ECM|電解加工で難削材の高精度加工

ECM

ECM(Electrochemical Machining、電解加工)は、被加工材を陽極、工具を陰極として電解溶解を利用し、金属を選択的に除去する非接触の材料除去法である。ファラデーの法則に従い、電流と時間に比例して除去量が決まるため、熱影響や機械的応力を与えずに複雑形状を高能率で成形できる。難削材や焼入れ鋼、ニッケル基合金、チタン合金などに有効で、バリのない仕上げや微小Rの連続面創成に適する。

原理と電気化学反応

加工ギャップ内に電解液を流し、被加工材(陽極)表面で金属がイオン化して溶出する。代表的な反応は、Fe→Fe²⁺+2e⁻のような陽極溶解である。陰極である工具は不溶性材料(Cu、Cu合金、ステンレス等)を用い、適切な電位条件で工具の消耗を抑える。電流密度が高い領域ほど溶解速度が増し、工具形状と絶縁マスキングによって電流分布を制御して狙いの形状を転写する。

装置構成とギャップ制御

基本構成は、電源(直流またはパルス)、工具電極、ワーク、循環式電解液供給系、ギャップ制御軸(NC)、回収・濾過ユニットから成る。加工ギャップはおよそ0.05〜0.5mmで保持し、ポンプで電解液(NaNO₃やNaCl水溶液など)を高流速で供給して反応生成物や気泡を排出する。ギャップ安定化のために送り制御と電圧・流量の協調が重要で、圧力損失や配管レイアウトも加工再現性に影響する。

加工条件と代表値

電圧はおよそ5〜30V、電流密度は10〜100A/cm²程度がよく用いられる。送り速度は形状と材質に依存し、数十μm/s〜数百μm/sを基準に最適化する。電解液濃度はNaNO₃で10〜25wt%が一例で、導電率、粘度、温度(一般に20〜30℃管理)が加工安定性を左右する。電源は応答性と波形の忠実度が重要で、電流リップル低減は寸法精度の向上に寄与する。

加工精度と表面性状

仕上げ面粗さは条件最適化によりRa0.2〜1.0μm程度が得られる。加工特性上、熱影響層や加工ひずみがほぼ無く、残留応力の発生も小さい。寸法精度は工具設計と電流分布制御、ギャップの安定化、電解液管理に依存し、オーバーカット(目標形状外側の余剰溶解)を見越した補正量の設定が要点となる。角部では電場集中によりRがつきやすく、局所的な絶縁とパラメータ調整で対処する。

ツール設計と絶縁処理

工具電極は目的形状のネガティブ形状を持つ。非加工部はエポキシやポリマーで確実に絶縁し、電流を通したい面のみ露出させる。流路は電解液の更新と反応生成物の搬出を最優先に設計し、デッドゾーンのない均一流を狙う。電極先端のエッジは磨耗ではなく電場で効くため、形状保持の観点からも機械加工電極と絶縁の仕上がり精度がそのまま製品品質に反映される。

用途例

  • タービンブレードのフィルレットや冷却孔の創成・整形
  • ポンプインペラ、ディフューザの三次元流路の仕上げ
  • 金型のリブ・コーナの微細部仕上げやバリフリー化
  • 内周・内面の難到達部のバリ取り・面修正
  • 医療機器部品のエッジスムージングと表面均質化

プロセスバリエーション

パルスECM(PECM)は高周波パルスで拡散層を薄く保ち、オーバーカットを抑制しつつ精度を高める方式である。微細領域ではマイクロECMが用いられ、微小電極と精密送りによって微小孔や微細溝を形成する。電解液としてはNaNO₃を基本に、材質や環境要件に応じた配合・温調・濾過設計を行う。

欠陥・トラブルと対策

代表的な課題は、オーバーカット、ストレイ加工(意図しない領域の溶解)、ピッティング、再付着スラッジである。対策として、①絶縁マスキングの強化、②パルス化と休止時間の設定、③流量・圧力の最適化と気泡除去、④工具端面電流密度の均一化、⑤電解液の濾過・イオン交換による清浄度確保、を組み合わせる。治具の導電・絶縁設計と耐食性材の選定も安定稼働に不可欠である。

環境・安全・設備保全

電解液は腐食性・導電性を有するため、漏洩防止、耐薬品材の配管、感電防止のインターロックを徹底する。回収スラッジは金属水酸化物を含むため、濾過・中和・産業廃棄物としての適正処理を行う。設備保全では、配管・シールの劣化、ポンプキャビテーション、電源端子の発熱、液温ドリフトを定期点検し、濃度と導電率のトレンド管理で加工ばらつきを抑える。

導入と工程設計のポイント

  1. 製品形状の電流分布解析を前提に工具と絶縁の仕様を決定する。
  2. 電源・流量・ギャップ・温度の相関をDOEで最適化し、ターゲットRaと寸法を指標化する。
  3. 前後工程(前加工面粗さ、脱脂、洗浄)と検査(3D測定、粗さ、エッジ品質)を標準化する。
  4. 治具交換性と液管理の標準作業票を整備し、立上げから量産までの条件窓を明確化する。

用語メモ

電流密度:単位面積当たりの電流。これが大きいほど溶解速度が増す。拡散層:電極近傍の濃度境界層で、薄いほど形状転写性が高い。パッシベーション:材質や液条件により表面が不動態化し溶解が抑制される現象で、条件逸脱時の加工不安定の要因となる。ECMではこれらの支配因子を整え、非接触・低応力の強みを活かして安定した高能率加工を実現する。