基準校正により不確かさを評価する。運用上は多点校正(例:0℃、100℃、適用温度近傍)により系統誤差を補正する。計測器・基準抵抗・定電流源のトレーサビリティを確保し、環境要因(湿度・電源ノイズ)を管理することが高信頼化に直結する。
応用と選定の勘所
プロセス計装、HVAC、化学プラント、食品・医薬のバリデーション、試験設備などでPT100は標準的選択肢である。選定では①温度範囲、②許容差クラス、③配線方式、④応答性(時定数)、⑤ハウジングと取付、⑥耐環境性、⑦計測回路との総合不確かさを総合評価する。温度サイクルや振動が厳しい場合は巻線型や堅牢プローブを検討する。
安全・規格への適合
法規・規格への適合は信頼性確保に不可欠である。IEC 60751(JIS C 1604)に基づく特性・許容差の適合確認、絶縁抵抗・耐電圧の確認、プロセス接液部の材質適合、必要に応じた防爆構造(Ex)や衛生仕様の選定を行う。文書化とトレーサビリティを維持し、変更管理と再校正の計画を運用に組み込むことが望ましい。