HALT
HALT(Highly Accelerated Life Test)は、開発段階の試作機・量産初期品に対して、温度・振動などの複合ストレスを通常限界を超えて短時間に印加し、潜在的な脆弱点(設計・部品・組立・実装の弱点)を早期に顕在化させる試験である。目的は規格適合の可否判定ではなく、故障モードの発見と設計余裕の定量化であり、発生した故障を是正し、再発防止を行うことで、量産前に信頼性を一段引き上げる点に特徴がある。
目的と位置づけ
HALTの主目的は、短期間で多様な故障メカニズムを誘発し、設計限界(Operational Limit/Destruct Limit)を探索することである。量産後のスクリーニングを狙うHASS(Highly Accelerated Stress Screen)とは異なり、開発フェーズでの設計改善に資する探索型の活動であり、規格試験の代替ではない。したがって、不合格・合格という二値の評価ではなく、弱点と改善効果を定量的に把握する「学習」の場として用いる。
ストレス要素と複合印加
典型的なストレスは、広範囲温度(-70~+150℃級)、急峻な温度レート(50~70℃/min級)、6自由度(6DoF)ランダム振動(加速度PSD方式)、通電・機能動作の同時印加である。単独では再現しない故障が複合で顕在化するため、温度×振動×動作を同時に掛け合わせ、相互作用(はんだ疲労+共振、樹脂のガラス転移点超過による応力緩和、潤滑低下など)を引き出す。
ステップストレス法
HALTでは、温度上下限と振動強度を段階的(ステップ)に上げ、各段で一定時間の機能確認を行い、異常兆候(誤動作、ノイズ増大、発熱、材料クラック、共振ピークの変化)を記録する。異常が出たら段階を戻して再現性を確認し、根本原因分析に繋げる。探索を通じて、動作限界(動くが性能劣化)と破壊限界(機能停止・破断)を切り分け、設計余裕(マージン)を定義する。
治具・計測とサンプル設計
正しい故障を得るには、熱・振動が試料へ均一に伝達される治具設計が要となる。軽量剛性・低熱容量の治具、適切な固定点、ケーブルの負荷緩和、温度センサ(熱電対)配置、加速度センサ(基台・筐体・実装基板)配置、機能監視(通電・I/Oロギング)を計画する。サンプルは個体差と組立ばらつきを含む複数台を用意し、変更点の効果検証ができるよう構成を管理する。
限界の定義と設計余裕
動作限界は「性能仕様を満たす上限・下限」、破壊限界は「回復不能な損傷・停止」を指す。両者の間に十分な間隔(設計余裕)を確保することが目標であり、余裕の不足は使用環境や経年での故障リスクを高める。限界の数値化により、部品定格選定、ヒートマネジメント、実装パターン補強、共振回避設計など具体的な設計アクションに落とし込める。
データの取り扱いと誤解の回避
HALTは寿命推定試験ではない。したがって、時間軸の信頼度指標(MTBF等)を直接導くのではなく、故障モードの網羅と限界探索を通じて「壊れ方のカタログ」を作ることが肝要である。解析では、故障の再現性確認、原因切り分け(設計・部品・工程・使用条件)、是正後の再試験(Fix→Verify)が必須である。定量化には温度・振動の段階値、機能監視ログ、スペクトル、熱画像、破面観察などを系統立てて残す。
温度・振動プロファイル設計の要点
- 温度:広範囲スイープと急峻レートで材料・はんだ・コネクタの熱機械応力を活性化させる。氷結・結露対策(乾燥窒素パージ等)を検討する。
- 振動:6DoFランダムで多軸同時の実使用に近い応力を与える。共振周波数のトラッキングにより弱点部位を推定する。
- 同時印加:温度極限中の振動や通電動作を組み合わせ、単独では出にくい複合故障を誘発する。
故障モード例と是正の方向
代表例として、BGAはんだの低サイクル疲労、スルーホール割れ、コネクタ接触抵抗の増大、ワイヤハーネスのフレッティング、電解コンデンサの特性劣化、樹脂クラック、ファンのロータ・ベアリング異音、ねじ緩みなどが挙げられる。是正は、部品グレード変更、放熱経路強化、実装ランド形状最適化、補強材・ポッティング、共振回避の構造変更、締結のトルク・座金見直し等で行う。
HASSとの違いと移行
HALTで見出した有効ストレス範囲と監視指標を、量産フェーズのHASSに転用する。HASSは不良流出防止のスクリーニングであり、破壊限界に近づきすぎない「安全な加速条件」を設定する。移行時は、歩留まり・誤判定率・スループットを考慮し、ライン適用に耐えるプロファイルへ整流化する。
安全・品質マネジメント
高温・低温・強振動を扱うため装置安全(インタロック、過温保護、チャック強度)と試料安全(通電時の過電流・過電圧保護、熱暴走検知)を整える。記録はトレーサビリティ確保のため、装置校正、センサ配置図、試験条件、故障票、是正履歴、再試験結果まで一連で管理し、開発・製造・品質が共有する。
導入の実務手順
- 製品ミッションプロファイルの定義(環境・使用パターン・要求信頼度)。
- 仮説にもとづくストレス計画(温度・振動・同時印加と監視指標)。
- 治具・計測系の準備と予備チェック。
- ステップストレスで限界探索、故障再現と原因究明。
- 是正設計→再試験で効果検証、限界・余裕の更新。
- 有効条件をHASSへブリッジし、量産品質に落とし込む。
活用の勘所
短時間で多様な故障メカニズムを引き出すことがHALTの価値である。規格合否の代替と誤解せず、探索・学習・是正を高速に回す「改善ループ」として運用することが、信頼性と開発リードタイムの同時達成に繋がる。