IH炊飯器
IH炊飯器は、コイルに交流電流を流して磁界を発生させ、内釜に渦電流を誘起して直接発熱させる炊飯装置である。内釜が発熱体となるため立ち上がりが速く、底面だけでなく側面からも熱が回り込み、米と水を均一に加熱できる。マイコン制御で吸水・昇温・沸騰・蒸らしを切り替え、条件が変わっても再現性の高い炊き上がりを狙える。
誘導加熱の原理
IHコイルに数十kHzの交流を印加すると交番磁束が内釜に貫入し、渦電流によるジュール熱で加熱される。発熱量は内釜材の電気抵抗率、透磁率、板厚、周波数に依存し、強磁性材では磁束集中により効率が高い。内釜が「熱源=加熱対象」に密着しているため伝熱経路が短く、温度応答が良い。
構造と主要部品
- IHコイル:銅線またはリッツ線で成形し、放熱経路と耐熱樹脂で固定する。
- インバータ回路:整流・平滑後にIGBTやMOSFETで高周波交流を生成。PWMや周波数制御で出力可変。
- 温度センサ:底部サーミスタと蒸気口センサで沸騰検知や蒸らし制御。
- 内釜:鉄層・アルミ層・コーティングを多層化し、熱拡散と離型性を両立。
- 安全機構:温度ヒューズ、過電流保護、フタ開検知、空焚き検知など。
炊飯プロファイルと制御
炊飯は①吸水、②加熱上昇、③沸騰・対流、④蒸らしで設計する。吸水では低出力で温度勾配を緩やかにし、加熱上昇で短時間に沸点へ到達させる。沸騰では出力をフィードバック制御して噴きこぼれを抑えつつ対流を維持し、蒸らしで水分分布を均す。IH炊飯器は出力変調が高速で、室温や初期水温など外乱の影響を受けにくい。
熱設計と伝熱
底面だけでなく側壁への熱流束が重要である。釜の曲率、厚み、層構成で温度分布が決まり、対流セルやデンプンの糊化に影響する。熱容量が大きい内釜は火力変動を平滑化するが立ち上がりは遅い。ふたパッキンと蒸気経路は沸騰時の圧力変動と熱損失、保温時の乾燥抑制に関わる。
電源・EMCと安全
高周波インバータは伝導・放射ノイズの低減が要点である。ラインフィルタ、コモンモードチョーク、シールド、最短配線でノイズ経路を抑える。過電流・過温度保護で半導体とコイルの熱暴走を防ぎ、感電・発火・表面温度などの要求に適合させる。
内釜材料と電磁特性
強磁性材はキュリー点付近で透磁率が低下し発熱様式が変わる。炊飯域で安定した誘導加熱特性を得るよう、鉄層の材質と厚みを調整し、アルミ層で熱拡散を補う。外面コーティングは耐食と洗浄性、内面は離型と耐摩耗性を担う。
故障モードと保守
- 温度センサの断線・位置ズレ:異常沸騰や過加熱の要因。
- IGBT/MOSFETの短絡・劣化:インバータ停止、ヒューズ溶断。
- コイルの絶縁劣化:発熱・騒音・効率低下。
選定と評価ポイント
用途に応じて容量(合数)、最大消費電力、プロファイル設定の柔軟性、保温の温湿度制御、清掃性、運転音などを確認する。IH炊飯器では内釜の層構成と重量が温度均一性の指標になりやすい。試用時は水量や米の種類を変えて再現性を確かめ、センサ追従性と出力制御の滑らかさも評価する。
エネルギー効率と運用
予熱短縮や断熱強化は投入エネルギーを低減する。吸水時間を十分に確保すると昇温に要する出力が下がり、糊化も安定する。保温は温度と湿度のバランスが重要で、長時間では風味劣化と衛生に留意する。定期的な洗浄とスケール除去は熱交換効率とセンサ精度を保ち、IH炊飯器の寿命を延ばす。