AES(Auger Electron Spectroscopy)|表面の元素・化学状態を解析

AES(Auger Electron Spectroscopy)

AES(Auger Electron Spectroscopy)は、固体表面の最表層(概ね1〜3 nm)の元素組成を、オージェ電子の運動エネルギー分布から同定・評価する表面分析法である。電子銃で一次電子(通常2〜10 keV)を照射すると、内殻に空孔(コアホール)が生じ、上位準位からの遷移エネルギーが同一原子の別電子に渡されて放出されるのがオージェ過程である。放出電子のエネルギーは元素固有の値をとるため、スペクトルのピーク位置から元素を同定でき、ピーク強度から表面濃度の相対定量が可能である。XPSに比べて面内分解能と表面選択性に優れ、微小異物や粒界・欠陥の局所分析に適する。一方で、定量はマトリックス効果やバックグラウンドの影響を強く受けるため、感度係数と標準試料に基づく補正が不可欠である。

原理と表面感度

オージェ電子の平均自由行程は低エネルギー域で短く、発生深さのうち脱出できるのは最表層に限られる。そのためAESは極めて高い表面感度を持ち、吸着層や初期酸化、コンタミネーションの検出に有効である。スペクトルはN(E)よりもdN/dE(微分スペクトル)で表示されることが多く、位相敏感検出により信号対雑音比を高め、弱いピークの可視化に寄与する。

装置構成

  • 電子源:熱電子銃またはフィールドエミッション銃。ビーム径は数十nm〜数µm。
  • エネルギー分析器:代表例はCMA(Cylindrical Mirror Analyzer)。高エネルギー分解能を確保する。
  • 真空系:UHV(~10^-7 Pa級)に保持し、表面汚染と電子散乱を抑える。
  • 試料操作:傾斜・回転・加熱・冷却およびイオンスパッタ源を備えることが多い。

測定手順とパラメータ

  1. 試料導入・ベークアウト後に室温で予備観察を行う。
  2. 励起条件(ビーム電圧・電流・照射角)と検出条件(エネルギーステップ、タイムコンスタント)を設定する。
  3. 微分表示時は変調電圧とロックイン位相を最適化し、ピーク形状の歪みを最小化する。
  4. 面分析では走査条件(SAM)を調整し、ラインプロファイルやマップを取得する。

データと解析の要点

ピーク位置は元素同定、ピーク高さまたは面積は相対濃度に対応する。バックグラウンドは二次電子やプラズモン損失で傾斜するため、適切な直線・指数近似や数値微分で補正する。定量は感度係数(相対感度因子)を用いた規格化で行い、同一元素でも化学状態や基体により感度が変動する点に留意する。軽元素(C, N, O)の重なりやサテライトに注意し、複数ピークの整合で信頼度を高める。

深さ方向分析(スパッタプロファイル)

Ar+などのイオンで逐次スパッタしながらAESスペクトルを取得すると、深さ方向の元素分布を得られる。スパッタ速度は材料・結晶方位に依存し、選択スパッタやイオンミキシング、欠陥生成によるアーティファクトが生じる。校正にはステップ膜やSIMS等の参照法を併用し、プロファイルの解像度と信頼性を評価するのが望ましい。

空間分解能とSAM

ビームを細束化して走査し、各画素でスペクトルまたは特定ピーク強度を取得する手法がSAM(Scanning Auger Microscopy)である。金属・半導体では数十nm級の分解能が得られ、粒界偏析、薄膜多層界面、加工損傷層などの局所化学情報を提示できる。線形解析や多変量解析を用いれば、重なりピークの分離や位相マッピングの精度が向上する。

感度・検出限界

検出限界は一般に0.1〜1 at%程度で、元素やマトリックス、測定条件に依存する。表面濃度が極薄い場合は積算時間を延ばしS/Nを稼ぐが、ビームダメージや汚染再付着とのトレードオフがある。軽元素はバックグラウンドの影響を受けやすく、複数のピークや補助手法(XPS, EDS)との相補利用が有効である。

注意点とアーティファクト

  • ビームダメージ:有機材料や酸化物で構造変化・脱離が起こりうる。
  • チャージアップ:絶縁体ではピークシフトや歪みが発生し、低電流照射や導電コート、電子・イオンフラッドで補償する。
  • 汚染:残留炭化水素の吸着によりCピークが増大するため、UHV維持とインサイチュクリーニングが重要。

主な用途

  1. 半導体製造における微量汚染、金属間化合物、界面反応層の同定。
  2. 腐食・酸化皮膜の組成傾斜や初期成長挙動の追跡。
  3. 薄膜・コーティングの密着不良原因(拡散、偏析、残渣)の解析。
  4. 異物解析・故障解析における局所化学の可視化。

エネルギー分析器の方式

CMAは取り込み立体角が大きく、微分検出と親和性が高い。半球型分析器は高分解能だが取り込み効率が低く、微小領域測定では感度が課題となる。レターディング場方式は簡易だがバックグラウンド処理が難しいため、用途に応じた選択が必要である。

チャージアップ対策

絶縁体分析では、低電流・低加速の一次電子、導電性コーティングの併用、電子・イオンのフラッディングで表面電位を制御する。ピーク位置の基準化(例えば既知ピークとの相対比較)を行い、データの再現性を確保する。

安全・取り扱い

高電圧電源や高真空装置を扱うため、インターロックの点検、リークチェック、ベーク時の温度管理を徹底する。イオン源使用時はガス供給系の清浄度と遮断手順を遵守し、試料汚染を未然に防ぐことが望ましい。