CVTフルード|摩耗低減・冷却で変速効率を最適化

CVTフルード

CVTフルードは無段変速機(CVT)のベルト/チェーンとプーリの間で適正な摩擦を生み、動力を安定して伝達させる専用作動油である。変速は油圧でプーリ径を連続的に変えることで実現するため、フルードには粘度特性、摩擦特性、せん断安定性、酸化安定性、耐泡性、耐摩耗性などの高次元バランスが要求される。一般的なATのATFとは配合思想が異なり、表面に形成される潤滑膜の性質や摩擦係数のチューニングが金属ベルトの「滑らせないが噛みすぎない」窓を確保する鍵となる。温度管理の厳しい環境下でも粘度が過度に低下・上昇せず、ベルトとプーリの接触圧力に応じて確実にトラクションを発揮することが重要である。

基本機能と要求特性

CVTは入力トルクとプーリの押し付け力、そしてフルードの摩擦係数の三者で成立する機械である。したがってフルードは低温始動時から高温連続運転時まで粘度指数が高く、気泡を抑える耐泡性を備え、油圧系の応答を乱さないことが求められる。金属同士の微小すべりを制御する摩擦調整剤、せん断で粘度が崩れにくいポリマー、酸化とスラッジの発生を抑える抗酸化剤・清浄分散剤の配合が中核である。過度な摩擦低下はベルト滑りを誘発し、逆に摩擦過多はジャダーや発熱を招くため、狭い許容帯での安定性が品質の差となる。

ベルト/プーリ界面での潤滑挙動

ベルト式CVTではプーリ外周の円錐面をクランプし、フルード薄膜を介して力が伝わる。境界潤滑領域に近いため、耐圧性の高い潤滑膜と適切なトラクション係数が不可欠である。油温上昇時には膜が薄くなり、低温時には流動性不足で油圧応答が鈍くなるため、温度依存を抑制した配合が採用される。チェーン式でも基本は同様で、ピン・プレート接触の微小すべりを想定した耐摩耗性が重要になる。いずれも微細な金属粉が発生しやすく、磁性ドレンやストレーナで捕集しつつフルードの清浄分散性で系内堆積を防ぐ設計となる。

適合と規格の考え方

CVTは制御ロジックと油圧系が車種ごとに異なり、各メーカーは独自のCVTフルード規格を定めている。互換を謳う汎用品(マルチCVTF)も存在するが、摩擦特性の差異は変速制御の学習値やクラッチ接続の品位に影響する。基本は車両取扱説明書や整備要領で指定された規格を選定すべきである。低粘度指向の省燃費型と、耐熱負荷を優先したタイプでは設計思想が異なるため、用途(渋滞・登坂・牽引・高温環境など)に応じて指定遵守を徹底することが望ましい。

劣化メカニズムと交換目安

劣化は主に熱酸化、せん断による粘度低下、添加剤枯渇、金属摩耗粉の増加で進行する。現場では油色の褐変、焦げ臭、発進時ジャダー、変速応答の遅れ、燃費悪化などが兆候となる。交換距離は使用環境で大きく変わるが、短距離・高負荷・高温運転が多い場合は早期交換が無難である。全量交換が難しい構造も多く、数回に分けた希釈交換や、温度管理下での動圧循環交換が用いられる。いずれも油温と油位の規定値管理が要であり、作業後は学習リセットや初期化手順を求める車種もある。

選定・交換時の実務ポイント

  • 車両指定のCVTFに適合すること(規格・品番の一致)
  • 低温粘度(冬季始動性)と高温安定性(夏季・渋滞耐性)のバランス
  • せん断安定性の公称データ(粘度保持率)と酸化安定性の確認
  • 交換時はストレーナ・マグネット清掃、ガスケットやOリングの置換を併施
  • 油温計測と油位調整手順(レベルゲージ/オーバーフロー式)の遵守
  • 試運転での段階的学習(Dレンジ保持、低速〜定速の滑らかな変速確認)

症状と診断の着眼点

発進時の微振動(ジャダー)、低速域のハンチング、加速時のエンジン回転先行、金属粉の過多、油温の異常上昇はフルード劣化や油圧制御不全の典型である。まずはフルード量と状態を点検し、必要に応じて指定CVTFでの交換・学習実施を行う。改善が乏しい場合はプライマリ/セカンダリプーリの圧力系、ソレノイド、温度センサ、メカニカル損傷の順に切り分けると効率的である。

ATFとの違い

ATのATFは多板クラッチとトルクコンバータの作動を主眼に設計されるのに対し、CVTのフルードはベルト/プーリ界面での連続トラクション確保が主目的である。したがって摩擦調整とせん断耐性の最適点が異なり、安易なATF代用は滑りや発熱、学習不良を招く恐れがある。設計思想の差を理解し、必ずCVT専用品を用いるべきである。

省燃費化と低粘度化の潮流

近年はポンプ損失と内部摩擦の低減を狙い、粘度を最適化した低粘度CVTFの採用が進む。低粘度化は油圧応答の改善や燃費貢献が見込める一方、高温高荷重域での膜保持や摩擦安定性を両立させる配合技術が不可欠である。車両側は制御で補うが、フルード側の設計余裕度が信頼性に直結するため、指定に適合したグレード選択が引き続き基本方針となる。