ジャストインタイム|必要な物を必要な時に必要な量だけ

ジャストインタイム

ジャストインタイム(Just In Time、JIT)は、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」造り、運ぶことを目指す生産方式である。トヨタ自動車がトヨタ生産方式の柱のひとつとして体系化した。在庫を極力持たないことで、造りすぎや運搬のムダを減らし、工程に潜む問題を表に出す。JIS Z 8141(生産管理用語)でも、生産の基本的な考え方を表す用語として定義されている。

豊田喜一郎の構想から大野耐一の体系化へ

言葉の起源は1930年代にさかのぼる。1938年、挙母工場(現・本社工場)の稼働にあたり、豊田喜一郎が「ジャスト・イン・タイム」という言葉で、部品を日々必要な分だけそろえる方針を示した。ただし戦時体制と戦後の混乱で、この考えはいったん途切れる。再び形にしたのは機械工場長だった大野耐一である。1950年代、米国のスーパーマーケットで、客が取った分だけ棚に補充される仕組みに着目し、後工程が前工程へ部品を引き取りに行く方式を考え出した。社内での試行は1953年ごろに始まり、1960年代前半には全社へ広がった。1973年の第1次オイルショックで多くの企業が減益に苦しむ中、トヨタの収益回復が早かったことから、この方式は社外からも注目を集めるようになる。1978年には大野の著書『トヨタ生産方式』が刊行され、一般にも知られるところとなった。

3つの「必要」が意味するもの

「必要なもの」は品種、「必要なとき」は時期、「必要なだけ」は数量を指す。3条件がそろわない生産は、どれもムダを生む。早く造りすぎれば置き場と運搬が増え、不良が見つかるのも遅れる。数量を多めに造れば、売れ残りがそのまま資金を寝かせる結果になる。トヨタ生産方式では「造りすぎのムダ」を7つのムダの中でも最悪のものと位置づけている。在庫があると他の問題が隠れてしまうからである。設備故障や品質不良が起きても、在庫で穴埋めできるうちは誰も困らない。在庫を減らすと問題がすぐ表に出るため、カイゼンの対象がはっきりする。これはジャストインタイムの隠れた狙いといえる。

ジャストインタイムを支える仕組み

掛け声だけでは在庫は減らない。実際の現場では、情報伝達、生産量の安定、時間管理の3つが組み合わさって初めて機能する。もうひとつの柱である自働化(異常があれば機械が止まる仕組み)と一体で運用される点も見逃せない。

かんばんによる後工程引き取り

かんばん方式では、部品箱に付けたカードが生産指示書と運搬指示書の役割を果たす。後工程が部品を使うとかんばんが外れて前工程に戻り、戻った枚数分だけ前工程が生産する。工程間の在庫量はかんばんの総枚数で上限が決まるので、枚数を1枚ずつ減らしていけば、どこで流れが詰まるかがわかる。

平準化生産

後工程が日によって引き取り量を大きく変えると、前工程はピークに備えて人も在庫も抱えるしかない。そこで最終組立ラインでは車種と数量を1日単位、さらには1台単位でならす。これを平準化と呼ぶ。A車・B車・C車を「AAABBC」ではなく「ABACAB」のように混ぜて流すのが典型的なやり方である。

タクトタイム

1個(1台)を何秒で造ればよいかを示すのがタクトタイムで、次の式で求める。

タクトタイム = 1日の稼働時間 ÷ 1日の必要数

たとえば稼働時間が450分(27,000秒)で必要数が900台なら、タクトタイムは30秒になる。設備能力ではなく売れる速さから決まるので、需要が落ちたら生産ペースも下げる。これが見込み生産と大きく異なる点である。

MRP・見込み生産との違い

同じ生産管理の手法でも、MRP(資材所要量計画)は計画から必要量を算出して前工程へ指示する「押し出し型」である。JITは消費の実績で補充する「引っ張り型」に分類される。主な違いを表にまとめる。

項目 ジャストインタイム MRP 見込み生産
生産指示の起点 後工程の消費実績 基準生産計画と部品表 需要予測
在庫水準 最小限(かんばん枚数で管理) 安全在庫を計算で設定 多め
向いている製品 反復性の高い量産品 構成部品の多い多品種品 需要が安定した汎用品
需要急変への強さ 弱い(平準化が前提) 計画変更で対応 在庫で吸収

実際には両者を併用する企業が多い。長納期の原材料はMRPで手配し、工場内の工程間はかんばんで回す、といった使い分けが一般的である。

部品メーカー側から見た導入の実務

JITを取り入れると、完成品メーカーの在庫は確かに減る。ところが取引先の部品メーカーが納期遅れを恐れて自社倉庫に在庫を積み増し、在庫が上流へ移るだけで終わるケースは少なくない。トヨタ系の部品メーカーでは1日に8回以上の多回納入も珍しくない。そのため、小口・高頻度の物流コストを誰が負担するかが、取引条件の交渉で必ず論点になる。

ロットを小さくするほど、段取り替えの回数は増える。プレス機の金型交換に1時間かかる工場で小ロット化を進めても、稼働率が下がるだけである。新郷重夫が広めたシングル段取り(SMED)は、段取り時間を10分未満に縮める手法で、JIT導入の前提条件として扱われることが多い。中小の加工現場では、まず段取り時間の測定から始め、内段取りと外段取りを分けるだけでも30〜50%短縮できる例がある。

供給網の寸断で浮かんだ弱点

在庫を絞った生産は、部品が1点でも届かなければラインが止まる。2011年の東日本大震災では、ルネサスエレクトロニクス那珂工場の被災によって車載マイコンの供給が滞り、国内の自動車生産が長期にわたって落ち込んだ。2022年3月には、取引先の小島プレス工業がサイバー攻撃を受けた影響で、トヨタの国内14工場28ラインが1日停止している。こうした経験を受けて、トヨタは半導体など調達に時間のかかる部品について数か月分の在庫を持つ方針へ改めた。サプライチェーン全体のリスクを見ながら在庫管理の水準を部品ごとに決め直す動きは、ほかの製造業にも広がっている。MITの研究グループが1990年にリーン生産方式として世界に紹介してから30年以上がたち、ジャストインタイムは「在庫ゼロ」の理想から「どこまで在庫を減らし、どこに残すか」を判断する考え方へと、その中身を変えつつある。

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