ILO失業率|国際労働機関が定義する基準に基づいて計測された失業率

ILO失業率

ILO失業率は、国際労働機関(International Labour Organization, ILO)が定義する基準に基づいて計測された失業率である。ILO失業率は、労働市場の健康状態を評価するための国際的な標準指標とされており、各国の労働力調査において広く採用されている。ILO失業率は、一定の基準に従って、仕事を持たず、かつ積極的に仕事を探している労働力人口の割合を示すものであり、国際比較において一貫性のある失業統計を提供する。

ILO失業率の定義

ILO失業率は、ILOが定めた統一基準に基づいて計測される。具体的には、以下の3つの条件を満たす者が失業者と定義される:

  1. 仕事を持たない: 調査期間中に報酬を伴う仕事に従事していない者。
  2. 仕事を探している: 過去4週間以内に積極的に仕事を探す活動を行った者。具体的には、求人応募、面接、職業紹介所への登録、友人や家族を通じた仕事探しなどが含まれる。
  3. 仕事に就くことができる: 調査期間中に仕事が見つかれば、すぐに就業可能である者。

これらの基準に基づいて、失業者数が労働力人口に占める割合が失業率として計算される。労働力人口には、15歳以上の就業者および失業者が含まれるが、学生や専業主婦、引退者などの非労働力人口は含まれない。

ILO失業率の計算方法

ILO失業率は、次の式によって計算される:

失業率 = (失業者数 / 労働力人口) × 100

ここで、「労働力人口」は、15歳以上の就業者および失業者の合計であり、「失業者数」は上記のILO基準に基づいて定義された失業者の数である。これにより、国際的に比較可能な形で各国の失業率を計測することができる。

労働力調査

ILO失業率のデータは、各国で実施される労働力調査をもとに収集される。労働力調査は、国の統計機関が定期的に実施する世帯調査であり、無作為に選ばれた世帯を対象に、就業状況や仕事探しの状況などを詳細に尋ねる。調査結果は、統計的手法を用いて国全体の労働市場状況を反映するように集計される。

ILO失業率の重要性

ILO失業率は、労働市場の健全性を評価するための重要な指標である。この指標は、政府、企業、国際機関にとって、経済政策の策定や労働市場の動向を理解するための基礎データとして利用される。また、ILO失業率は、経済の景気サイクルを評価する上で重要な役割を果たしており、失業率の上昇は景気後退の兆候とされる一方、失業率の低下は経済成長を示すことが多い。

経済政策への影響

失業率は、経済政策の方向性を決定する上で重要な要素である。高い失業率は、政府が景気刺激策や雇用対策を強化する必要があることを示唆する。一方、低い失業率は、インフレ圧力を抑えるための金融引き締め政策を促すことがある。ILO失業率は、このような政策決定において、客観的かつ国際的に比較可能なデータを提供する。

社会的影響

失業率は、単に経済的な指標にとどまらず、社会的な影響も持つ。高い失業率は、所得格差の拡大、貧困の増加、社会的不安の原因となることがある。これにより、政府や非政府組織が社会福祉政策や再就職支援プログラムを強化する必要が生じる。ILO失業率は、こうした社会問題に対する対応策を立案するための基礎情報を提供する。

ILO失業率の課題と限界

ILO失業率は、労働市場の状況を評価するための重要な指標であるが、いくつかの課題や限界も存在する。例えば、失業者として定義されるためには「積極的に仕事を探している」という条件が必要であり、これに該当しない人々、例えば「非労働力人口」に分類される労働意欲を失った者や、隠れ失業者と呼ばれる非正規就業者などは、この指標には反映されない。

隠れ失業と非労働力人口

ILO失業率は、失業者の数を過少評価する可能性がある。例えば、求職活動をあきらめた「失意労働者」や、非正規雇用やパートタイムで働いているが、フルタイムの仕事を希望している「隠れ失業者」は、ILOの定義では失業者としてカウントされない。このため、実際の労働市場の問題を正確に反映しない可能性がある。

国際比較の難しさ

ILO失業率は国際比較が可能な指標であるが、各国の労働市場の状況や社会制度の違いによって、完全な比較が難しい場合もある。例えば、社会保障制度が充実している国では、失業者が積極的に求職活動を行わないことがあり、これが失業率に影響を与えることがある。また、労働市場の流動性が低い国では、失業率が低く抑えられる傾向があるが、これは必ずしも労働市場が健全であることを意味しない。

ILO失業率の補完的指標

ILO失業率の限界を補うために、他の労働市場指標を併用することが推奨されている。例えば、非労働力人口の動向を示す「労働力参加率」や、フルタイムの仕事を望むパートタイム労働者の割合を示す「不完全就業率」などがある。これらの指標を組み合わせて分析することで、より包括的に労働市場の健全性を評価することができる。

労働力参加率

労働力参加率は、就業者と失業者を合わせた労働力人口が、15歳以上の総人口に占める割合を示す。労働力参加率が高いことは、労働市場に積極的に参加する人が多いことを示し、経済の活力を反映する一方で、低い労働力参加率は、隠れ失業者や求職を諦めた人々が多いことを示唆する可能性がある。

不完全就業率

不完全就業率は、フルタイムの仕事を希望しているが、経済的な理由やその他の理由でパートタイムの仕事に就いている人々の割合を示す。この指標は、ILO失業率では把握しきれない労働市場の課題を補完する役割を果たしており、特に経済危機の際には重要な指標となる。

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