HCU(油圧制御ユニット)
HCU(油圧制御ユニット)は、ポンプやバルブなどの油圧機構と、センサー・ソレノイドを統合し、圧力と流量を最適に制御する中核モジュールである。自動変速機やブレーキ、油圧アクチュエータを要する機構に用いられ、目標トルクや目標減速度といった上位制御の要求を、油圧という物理量へ即時に変換する役割を担う。TCUやECUが演算した指令を受け、油圧経路を切替え、応答性・効率・耐久性を満たすよう動作点を維持する。
役割と位置づけ
HCUは「要求(トルク・クランプ力・保持力)」を「油圧(圧力・流量)」に写像する実行層である。上位の電子制御は目的関数と制約を定め、HCUはソレノイド駆動やバルブ開度により配圧・減圧・保持を実現する。車両側のCAN/LIN/FlexRay等のネットワークに接続され、温度・回転数・スリップ量などの状態を監視しながらフィードバック制御を行う。
主な構成要素
- 油圧ポンプ:機械駆動または電動駆動で作動油を加圧する。
- バルブボディ:スプールバルブ群と油路を集約した本体であり、微細なクリアランス管理が重要である。
- 比例ソレノイド/オンオフソレノイド:電流で作動し、圧力や切替を司る。
- 圧力・温度センサー:系統圧、ライン圧、作動油温を検出し、補正に用いる。
- アキュムレータ:脈動吸収と応答性向上のための蓄圧要素である。
- フィルタ・ストレーナ:異物侵入や摩耗粉の拡散を抑制する。
作動原理
ポンプが生成したライン圧を、指令電流に応じた比例圧制御弁がターゲット圧に整流し、選択弁が各アクチュエータへ配圧する。スプールのバランスは油圧差とばね力、電磁力で決まり、微小な流路損失や油温粘度が静特性・動特性を規定する。リークは冷間始動時の応答と高温時の効率に影響するため、許容値設計が要である。
制御戦略
基本はPIDとフィードフォワードの併用である。モデル化されたバルブゲイン、油温による粘度補正、アキュムレータのコンプライアンスなどを反映し、立上り遅れとオーバーシュートを抑える。目標圧トラッキングに加え、スリップ率やポンプ負荷を制約に入れた最適化(例:モデル予測制御)を用いると、燃費・熱負荷・NVHの総合最適が図れる。
適用分野
AT/CVT/DCTにおけるクラッチ・バンドの締結力制御、電動パーキングブレーキや油圧ブレーキの配圧、四輪駆動カップリングの締結、アクティブサスペンションの減衰制御などに広く使われる。ハイブリッド車ではエンジン停止中も必要圧を確保するため、電動ポンプとHCUの協調が重要である。
設計要件・性能指標
- 応答時間:段階指令に対する10–90%立上り時間。
- 圧力精度・リップル:定常偏差と脈動の最小化。
- 流量容量:高負荷時の目標達成能力。
- 漏れ量管理:クリアランスとシール設計で効率を確保。
- 熱耐性:油温−40〜150℃域での特性安定。
- 耐振動・耐腐食:自動車環境における長期信頼性。
- IP等級・EMC:水侵入と電磁両立性の確保。
材料・製造技術
バルブボディはアルミダイカストや削り出しが主流で、流路のバリ・微細欠陥は機能不全に直結する。スプールは高硬度材に精密研磨と表面処理を施し、摩耗とスティックスリップを抑える。ソレノイドはコイル抵抗の温度係数を考慮し、ドライバ回路で電流制御を行う。清浄度確保のため、洗浄・超音波・乾燥工程と清浄度検査が必須である。
信頼性と安全設計
ISO 26262に基づく機能安全では、圧力センサー冗長や電流監視、自己診断、フェイルサイレント/リンプホーム戦略を備える。バルブ固着やセンサー故障の検出には、相関チェックや残差監視が有効である。油温過昇や供給圧低下時はデグレード制御へ遷移し、ブレーキ系ではドライバー要請を最優先にする。
故障モードと診断
代表的な故障は、ソレノイド断線・短絡、スプール固着、フィルタ目詰まり、ポンプキャビテーション、シール劣化、作動油劣化である。OBDではDTC記録とフリーズフレーム取得を行い、圧力トレースと指令電流を突き合わせて不一致を特定する。油分析により摩耗粉や酸化生成物を検出し、予防整備へ繋げる。
評価・試験
HiL/HILSで車両環境を模擬し、温度・電圧・負荷のスイープで制御安定性を検証する。実機ベンチでは圧力応答、リップル、効率、騒音、リークを測定し、耐久では温度サイクル・振動・塩水噴霧を組み合わせる。量産前にはバラツキ感度解析を行い、最悪組合せでも要求を満足することを確認する。
設計上の留意点
高応答・低リップル・高効率は相互に緊張関係にある。アキュムレータ容量を増やせば脈動は減るが応答は鈍るため、目標プロファイルに沿った容量・バルブゲイン・制御ゲインの同時最適が必要である。油温の季節差・走行条件差を想定し、適応補償とソフト更新性を確保することが量産の鍵である。
関連する電子制御ユニット
TCUやブレーキECU、パワートレインECUは目標値を生成し、HCUが実行する。ネットワーク越しの遅延・ジッタは圧力波形に影響するため、同期設計と診断のタイムスタンプ整合が重要である。冗長経路や機械的バックアップの設置により、機能停止時の安全側動作を担保する。
規格と指針
設計では一般油圧規格のISO 4413、機能安全のISO 26262、ブレーキ関連のUNECE規則等を参照する。生産では清浄度規格、トレーサビリティ、EMC評価を適用し、変更管理とソフトウェア構成管理を運用する。これらを通じ、HCU(油圧制御ユニット)は高い信頼性と量産適合性を備えた油圧実行系として機能する。