GNSSアンテナ|衛星測位信号を高感度かつ安定受信

GNSSアンテナ

GNSSアンテナは、地球周回軌道の測位衛星から到来する微弱な電波を効率よく受信し、測位・航法・時刻同期に必要な信号品質(S/N、位相安定度、群遅延特性など)を確保する受信アンテナである。対象はGPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、QZSSなどのマルチコンステレーションであり、L1/E1/B1帯だけでなくL2/L5/E5/B2帯など複数帯に対応する設計が主流である。自動車、測量機、基地局時刻同期、産業機器、ドローンなど用途は広く、設計では偏波、帯域、実装環境(筐体・グランドプレーン)と干渉対策の最適化が重要である。

受信原理と偏波

衛星からの信号は右旋円偏波(RHCP)で到来するため、GNSSアンテナはRHCP受信を前提に設計される。適切な円偏波選択により、直線偏波由来の地表反射(マルチパス)を抑圧し、位相観測の安定度を高める。電気的にはパッチ、ヘリカル、マイクロストリップ等の共振構造で共鳴し、開口利得と指向性で仰角の高い衛星を優先的に受信する。電源を持たない受動型に対し、前置増幅器(LNA)を内蔵する能動型はケーブル損失に強く、長距離引き回しでもC/N0を確保できる。

周波数帯とマルチバンド対応

主要帯域はL1(1.57542 GHz)に加え、測位精度向上や搬送位相利用のためにL2/L5/E5/B2など複数帯を受信する。マルチバンド対応では、各帯域の共振点、帯域幅、VSWR、軸比(axial ratio)の同時最適化が課題となる。広帯域化やデュアルレゾナンス設計、誘導結合の最適化、低損失誘電体の選定により、衛星ごとの周波数差を吸収する。

アンテナ形式と用途適合

  • パッチ:薄型・実装容易。車載・携帯機器で広く用いられる。
  • ヘリカル:小型で帯域が広め。姿勢変化に強く、UAV向けに採用例が多い。
  • チョークリング:測地基準局向け。マルチパス抑圧と位相中心安定に優れる。
  • アレイ:干渉・スプーフィング対策やビームフォーミング、CRPA用途。

用途ごとに機械強度、耐候性、IP等級、脱落防止構造、コネクタ形状(SMA、SMB等)も選択のポイントとなる。

性能指標と評価ポイント

  • 利得・指向性:上半球での均一性、低仰角感度のバランス。
  • 軸比(RHCP純度):広帯域・広角での円偏波維持。
  • VSWR・帯域幅:想定筐体・基板上での整合安定度。
  • 群遅延平坦性:測位や位相差分(RTK/PPP)での誤差要因低減。
  • 位相中心(PCO/PCV):基準局・高精度計測で必須の校正項目。
  • 雑音指数(LNA):能動型での総合C/N0に直結。

評価は電波暗室でのパターン測定、開放サイトでのC/N0・DOP推移、実路試験でのFIX率・TTFF・再捕捉性能などで行う。

アクティブ型フロントエンド

能動型のGNSSアンテナは、アンテナ直後に低雑音増幅器(LNA)とSAW/BAWフィルタを内蔵し、隣接帯域やLTE/5G、車載デジタル系からの広帯域ノイズを遮断する。ケーブル電源(DC feed)で駆動し、同軸ラインでの電力重畳(Bias-T)に対応する設計が一般的である。長尺ケーブルや分配器を挟む構成ではIP3/1 dB圧縮点、利得フラットネス、自己発振余裕など直線性・安定度も確認すべきである。

筐体・グランドプレーンと実装

同一アンテナでも筐体材質やグランドプレーン寸法で共振点・放射パターンが変わる。車載ではルーフ中央実装が理想で、金属面が仮想開口として機能し感度と上空視界を確保できる。樹脂ルーフや内部設置の場合は、擬似グランドやチューニング要素(マッチング回路、スロット加工)で補正する。ケーブルは低損失(例:RG-316よりも発泡同軸等)を選び、曲げ半径や取り回しで反射を増やさない。

マルチパス・干渉・スプーフィング対策

マルチパスは位相誤差と擬似距離のバイアスを生み、特にRTKで致命的となる。チョークリングや適切な設置高さ、反射面の回避で抑制する。干渉対策としては狭帯域フィルタ、ノッチ(FM放送・V2X帯等)、前段シールド、アース連結の低インピーダンス化が有効である。スプーフィング対策ではアレイ化による空間フィルタリングや、受信機側での多アンテナ相関検出・方向依存検出との協調が求められる。

車載システムでの統合

車載では、本アンテナとIMU(加速度・ジャイロ)、車速パルス、ステアリング角のデッドレコニングを統合し、トンネルや都心峡谷でも航法継続性を確保する。A-GNSSやSBAS、QZSSのセンチメータ級測位補強(CLAS等)を活用すれば、ADASやマップマッチングの精度を高められる。アンテナ位置のレバーアーム補正や、車体の遮蔽・回折影響を含む実車校正が実用精度に直結する。

高精度測位(RTK/PPP)における留意点

搬送位相を使うRTK/PPPでは、位相中心偏差(PCV)とPCOの安定が鍵である。測地級ではアンテナ個体ごとに無線標定機関の校正データ(ANTEX等)を適用し、受信機の位相モデルと一致させる。多周波・高純度RHCP・群遅延平坦化の最適化は、整数アンビギュイティの迅速固定や再固定率の向上に寄与する。

環境耐性と信頼性

屋外常設や車載では、耐UV、耐塩害、耐振動、耐衝撃、広温度範囲(例:-40〜+85 °C)が求められる。防水シールやベント構造で結露を防ぎ、雷保護(ガスアレスタ、サージ吸収素子)を組み合わせる。コネクタは嵌合保持力と防水グレードを揃え、アーススプリングやEMIガスケットで筐体シールドを連続化する。

補足:設計・検証の実務ヒント

初期試作では実装想定の筐体・グランド上で同調点とVSWRを確認し、近傍金属・樹脂の影響を把握する。能動型ではLNAの電源リップル耐性と逆電圧保護、ESD保護を織り込み、長期信頼性を念頭に熱設計・封止材の選定を行う。システム側ではアンテナケーブル長を固定し、位相補正・遅延補償を一貫管理することで、フィールド再現性を高められる。最後に、GNSSアンテナの選定は単体性能だけでなく、設置・筐体・受信機・アルゴリズムまで含めた総合最適で評価すべきである。