CANコネクタ
CANコネクタは、車載ネットワークで広く用いられるCAN(Controller Area Network)の配線とECU、センサ、ゲートウェイを機械的・電気的に確実接続するための端子・ハウジング・ロック機構を備えた接続部品である。ツイストペア配線、120Ω終端、ノイズ耐性、耐振動・防水といった車載特性を満たしつつ、組立の容易性と保守性、誤挿入防止(キーイング)を実現することが要求される。近年はCAN FDによりビットレートが拡張され、CANコネクタにも高周波特性や接触抵抗の安定性が一層求められている。
役割と基本構造
CANコネクタは信号線CAN-H/CAN-Lと電源線(IGN、B+、GNDなど)を伝送する。一般に端子(ターミナル)、インシュレータ、ハウジング、二次ロック(端子保持)、ラッチ(嵌合保持)、シール(ワイヤシール・インターフェースシール)から構成される。ツイストペアの取り回しやドレンワイヤのアース取りを阻害しない形状設計が重要である。
規格とインタフェース
CANコネクタはネットワーク層としてISO 11898(CAN、CAN FD)に適合するハーネスの機械的接続点である。車両外部との診断用にはOBD-IIコネクタが用いられ、DLCのピン6(CAN-H)、14(CAN-L)が標準である。ECU間の内部接続ではUSCAR、JASO、ISOの車載コネクタ規格やOEM規格に準拠したシリーズが採用される。
代表的な形状・シリーズ例
- 車載用レセプタクル・プラグ型:多極・防水(IP67相当)、誤挿防止キー、セカンダリロック
- 産業機器向け:DSUB-9でCANopenに用いられることがある(終端抵抗内蔵タイプも存在)
- 丸形M12:フィールドバスでのCAN系に採用例があり、堅牢性と防水性に優れる
ピンアサインと配線
CANコネクタの最小構成はCAN-H、CAN-L、GNDである。車載では電源やシールド用ドレンの端子を加えた多極が一般的である。ツイストペア長を極力保ち、ペア分離長(untwist length)を短くすること、CAN-H/CAN-Lの配線は同長・同経路にすることがセオリーである。
電気的特性と終端
CANバスは両端120Ωで終端する。CANコネクタ自体は終端を持たないのが通常だが、評価治具や産業用では終端内蔵の中継コネクタがある。接触抵抗はmΩオーダで安定していること、挿抜繰返し後も抵抗上昇が規格値内であることが求められる。CANは典型的に最大1 Mbit/s、CAN FDではデータ位相で2〜5 Mbit/s級が実装され、インピーダンス整合と低寄生容量が望ましい。
EMCとシールド
CANコネクタでは、金属シェルや360°シールドクランプ、ドレンワイヤ用端子を備える構造が用いられる。シールドの接続は一点接地の方針とし、ボディ側のグランドに低インピーダンスで落とす。コネクタ界面でのギャップを最小化し、浮遊インダクタンスを抑えることがEMI低減に効く。
耐環境・機械設計
車室外やエンジンルームではIP67以上、防塵・耐塩水噴霧・耐油・耐熱(−40〜125℃級)・耐振動が必要である。CANコネクタはラチェット式ラッチやスライドロックを採用し、振動中でも抜けない保持力を確保する。パッキン圧縮率と溝形状、樹脂の耐加水分解性も信頼性を左右する。
キーイングと誤挿防止
同形状で極数違いや用途違いが混在する場合、キーコードや色識別で誤挿を防ぐ。ハウジング側のリブ・切欠きと、プラグ側のガイド形状を最適化し、組立ラインのポカヨケを実現する。サービス時の着脱方向や手掛かり面積も配慮する。
選定のポイント
- 極数・電流容量・適用電線サイズ(例:AVSS 0.3〜0.5 sq)
- 防水等級・耐熱クラス・材質(PBT、PA、LCP等)
- ロック機構の使い勝手と保持力、整備性
- シールド接続方式(クランプ、編組圧着、バネ指)
- 規格適合(USCAR、JASO、OEM規格、OBD-II対応の有無)
ハーネス設計上の注意
CANコネクタ近傍ではツイストペアを保持し、枝分岐(スタブ)長を短くする。バス全体の特性インピーダンスは約120Ωを維持し、枝分岐の合成インピーダンスで波形劣化が出ないよう配線長を管理する。束線の固定点とコネクタのストレインリリーフをセットで検討する。
取り付け・検査
端子圧着は規格に沿って管理し、引張試験・顕微鏡断面観察で圧着高さとバレル成形を確認する。嵌合時はクリック感と挿入力を測定し、二次ロックの確実な係合を点検する。導通・絶縁・耐電圧・接触抵抗、さらに熱衝撃・振動・温湿度サイクルでの劣化を確認する。
CAN FDと将来互換
CAN FDでは立上りが鋭くなるため、CANコネクタの寄生成分が波形品質に与える影響が相対的に大きい。可能ならシールド一体構造や低インダクタンス端子を選び、量産前にアイダイアグラムやタイミングマージンを評価する。将来の車載Ethernet(100BASE-T1)共存も見据え、空間配置・シールド分離を計画する。
よくある不具合と対策
- 接触不良:表面酸化や半挿し。金めっき厚やラッチ構造、挿入案内部の改善で対処
- 浸水・結露:シール圧不足やケーブル曲げ応力。ワイヤシール径選定とストレインリリーフ強化
- EMI放射:シールド不連続や接地不良。360°クランプと接地面積拡大、塗装剥離管理
産業機器・ロボットでの応用
工場自動化ではCANopen等のプロトコルで採用例があり、M12やDSUB-9のCANコネクタが使われる。筐体接地の取り方やケーブル引き回しの自由度を見て選定し、保守時の着脱性と相手機器のピン互換性を重視する。
設計ドキュメントの整備
部品表(品番・キーコード・色)、端子圧着条件、嵌合図、配索図、検査要領を一体で管理する。変更管理では端子メーカーの仕様改訂や金型変更の影響を評価し、PPAPやIMDSなどの品質・環境文書も併せて更新することで、CANコネクタの品質をライフサイクル全体で維持できる。