BCM
BCMは自動車のボディ領域(ランプ、ワイパ、パワーウィンドウ、ドアロック、ミラー、シート、A/C要求、セントラルロッキング等)を統合制御する電子制御ユニットである。車体電装の入出力を一括管理し、ドライバ操作・車両状態・他ECUからの要求を論理処理して各アクチュエータを駆動する。ネットワークのハブとして機能し、省配線・機能統合・診断性向上・信頼性向上・低消費電力化を実現する役割を担う。
構成とアーキテクチャ
BCMはマイコン、電源回路、入出力ドライバ、ネットワークトランシーバ、保護回路、記憶領域(Flash/EEPROM)で構成される。高サイド/ローサイドMOSFETでランプやモータを駆動し、電流・電圧・温度を監視して過電流や短絡からシステムを守る。ソフトはRTOS上でスケジューリングされ、I/O制御、通信、診断、安全、セキュリティなどのアプリケーション層をモジュール化する。
電源・低消費電力
常時電源とIG電源を受け、レギュレータで3.3/5.0Vを生成する。スリープ時はモジュールを停止し、ドア開閉・スマートキー・衝撃検知など特定イベントでウェイクアップする。暗電流抑制のために周期監視・バス監視を最小化し、レギュレータの効率を最適化する。
通信プロトコル
BCMは車内ネットワークの要であり、ゲートウェイ機能も担う。安全・遅延・帯域要求に応じて複数のバスを使い分ける。
- CAN:制御・診断の基幹。高速CAN/低速CANに対応し、UDSでフラッシュ書換・DTC取得を行う。
- LIN:ミラー・シート・ドアモジュールなどの低速末端デバイスを接続する。
- Ethernet:高帯域ログ、OTA、集中診断に利用されることがある。
メッセージ設計
信号は周期送信とイベント送信を組み合わせ、フェイルセーフ値・タイムアウト監視・シーケンス管理を設ける。システム全体でID重複や更新レート、優先度を設計し、バス負荷率を制御する。
入出力と外部負荷
BCMは多種多様な入出力を持つ。入力はスイッチ、アナログ電圧、ホール/シャント電流など、出力はPWMやHブリッジでモータ・ランプを駆動する。負荷診断として開回路・短絡・球切れ検出を行い、エラー時はフェイルセーフ動作へ遷移する。
- ランプ系:ヘッド、テール、ウインカ、室内灯。LED駆動では定電流制御と温度保護が重要である。
- モータ系:ワイパ、ウィンドウ、ミラー折畳み。ソフトスタートとジャム検知を実装する。
- ロック系:ドア/テールゲートのアクチュエータ。瞬時大電流に対するMOSFETと配線保護が要点である。
ハーネスと保護
ワイヤハーネスの抵抗・電圧降下を考慮し、ヒューズ/リレー/サージ吸収を適切に配置する。配線誤接続や静電気、ジャンプスタート時の過電圧にも耐える設計が必要である。
機能安全と規格
車体機能の多くはISO 26262に基づきリスク評価される。ASIL割当てに応じて冗長入力、監視タイマ、電源監視、故障診断、故障反応(安全側停止や縮退動作)を実装する。ソフトウェアアーキテクチャはAUTOSAR採用が一般的で、BSW/MCALによってハード依存を隔離する。
故障モードと診断
代表的な故障は、短絡・開回路・過熱・バスオフ・電圧低下・EEPROM劣化などである。DTCに故障検出条件、判定遅延、ヒストリ保持、MIL要求(必要時)を定義し、OBD-IIやUDSで可視化する。サプライヤ評価ではHALT/HASSや温度/湿度/振動の複合試験で信頼性を確認する。
セキュリティ
キーレスエントリやイモビライザと連携するBCMは攻撃面が広い。セキュアブート、HSM、鍵管理、診断セッション保護、メッセージ認証、デバッグロックなどを実装し、OTAでは署名検証とロールバック戦略を用意する。侵入検知/監査ログで異常通信や不正アクセスを検出する。
キーレス・スマートエントリ
RF/LFやUWBを用いた近接認証を扱う場合、リレー攻撃対策として距離測定や時刻同期、位置検証を併用する。ユーザ利便性と誤動作防止(雨天や電波干渉)を両立させるロジックが要る。
ソフトウェアと更新
機能は状態遷移で記述し、イベント駆動で入力を解釈する。キャリブレーションは分離して開発・量産後の微修正を容易にする。更新はブートローダで冗長領域へ書込み、電源断にも耐える設計とする。分散ECU間のバージョン整合をメタデータで管理する。
品質とテスト
要件トレーサビリティ、静的解析、MISRA C、単体/結合/システム/実車評価、HIL・SIL・PILを組合せ、境界値・故障挿入・通信負荷試験を網羅する。量産ではPPAP、工場出荷試験、シリアル番号・暗号鍵の個体管理を行う。
配置と熱設計
BCMは車室内に配置されることが多いが、ドアやエンジンルーム近傍に分散配置される場合もある。熱源はドライバとレギュレータであり、銅箔スプレッド、サーマルビア、筐体放熱で温度上昇を抑える。湿度・結露対策としてコーティングやシールを施す。
将来の拡張性
電動化と48V化の進展で負荷電力が増し、モジュール間の機能分担や再構成可能I/Oが求められる。ドメイン/ゾーンアーキテクチャではBCM機能が統合ECUへ移管される一方、末端のスマートアクチュエータが役割を担う構成も増える。ソフト定義化により機能追加・地域法規対応を短期で実現する。