LID現象|光誘起劣化による初期出力低下傾向

LID現象

LID現象(Light Induced Degradation)は、結晶Si太陽電池が日射に曝される初期段階で出力(Pmax)が数%低下する現象である。主因はB(ボロン)を含むCz-Si(Czochralski法Si)中で光照射によりB–O(ボロン酸素)複合欠陥が生成し、少数キャリア寿命τが短くなることである。これにより再結合が増加し、Io上昇を通じてVocが低下、場合によりIscやFFもわずかに低下する。低温~中温(概ね室温~80℃程度)でも進行し、数時間~数十時間で飽和するのが一般的である。製造時の材料・プロセス・初期光照射の工夫により、低減や安定化が可能である。

定義と背景

太陽電池の初期光照射に起因して電気的性能が不可逆的に低下する現象を指し、特にBドープCz-Siセルで顕著である。英語ではLight Induced Degradationと呼ばれ、和訳として光誘起劣化や初期劣化が用いられる。LIDの本質は、光励起キャリアの存在下で深い準位をもつ欠陥が活性化し、Shockley-Read-Hall(SRH)再結合が増えることである。Voc≒(n·kT/q)ln(Iph/Io+1)の関係から、再結合増に伴うIoの増加は直ちにVoc低下として現れ、結果としてP–Vカーブの最大点が左下へ移動する。

発生メカニズム(Si中の欠陥とB–O複合体)

Cz-Siは引き上げ時に酸素(O)を多く含む。Bを受容体としてp型化したウェーハでは、光照射下でB–O複合体が形成・再配置され、深い準位(再結合中心)として作用する。これが少数キャリア寿命τを短縮し、拡散長L=√(D·τ)も短くなるため、光生成キャリアの有効収集が阻害される。水素パッシベーションが不十分な場合や金属不純物(Feなど)の存在は欠陥の活性化を助長しやすい。逆に、Gaドープp型やn型基板ではB–O要因が小さく、LID感受性が低いことが多い。

初期点灯・アニール

初期光照射(いわゆるライトソーキング)でいったん劣化が進むが、その後の熱アニールや運転温度での緩和で欠陥状態が準安定へ移行し、出力が部分的に回復・平衡化する場合がある。製造現場では、出荷前に所定の光量を与えて安定化させ、公称値のばらつきを抑制する運用が行われる。

影響と指標(IVカーブ、P–Vカーブ、初期劣化量)

LIDの直接的指標はPmaxの低下であり、併せてVocが敏感に低下する。Iscは拡散長短縮の影響でわずかに下がることがあるが、主作用点はVocである。IVカーブでは開放電圧側のシフト、P–Vカーブでは最大点の低下が観測される。評価時はSTC(25℃、1000 W/m²、AM1.5G)へ温度係数補正を行い、初期(ライトソーキング前)と安定化後の差分ΔP、ΔVoc、ΔIsc、ΔFFを整理する。

温度依存性

LIDは温度に依存し、40~80℃程度で進行が早まることが多い。これは欠陥の形成・再配置の活性化エネルギーに対応する。現場では屋外運転条件を想定し、光と温度の両方を制御した加速条件で安定化を評価する。

分類と関連現象(LeTID・UVIDなど)

近縁の現象として、LeTID(Light and elevated Temperature Induced Degradation)がある。これは特にPERC構造で報告され、より高温側での光・温度複合条件下で顕在化しやすい。また、紫外線が封止材やバックシートへ与える影響に起因するUVID(UV誘起劣化)など、材料起源の光劣化も区別される。さらに高電圧・高湿などで起こるPIDは駆動要因や対策が異なるため、試験設計時に切り分けが要る。

検出・評価法(フラッシュテスト、EL/PL、DLTS)

  • フラッシュテスタ:STC同等のパルス照射でIV・P–Vカーブを取得し、初期~安定化の変化を定量化する。
  • EL/PLイメージング:再結合の増加や局所的な寿命低下を可視化でき、LID進行の空間不均一を把握する。
  • DLTS/μ-PCD/CEC:深い準位の同定、寿命マップ、キャリア密度の評価などで欠陥物理を裏付ける。
  • 光量・温度プロトコル:1 sun等価の連続照射、パルス照射、昇温保持などを組み合わせ、安定化点を再現する。

データの取り扱い(温度補正とSTC)

測定値は必ず温度補正し、STCへ正規化して比較する。温度係数(dVoc/dT、dIsc/dT、dP/dT)を用い、測定日ごとの環境差を最小化する。飽和判定にはΔPの収束や時間定数の解析が有効である。

低減対策(材料・プロセス・運用)

  • 材料選定:Gaドープp型やn型基板の採用によりB–O欠陥の起点を抑制する。酸素含有の低減や金属不純物の管理も重要である。
  • パッシベーション:SiNxやAl2O3の表面/界面パッシベーション、H(水素)供給の最適化で再結合中心を不活性化する。
  • 熱プロファイル:拡散、焼成、アニールの温度時間プロファイルを最適化し、欠陥の形成・再配置を制御する。
  • 初期安定化:出荷前に所定の光量・温度でライトソーキングを実施し、フィールド導入後の初期ドロップを回避する。
  • 運用面:据付後の早期点検でPmaxを確認し、期待値との差異が大きい場合はEL画像などで原因の切り分けを行う。

規格・実務(型式認証・受入検査)

型式承認では、光照射下での安定化手順や長期信頼性試験(温度サイクル、湿熱、UVなど)と併せてLID影響を管理する枠組みが整備されている。実務では、受入検査にフラッシュテストを組み込み、初期光照射後の安定化値で評価する運用が推奨される。EPCやO&Mの契約では、LID由来の初期減衰を性能保証(PR)や出力保証曲線に織り込むことで、引渡し時の合意と運転中の監視・予測精度を高められる。

要点の整理

  1. LID現象はB–O複合欠陥の活性化に起因し、主にVoc低下として表出する初期劣化である。

  2. 材料(Gaドープ、n型)、パッシベーション、熱プロファイル、初期ライトソーキングで低減・安定化が可能である。

  3. 評価はSTC正規化のIV・P–Vカーブ、EL/PL、場合によりDLTS等を組み合わせ、安定化点をもって比較する。

  4. LeTIDやUVID、電気的起因のPIDなど近縁現象を切り分け、試験条件と保証条件に整合させることが実務上重要である。