PID現象|高電位差が誘発する出力低下と劣化

PID現象

PID現象(Potential-Induced Degradation)は、太陽電池モジュールに高い電位差が長時間印加されることで生じる出力低下である。主因はガラス−封止材−セル界面におけるナトリウムイオン移動や電荷蓄積によるセルのシャント(並列漏れ)増大で、結果として開放電圧の低下、フィルファクタ(FF)の悪化、最大出力(Pmax)の顕著な減少を招く。とりわけシステム電圧が1000〜1500V級で、負極側にモジュールが配置され、かつ高温高湿環境が重なると発生リスクが高まる。

発生メカニズム

PIDは、モジュール表面のソーダライムガラス由来のNa+が電界と湿気を媒介にセル近傍へ移動し、表面パッシベーション層(SiNxなど)の帯電状態を変化させ、表面再結合の増大とシャント路形成を誘起することで進行する。セルの見かけ並列抵抗Rshが低下し、I–V曲線の傾きがVoc近傍で増す。EVAやPOEなど封止材のイオンバリア性、エッジシールの品質、フレーム周りの電位勾配が重要因子となる。

影響と典型症状

電力変換レベルではPmaxが急減し、ストリング出力のバラツキが拡大する。I–V曲線はVoc低下とFF劣化が顕在化し、短絡電流Iscは変化が小さいか軽度の減少に留まることが多い。EL(エレクトロルミネッセンス)画像では、セル全体の暗化や縞状の暗部が見られ、IR(サーモ)ではホットスポットの誘発可能性が高まる。

発生条件

  • 高システム電圧:1000V/1500V級の直列長大ストリング
  • 極性条件:負極バスがモジュール側にある構成(トランスレスPCSで顕著)
  • 環境:温度40–85℃、相対湿度60–85%の高温高湿暴露
  • 材料・構造:ガラス中Na含有、封止材の水蒸気透過、端部シール欠陥

診断手法

現場ではストリング監視のトレンドから相対低下を特定し、I–Vスキャナで曲線形状を確認する。ELは最も感度が高く、均一暗化やパターン暗化がPIDの指標となる。補助的に絶縁抵抗監視や漏れ電流監視を用いる。比較のため健全ストリングとの同条件測定を行い、温度・日射補正を適用することが望ましい。

試験規格

PID耐性はIEC 62804シリーズに基づく試験で評価される。代表例として85℃/85%RH、±1000V(もしくはそれ以上)を所定時間印加し、Pmax低下率(例:≤5%などの判定基準)で合否を判断する。試験はセル構造や封止材差を顕在化させるため、モジュール調達時の重要な比較指標となる。

予防策(モジュール側)

  • 材料選定:Na拡散の抑制に優れるガラス、低イオン透過の封止材(POE等)、高品質エッジシール
  • セル工程:表面パッシベーションやSiNx膜の最適化、ガラスとの界面制御
  • フレーム・接地:フレーム接地の適正化、電位勾配を緩和する構造配慮

予防策(システム設計・運用)

  1. 極性管理:負極側に過度な負バイアスが集中しないストリング配列
  2. インバータ選定:トランス絶縁型や夜間正バイアス付与機能(いわゆるPID対策機能)
  3. 環境対策:温湿度の抑制、背面換気、塩害・アンモニア環境への耐性設計
  4. メンテ:早期の微小出力低下を検知する監視と定期I–V/EL点検

回復・リメディエーション

稼働中のアレイでは、夜間に正のバイアスを印加して電荷分布を反転させ、性能を部分回復させる手法(通称PIDボックス)がある。熱処理や乾燥保管で改善する場合もあるが、材料起因の恒久ダメージは回復限界がある。再発防止のため、運用と設計の両面で対策を継続する。

PIDボックスの原理

夜間にストリングへ対向極性の電位を与え、セル近傍の帯電・イオン分布を緩和する。効果は進行度や材料に依存し、完全復旧を保証するものではない。

他の劣化現象との差異

LID/LeTIDはドーパントや熱過程に起因する光誘起・温度依存劣化で、主としてキャリア寿命低下が主体であるのに対し、PID現象は高電位印加と環境要因によるシャント化が主因である。セルクラックやスネイルトレイルは機械・化学的起点で、EL像やI–V挙動が異なる。

I–V解析視点の要点

回路モデルでは並列抵抗Rshの低下と、場合によっては直列抵抗Rsの増加が見られる。Rsh低下はVoc低下とFF悪化を同時に招くため、P–V曲線のピークが鋭く低くなる。ストリング単位の相対比較と温度・日射の標準化が診断精度を左右する。

1500V時代の設計留意点

1500V化はBOS低減の利点がある反面、PID現象の駆動力を増す。従って、PID耐性認証済みモジュールの採用、夜間バイアス機能の活用、アレイの極性対称化、配線の漏れ路最小化、接地設計の見直しが必須である。高温多湿地域やアンモニア・塩害環境では、封止材・エッジシールの格上げを検討する。

実務ヒント

据付後早期のベースラインEL取得、季節ごとのI–V再測定、ストリング間の閾値監視(例:平均−2σで要点検)を運用標準とし、軽微な兆候段階で介入することが長期のLCOE最適化に資する。

用語メモ

  • PID:Potential-Induced Degradation(電位誘起劣化)
  • EL:Electroluminescence(欠陥・導通の可視化)
  • IEC 62804:PID耐性評価の国際規格
  • Rsh/Rs/FF:並列抵抗・直列抵抗・フィルファクタの指標