MK滋石鋼|三島徳七が発明した日本発の強力磁石

MK滋石鋼

MK滋石鋼(えむけーじしゃくこう)は、1931年(昭和6年)に日本の冶金学者である三島徳七によって発明された画期的な永久磁石合金である。鉄、ニッケルアルミニウムを主成分とするこの合金は、それ以前に世界最強とされていた本多幸太郎開発のKS鋼を大幅に上回る保磁力を備えていた。低コストな材料を用いながら、熱や振動に対する優れた安定性を持ち、小型化が容易であったことから、ラジオのスピーカーや電気通信機器、航空機、自動車用計器など幅広い分野の近代化に決定的な役割を果たした。磁石技術の歴史において「析出硬化型磁石」という新たな領域を切り拓いたMK滋石鋼は、後に世界中で普及するアルニコ磁石の直接的な先駆けとなり、日本を代表する発明の一つとして高く評価されている。

発明の経緯と名称の由来

MK滋石鋼の発明は、東京帝国大学(現在の東京大学)の助教授であった三島徳七の研究によってもたらされた。当時、強力な磁石を作るためには高価なコバルトを多量に含む必要があったが、三島はニッケル合金の研究過程で、磁石になりにくい性質(軟磁性)を持つパーマロイの加工屑が磁石に強く吸着することに気づき、これをヒントに研究を重ねた。1931年、鉄に約25%のニッケルと約10%のアルミニウムを配合した合金が、非常に高い保磁力を示すことを発見したのである。名称の「MK」は、三島自身の姓「Mishima」と、彼の生家である喜住家の頭文字「Kizumi」から取られたもので、自身のルーツと恩師への敬意が込められている。このMK滋石鋼の発明により、三島は後に「日本の十大発明家」の一人に選出されることとなった。

組成と物理的特性

MK滋石鋼の最大の特徴は、コバルトを必要としない「鉄・ニッケル・アルミニウム系合金」である点にある。従来の磁石が焼入れによって硬度を高めることで磁力を保持していたのに対し、MK滋石鋼は「析出硬化」と呼ばれる現象を利用している。これは、高温の状態から冷却する過程で、母相の中に微細な粒子が析出することで磁壁の移動を妨げ、強力な保磁力を生み出す仕組みである。この特性により、MK滋石鋼は物理的な衝撃や温度変化にさらされても磁力が減衰しにくく、極めて高い信頼性を確保することに成功した。

項目 詳細
主成分 (Fe)、ニッケル (Ni)、アルミニウム (Al)
保磁力 約400〜500エルステッド(KS鋼の約2倍)
硬化方式 析出硬化(時効硬化)
耐熱性 極めて良好(数百度の高温下でも安定)

KS鋼との比較と技術的優位性

1917年に発明されたKS鋼は、当時の磁石界に革命を起こしたが、高価なコバルトを30〜40%も含むため製造コストが高いという課題があった。これに対し、MK滋石鋼は希少金属であるコバルトを使用せず、安価なアルミニウム等で代替しながらも、保磁力においてKS鋼の約2倍という驚異的な性能を達成した。また、KS鋼は複雑な形状への加工が難しかったが、MK滋石鋼は鋳造によって自由な形状に成形することができ、小型のボタン型磁石から大型の産業用磁石まで量産が可能となった。この経済性と機能性の両立が、磁石の利用範囲を民生品へと一気に広げる要因となったのである。

産業界への貢献と応用分野

MK滋石鋼の普及は、20世紀半ばの工業製品の設計思想を根本から変えた。特に音響機器の分野では、強力かつ安定した磁力を持つMK滋石鋼の採用により、スピーカーの小型化と高音質化が劇的に進んだ。また、通信機においては、真空管を用いた無線装置の感度向上に寄与し、戦時中から戦後にかけての通信技術の発展を支えた。航空機のエンジン点火装置や発電機、電圧計などの精密計器においても、振動に強いMK滋石鋼は不可欠な素材となり、現代の高度な機械文明を形作るための礎を築いたのである。その製造技術は東京鋼材(現在の三菱製鋼)などによって工業化され、日本の輸出産業を牽引する一翼を担った。

アルニコ磁石への進化と現代的意義

MK滋石鋼の基本組成にコバルトや銅、チタンなどを微量添加することで、さらに性能を向上させたものが、現在も広く使われている「アルニコ磁石」である。1930年代後半から世界中で改良が進められたが、その根幹にある「Fe-Ni-Al系析出硬化」という原理は、三島徳七が確立したものである。今日では、より強力なネオジム磁石や安価なフェライト磁石に主役の座を譲っているものの、耐熱性が要求されるセンサー類や特殊なモーター、教育用の教材など、特定の用途では依然としてその系譜を継ぐ磁石が活躍している。MK滋石鋼の発明は、材料科学における理論的発見が社会実装を経て世界標準へと昇華した、日本の科学史に残る金字塔といえる。

歴史的顕彰

三島徳七の功績は国内のみならず国際的にも高く評価されており、1950年には文化勲章を受章した。MK滋石鋼のサンプルや関連資料は、国立科学博物館などに収蔵・展示されており、科学技術教育の現場でも重要な教材として扱われている。また、彼の故郷である兵庫県には記念碑が建てられており、そこには2本のMK滋石鋼が磁力で反発し、一方が宙に浮いている様子が象徴的に刻まれている。この「磁石の力で物を浮かす」というシンプルかつ驚異的な光景こそが、三島が追い求めた科学の可能性を物語っている。

  • 日本の冶金学の父、本多幸太郎との師弟関係に近い競い合いが技術革新を加速させた。
  • 第二次世界大戦中、レーダーや無線機の高性能化に貢献した背景がある。
  • 特許料収入は当時の大学予算を補うほど多額であり、研究環境の整備に充てられた。
  • 現代のハイテク製品に使用される磁性材料研究の原点として、今なお論文に引用される。