LoRa|遠距離低消費のLPWAN規格

LoRa

LoRaは長距離・低消費電力通信を指向した無線方式であり、産業IoTやスマートメータ、農業、社会インフラ監視などで広く用いられる。物理層は後述のCSS(Chirp Spread Spectrum)を採用し、狭帯域受信の感度を大幅に高めつつ、低ビットレートで数km〜十数km級の到達距離を実現する。LPWA(Low Power Wide Area)の代表格として、都市部のセンサ群から間欠的・小容量データを省電力で収集できる点に価値がある。上位層であるLoRaWAN仕様を併用することで、多数端末の認証・暗号化・ゲートウェイ中継・ネットワーク管理を体系的に扱える。

概要と特徴

LoRaは免許不要帯域を活用し、端末はスリープ中心の動作で電池寿命を年単位に延ばせる。通信は主に小さな上りパケットが中心で、双方向にも対応するがダウンリンク頻度は抑える設計が一般的である。干渉を避けやすい拡散変調と高感度受信により、ビル陰・樹木越しでも到達性が高い。

周波数帯と規制

日本では920MHz帯、欧州では868MHz帯、北米では915MHz帯のように地域ごとに周波数や送信出力・占有率(Duty Cycle)が定められる。LoRa設計では各国規制への適合、チャネルプラン、送信間隔の管理が要点である。既存のWi-FiやZigbeeと干渉源が異なるため、用途に応じた棲み分けが可能である。

物理層:拡散変調(CSS)

LoRaは掃引周波数を用いるCSSにより多値拡散を行い、広い処理利得を得る。拡散率(Spreading Factor, SF)と帯域幅(BW)・符号化率(CR)の選択で到達距離とスループットがトレードオフとなる。一般にSFを上げるほど感度が向上して長距離化できるが、空中占有時間は増大する。

通信範囲とリンクバジェット設計

リンクバジェットは送信電力、アンテナ利得、ケーブル損失、自由空間・遮蔽減衰、受信感度で評価する。都市部で数km、郊外〜見通しでは十数kmの実績が多い。屋内では床・壁の減衰を見込み、ゲートウェイ位置やアンテナ高、指向性最適化を詰める。目標受信マージン(例:10〜20dB)を確保する設計が望ましい。

ネットワーク構成とLoRaWAN

LoRa単体は物理層であり、LoRaWANはMAC層・ネットワーク層相当を定義する。クラスA/B/C端末の受信ウィンドウ挙動、ADR(Adaptive Data Rate)によるレート最適化、Join手順、ゲートウェイ〜ネットワークサーバ〜アプリケーションサーバの分離構造などが要点である。大規模化ではサーバ冗長化と可観測性(メトリクス収集)が重要となる。

セキュリティと鍵管理

LoRaWANはAES-128を用いた暗号化・認証を前提とし、NwkSKey/AppSKey(またはFNwkSIntKey/SNwkSIntKey/AppSKey等の分化)を安全に管理する。OTAAによる動的セッション鍵生成が推奨で、出荷時のDevEUI/JoinEUI管理とセキュアエレメント採用が実運用の堅牢性を高める。

代表的な用途

  • 社会インフラ監視:河川水位、橋梁ひずみ、マンホール開閉検知
  • 設備保全:振動・温度・電流の傾向監視と予兆保全
  • スマートメータ・環境計測:電力・ガス・CO₂・PM測定
  • 農業・畜産:土壌水分、家畜位置管理、ビニールハウス環境制御

上記は小容量・低頻度の送信に適し、リアルタイム性より省電力・到達性を重視するケースで効果的である。

設計上の留意点(アンテナ/給電/筐体)

アンテナは周波数同調と実装周辺の影響(グラウンド、筐体、近接部品)を考慮する。電池駆動ではスリープ電流、送信ピーク電流、レギュレータ損失を最小化する。屋外筐体はIP等級、結露対策、避雷・サージ保護を施し、接地設計と落雷対策を評価する。

実験・評価手法

電波暗室や簡易リグでの放射特性確認、街区でのドライブテスト、屋内フロアプラン上のRSSI/SNRマッピングを行う。ペイロードは冗長なテストビット列を使い、受信成功率、再送回数、ADR収束、電池消費を定点観測する。干渉時の復元性やゲートウェイ冗長化の効果も記録する。

規格とエコシステム

LoRaは上位システムと多様に連携できる。フィールドバスや産業用ネットワークとの橋渡しにはModbusやProfibus、センサ接続にはIO-Linkが想起される。上位側のバックホールにはEthernet、レガシー装置との接続にRS-232・RS-485が活用される。用途により近距離のWi-Fi・Zigbeeや工場のDeviceNetと役割分担し、システム全体として最適化する構成が望ましい。

実装パラメータの選定指針

SF・BW・CRはサービス要件(到達距離、同時接続密度、電池寿命、法規制)から逆算して決める。パケットはヘッダ・メタ情報を最小限にし、再送や冗長符号化により実効到達率を高める。ゲートウェイは高度・視通・バックホール冗長を優先し、都市部ではセル分割とチャネル再利用で収容力を確保する。