PROFINET
PROFINETは産業用イーサネットの国際規格であり、IEC 61158/61784に準拠したオープンな通信方式である。フィールドレベルのセンサ・アクチュエータからコントローラ、さらに上位の情報系までを単一のイーサネット基盤で連結し、リアルタイム制御と高い診断性を両立する点に特色がある。従来のフィールドバスの資産を継承しつつ、RT(Real Time)およびIRT(Isochronous Real Time)により周期制御を実現し、工程の同期化やモーション制御にも適用できる設計思想を持つ。
基本構成とデバイス役割
PROFINETでは論理役割としてIO-Controller(PLC等の制御器)、IO-Device(リモートI/O、ドライブ、センサ等)、IO-Supervisor(エンジニアリング/診断ツール)が定義される。各デバイスはGSDML(XMLベース)で機能・パラメータを記述し、ツールへ取込むことで設定・I/Oマッピング・診断が一貫化される。機器識別はDCPによるステーション名設定とIP割当で行い、LLDPにより隣接情報やトポロジを自動収集する設計である。
通信クラスとリアルタイム性
PROFINETの通信は用途に応じて階層化される。一般トラフィックはTCP/IP、制御周期用途はRTが用いられ、モーション等の厳密な等時性にはIRTが採用される。IRTではイーサネットの送信スケジュールを時間分割し、干渉を抑えた決定論的通信を実現する。結果として制御周期はミリ秒オーダからサブミリ秒領域まで短縮可能で、ジッタを抑制した同期運転に適する。
コンフォーマンスクラスと適用範囲
PROFINETは適合性の観点からCC-A(基本通信・診断)、CC-B(スイッチ管理・高度診断)、CC-C(IRT・高度同期)へ区分される。一般離散制御はCC-A/Bで十分な場合が多く、モーション用途や軸間同期にはCC-Cが選択される。近年はタイムセンシティブネットワーキング(TSN)を活用する拡張や、プロセス分野向けのEthernet-APLと組み合わせた長距離・安全供給電の適用も進む。
ネットワーク設計と冗長化
PROFINETはライン、スター、ツリーに柔軟対応し、装置間の配線最適化を図れる。リング構成ではMRP(Media Redundancy Protocol)によりリンク断時の経路切替を自動化する。トラフィック制御ではVLANおよび優先度(IEEE 802.1Q/1p)を用い、制御フレームの遅延を抑制する。制御/情報系の分離、セル化、アクセス制御リストの適用は堅牢化の基本方針である。
エンジニアリングと保全
導入時はGSDMLを取り込み、入出力サイズやパラメータを一括設定する。稼働中はデバイスのI&Mレコード(Identification & Maintenance)により型式・シリアル・ファームウェア等を参照でき、異常はアラーム/診断として上位に通知される。ケーブル断・電源低下といった物理層の障害から、I/O異常などのアプリ層診断まで層別に可視化され、予防保全に有効である。
時間同期(PTP)
PROFINETの等時同期はPTP(IEEE 1588)に基づく。ネットワーク内でグランドマスタが選出され、装置間の時刻を微小な誤差で整合する。これにより多軸サーボの同期、タイムスタンプ付き計測、時系列相関解析が可能となる。設計時はスイッチのPTP透過性や境界クロック機能を考慮し、階層の遅延揺らぎを抑えるのが要点である。
統合と上位連携
PROFINETは同一物理インフラ上でOPC UA等の情報系プロトコルと共存運用できる。これにより装置の稼働データを上位分析へ公開し、状態監視や品質トレーサビリティに活用可能である。製造実行系やクラウド分析と連携する際は、制御帯域と情報帯域の分離、優先制御、帯域見積りを明確化して干渉を防ぐ。
物理層・配線とコネクタ
一般に100BASE-TX(フルデュプレックス)を用い、工業環境では耐油・耐ノイズのツイストペアケーブルを採用する。現場機器ではM12(Dコード/RJ45変換を含む)コネクタが広く使われ、振動対策や引張強度の観点で有利である。長距離や防爆領域ではEthernet-APLや光ファイバの検討も有効である。
診断・可観測性
トポロジ自動認識(LLDP)、ポート毎のリンク・エラーカウンタ、アラーム分類(モジュール欠落、パラメータ不整合等)により、障害箇所の切り分けが迅速化する。スイッチのミラーリングやパケットキャプチャを用い、周期フレームの遅延・ドロップ・ジッタを観測することで、設定不整合や輻輳の早期発見が可能である。
安全とセキュリティ
機能安全は関連プロファイル(例:ドラ イ ブ向け)と併用されることがある。ネットワークセキュリティではセル保護の考え方を重視し、産業境界でのファイアウォール、アクセス制御、資産台帳の整備、変更管理を行う。エンジニアリング時のプロジェクト署名、ユーザ認証、ログ監査は不正操作や誤設定の抑止に寄与する。
設計・評価の実務要点
- 負荷計画:I/O点数、サイクル、更新周期から帯域と余裕率を算出する。
- 優先制御:QoSとVLANで制御トラフィックの遅延を最小化する。
- 冗長性:MRPの収束時間と装置の再試行挙動を検証する。
- 時刻同期:PTPドメイン、境界クロック配置、アワレネス設定を整える。
- 据付:接地、シールド、配線分離(動力/信号)を徹底し、ノイズを抑える。
トラブルシュートの勘所
名前重複やIP競合、誤ったGSDMLバージョン、スイッチの優先度未設定は典型的な不具合要因である。まずDCPでデバイス識別、LLDPでトポロジ確認、リンク統計で物理層健全性を点検し、必要に応じてミラーリングでトラフィック解析を行う。周期のばらつきやアラーム頻発は、帯域不足やPTP構成不備の兆候として疑うべきである。
応用分野と拡張
PROFINETは離散・プロセスの双方で用いられ、ロボット・搬送・包装などの高速同期から、設備診断や品質記録のデータ収集までを一網化できる。将来的なTSN活用やEthernet-APLとの統合により、長距離・低電力・本質安全領域まで適用範囲を広げやすいアーキテクチャである。