ATF
ATF(Automatic Transmission Fluid)は自動変速機の作動・潤滑・冷却・清浄を一手に担う専用油である。油圧の媒体としてクラッチやバンドを制御し、ギヤやベアリングを潤滑し、摩擦材の発熱を冷却する。さらに泡立ち抑制や酸化抑制、腐食防止、シール材保護など多機能を同時達成する必要があるため、基油と複合添加剤で精密に設計される。近年は低粘度化と高せん断安定性によりポンプ損失を低減しつつ、ロックアップクラッチの滑り制御で燃費と応答性の両立を図る。ATFはCVT用フルードやDCT用フルードとは要求摩擦特性が異なり、混用は厳禁である。規格名が似ていてもメーカー適合が第一であり、誤用は変速ショックやジャダー、過熱、寿命低下の原因となる。
主な役割と要求性能
- 潤滑:歯車・ベアリング・クラッチの摩耗を抑制し、ATF膜で金属接触を回避する。
- 油圧媒体:ポンプで加圧されたATFがバルブボディを介して各要素を作動させる。
- 摩擦制御:発進・変速・ロックアップ時に所定のμ-vカーブでジャダーを抑える。
- 冷却・洗浄:発熱部から熱を搬送し、スラッジや磨耗粉を分散保持する。
- 耐久・安定:酸化安定性、泡立ち抑制、せん断安定性、揮発損失の低さが求められる。
- シール保護:NBRやFKMなどのシール材と適合し、適度な膨潤を維持する。
組成と添加剤の構成
ATFは鉱物油や合成油(PAO等)を基油に、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、清浄分散剤、消泡剤、防錆防食剤、摩耗防止剤、シールコンディショナーなどを最適配合する。これにより広温度域で安定した粘度と、クラッチ適合の摩擦特性を実現する。
- 基油:低温流動性と高温耐久のバランス(合成基油は低温始動性に優れる)。
- 摩擦調整:紙基材やカーボン摩擦材に合わせμ特性をチューニング。
- 粘度制御:せん断で粘度低下しにくいポリマーを採用。
規格・適合と互換性
ATFには各社の規格(例:Dexron、Mercon、低粘度タイプなど)があるが、同名でも世代差が大きく、混用は避ける。車両のサービスマニュアルやフィラーキャップの指定に従い、同等以上の適合品を選定することが肝要である。CVTやDCTは専用フルードであり、ATFでの代用は不可である。
粘度特性と摩擦特性
ATFは低温始動での流動性と高温高せん断下での油膜保持を両立させる必要がある。粘度指数(VI)が高いほど温度依存性が小さく、変速応答が安定する。摩擦特性はμ-vカーブやStribeck特性で評価され、特にロックアップクラッチの微滑り領域でジャダーを抑えつつスムーズな係合を実現する調整が要である。
点検・交換とサービス実務
交換時期はメーカー指定に従う。シビアコンディション(渋滞、山岳路、牽引等)では短めの交換が有効である。色調の著しい暗化や焦げ臭、金属粉の増大は交換や点検のサインである。レベル点検は温度依存が大きく、ディップスティック式では規定温度で、オーバーフロー式では油温管理のうえ規定量を充填する。診断機で油温・学習値を参照し、必要に応じリセットを行う。
- 交換方法:ドレーン&フィルで段階的に希釈更新、または専用機による循環・圧送で全量更新。
- 付随作業:オイルパン清掃、マグネットの鉄粉除去、フィルタ/ストレーナ交換、パッキン更新。
- 注意点:過充填は泡立ちや攪拌損失、少なすぎは油圧低下を招く。
劣化・不具合と対処
ATF劣化や不適合は、変速ショック、すべり、遅延、ハンチング、ジャダー、過熱などの症状として現れる。油漏れはオイルパンガスケット、シャフトシール、配管・クーラ接続部、締結の緩み(例:オイルパンのボルト)などを点検する。エア噛みは油圧不安定と泡立ちを招くため、規定温度・手順でのエア抜きが必要である。バルブボディの汚れやソレノイド不調は油路圧力を乱し、学習値のリセット・再学習が有効な場合もある。
設計・材料から見た留意点
クラッチ摩擦材(セルロース系やカーボン系)との適合を前提にATFの摩擦調整剤が設計される。せん断に強い粘度特性はトルク容量安定に寄与し、消泡性と空気混入耐性は油圧応答の安定に不可欠である。シール材との相溶性は漏れや硬化・収縮を防ぐ観点で重要で、膨潤率は規定範囲に収める。
環境・燃費と最新動向
低粘度・低摩擦化は燃費向上に寄与する一方、耐摩耗・酸化安定性とのトレードオフがある。近年のATFは高VI化と基油の最適化により、ポンプ損失を抑えながらクラッチ制御の滑らかさを確保する方向で進化している。適正な熱管理(オイルクーラ)と清浄性維持は寿命延長と効率の鍵である。
関連する要素と用語
- トルクコンバータ、オイルポンプ、バルブボディ、ロックアップクラッチ、オイルクーラ、粘度指数、せん断安定性、Stribeck特性、学習制御、シール材適合など。