MEMSピエゾ抵抗式|微小圧力・応力を抵抗変化で検出

MEMSピエゾ抵抗式

MEMSピエゾ抵抗式は、シリコンなどの半導体に生じるピエゾ抵抗効果(機械的ひずみにより電気抵抗が変化する現象)を利用して、圧力・加速度・力・ひずみを電気信号に変換する微小電気機械システムである。微細加工により形成した薄膜ダイアフラムや梁に拡散・イオン注入で抵抗素子を配置し、ホイートストンブリッジで微小な抵抗変化を差動検出するのが基本構成である。微小化と量産適合性、アナログ前段との一体化容易性により、産業用センサから自動車・医療機器まで広範に用いられている。

動作原理と材料特性

MEMSピエゾ抵抗式は、無次元のゲージ係数GF = (ΔR/R)/εを介して、機械ひずみεを抵抗比変化ΔR/Rに写像する。単結晶シリコンでは結晶方位とドーピング型(p/n)によりピエゾ抵抗係数πが異なり、<110>方位のp型ゲージは高い感度を示す。抵抗素子はダイアフラム上の最大主応力部位(固定縁近傍など)に配置し、引張/圧縮が対向するようブリッジに組むことで、温度ドリフトや共通モードひずみのキャンセルを狙う。

ブリッジ出力の近似式

ホイートストンブリッジの微小信号近似では、出力電圧はVout ≈ (Vexc/4)·GF·εdiffで表せる。ここでVexcは励起電圧、εdiffはブリッジ2臂の差ひずみである。実務ではブリッジ抵抗のばらつき、配線抵抗、温度係数(TCR)を含めた感度・オフセットモデルを立て、前段アンプとA/Dのダイナミクスに合わせて最適化する。

構造と製造プロセス

MEMSピエゾ抵抗式の典型はシリコンダイアフラム圧力センサである。バルクマイクロマシニングではKOH等の異方性エッチングやDRIE(深堀りRIE)でキャビティを形成し、SOI基板や接合(アノード/フュージョン)で薄膜を制御する。抵抗は拡散・イオン注入後にパターニングし、SiO2/SiNでパッシベーションを施す。金属配線(Al/Cu)とガラス基板封止、必要に応じて真空基準のキャビティ化を行う。

表面/バルク手法の使い分け

表面マイクロマシニングは薄膜積層による自由度が高く、小型梁・加速度センサに適する。一方、バルクは厚み精度と機械強度に優れ、過圧耐性が求められる圧力センサに向く。いずれもウエハーレベルでの歩留まりと残留応力管理が重要である。

回路・信号調整

ブリッジの微小差動信号は低ノイズ計装アンプで増幅し、ローパスで帯域整形後にA/D変換する。温度補償は抵抗比の最適配置に加え、オンチップ温度センサとデジタル補正(直線/多項式/テーブル)を併用する。励起は電圧/電流のいずれも用いられるが、自己発熱と電源効率、ノイズ(ジョンソン/1/f)を総合的に評価する。

  • ブリッジ励起:低ドリフト基準源とリップル抑制が要点である。
  • アンプ設計:入力換算雑音とCMRR、オフセット漂遊を支配因子とする。
  • デジタル補正:工場校正で取得した多点データを不揮発メモリに格納する。

設計指針(圧力センサ)

正方形ダイアフラム(辺a、厚さt)の中心変位や縁応力は板理論で近似でき、感度は概ね∝ (a/t)2に増す一方、非線形と破壊強度の余裕が減少する。固定縁に近い高応力域へ抵抗を配置し、電気配線は応力勾配の小さい経路を通す。過圧対策としてメカニカルストッパやオイル封入の媒体隔離構造を併用し、ゼロ点飛びやヒステリシスを抑える。

  • 寸法最適化:応力集中を避けるフィレットとコーナー設計を行う。
  • 耐環境:湿度・腐食媒体に対し、パッシベーションと封止材を選定する。
  • ESD/サージ:入力保護素子とガードリングで堅牢性を確保する。

温度補償とトリミング

抵抗のTCRやひずみ係数の温度依存により、感度とオフセットは温度で変動する。ダミー抵抗の配置で一次項を抑え、レーザトリムやデジタル係数で残差を補正する。製造ばらつきに対してはウエハーマッピングを活用し、ロットごとの係数管理を行う。

性能指標と評価

MEMSピエゾ抵抗式の評価は、感度、直線性、フルスケール出力、ゼロ点、ヒステリシス、繰返し性、温度ドリフト(TCZ、TCS)、ノイズ密度、帯域、過圧復帰性などで行う。測定治具は基準センサとのトレーサビリティを確保し、昇圧・降圧の双方向スイープで履歴効果を確認する。長期安定性は高温動作寿命(HTOL)や温湿度バイアス(85/85)で評価し、ドリフト要因を分離する。

パッケージングと媒体隔離

ステンレス隔膜とシリコンオイルで媒体隔離し、腐食性流体や医療用途に適合させる構成が一般的である。パッケージは気密性と応力伝達の両立が要件で、封止応力やCTE差に起因するオフセットを最小化するため、接着剤硬化条件とフレーム設計を最適化する。

応用領域

MEMSピエゾ抵抗式は、絶対圧・ゲージ圧センサや差圧流量計の検出部、車載マニホールド圧・タイヤ圧監視、医療のカテーテル内圧、民生の気圧高度計、また小梁と重りを組む加速度センサやフォースセンサとして広く採用される。微細加工と回路の一体化により、小型・低消費電力・高感度なセンシングを実現できる。

実装・量産での留意点

量産ではウエハーレベル校正、ダイソーティング、トレイサビリティ管理が品質を左右する。はんだ実装やワイヤボンドの熱履歴は残留応力の源となるため、実装後のゼロ点検証を工程に組み込む。さらに、パッケージ開口からの湿気侵入、シール剤のアウトガス、長期の金属電極劣化に対するFMEAを予防的に実施する。

まとめの前提知識

MEMSピエゾ抵抗式の性能は、①結晶方位/ドーピングに基づく材料選択、②ダイアフラムや梁の応力設計、③ブリッジ配置と温度補償、④パッケージと媒体隔離、⑤校正・デジタル補正という層で最適化される。各層の寄与をモデル化して設計指標に落とし込むことが、安定で再現性の高いセンシングの鍵である。