インバーター|直流を交流に変え周波数を自在に制御

インバーター

インバーターは、直流電力を任意の電圧と周波数をもつ交流電力へ変換する電力変換装置である。英語の「invert(反転させる)」に由来し、逆変換装置とも呼ばれる。本来は順変換を担う整流器(コンバーター)と対になる概念であるが、日本では商用交流をいったん直流に整流し、再び可変周波数の交流に戻す一体型の装置全体をインバーターと呼ぶことが多い。モーターの回転数制御、エアコンの省エネ運転、太陽光発電の系統連系など、適用範囲は家電から重工業まで幅広い。

水銀整流器から半導体へ:実用化の経緯

直流を交流へ戻す試みは20世紀前半からあり、水銀整流器や真空管を使った装置が研究されていた。転機となったのは1957年、米ゼネラル・エレクトリック社によるサイリスタ(SCR)の発表である。大電流を半導体でスイッチングできるようになり、1960〜70年代には鉄道車両や製鉄所の圧延機へ次々と導入されていった。1980年代にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が登場すると、装置は一気に小型化する。家庭用ルームエアコンへの搭載が始まったのもこの時期で、現在国内で出荷されるエアコンはほぼすべてがインバーター機となっている。

直流から交流をつくる原理

基本となる動作は、半導体スイッチの高速なオン・オフにある。4個のスイッチをブリッジ回路状に組み、対角の2個ずつを交互に導通させると、負荷にかかる電圧の向きが周期的に反転して矩形波の交流が得られる。三相出力ではスイッチを6個用い、各相を120°ずつずらして切り替える。矩形波のままでは高調波成分が多く、モーターの発熱や振動を招くため、実機ではPWM制御によって正弦波に近い波形をつくり出す。

PWM制御とV/f制御

PWM(パルス幅変調)は、一定周期のパルス列の幅を正弦波の瞬時値に合わせて変化させる手法である。スイッチング周期を決めるキャリア周波数は、汎用機で2〜15kHz程度に設定される。誘導電動機の同期速度は下式で表され、周波数を変えれば回転数を連続的に調整できる。4極機を60Hzで運転すると同期速度は1800min-1、30Hzに下げれば900min-1となる。ただし周波数だけを下げると磁束が過大になって鉄心が飽和するため、電圧と周波数の比を一定に保つV/f制御が古くから使われてきた。

Ns = 120 × f ÷ P
(Ns:同期速度[min-1]、f:電源周波数[Hz]、P:極数)

主回路の構成要素

汎用の電圧形インバーターは、おおむね4つのブロックで構成される。200V級の機種では、整流・平滑後の直流電圧が約280V(200V×√2)になる。

ブロック 主な部品 役割
コンバーター部 ダイオードブリッジ 商用交流を直流に整流する
平滑回路 電解コンデンサ、直流リアクトル 脈動を抑えて直流電圧を安定させる
インバーター部 IGBT、SiC-MOSFET 直流を可変電圧・可変周波数の交流に変換する
制御回路 マイコン、ゲートドライバ PWM信号の生成、過電流・過電圧の保護

スイッチング素子の材料による違い

素子の主流は長くシリコン製IGBTであったが、2010年代以降はSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使った素子が増えている。SiCは絶縁破壊電界がシリコンのおよそ10倍あり、同じ耐圧でもドリフト層を薄くできるので、スイッチング時の電力損失を大きく減らせる。東海道新幹線のN700Sでは主変換装置にSiC素子が採用され、床下機器の小型・軽量化につながった。もっとも、素子単価はシリコン品より高い。汎用の小容量機では、価格面で依然としてIGBTが優位に立つ。

おもな用途

求められる容量は数十Wから数十MWまで開きがあり、用途は産業用と民生用にまたがる。代表的な適用先は次のとおりである。

  • ファン・ポンプ・ブロワの回転数制御(ビル空調、上下水道設備)
  • 工作機械の主軸駆動、搬送コンベヤ、クレーン
  • エアコン、冷蔵庫、洗濯機、IH調理器などの家電製品
  • 電気自動車やハイブリッド車の走行用モーター駆動
  • 太陽光発電や蓄電池のパワーコンディショナ
  • 無停電電源装置(UPS)

ファン・ポンプで省エネ効果が大きい理由

遠心ファンや遠心ポンプでは、流量が回転数に比例し、軸動力は回転数の3乗に比例する(相似則)。回転数を80%に落とせば動力は0.83≒0.51となり、理論上はほぼ半減する。ダンパーやバルブで流量を絞る従来方式はモーターを定速で回し続けるため、この差がそのまま電気代に表れる。設備更新の提案書では、年間運転時間と負荷率から削減電力量を試算し、投資回収を3〜5年程度と見積もるケースが少なくない。

高調波と漏れ電流への対策

高速スイッチングの副作用として、電源側には高調波電流が、出力側には高周波の漏れ電流が流れる。国内では1994年に「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」が策定され、一定規模以上の需要家には流出電流の計算と抑制が課されている。電源側の対策は直流リアクトルやACリアクトルの挿入、多パルス整流、アクティブフィルタの設置が一般的である。出力側も軽視できない。モーターケーブルの対地静電容量を通じて流れる漏れ電流は、高感度の漏電遮断器を不要動作させることがあるため、インバーター回路対応品を選び、配線が長い場合は定格感度電流を100mA以上に上げる対応も取られる。上流の配線用遮断器は、高調波を含んだ実効電流と突入電流を見込んで定格を決める。

キャリア周波数と騒音のトレードオフ

キャリア周波数を上げるとモーターの電磁音は耳につきにくくなる一方で、素子のスイッチング損失と漏れ電流は増える。2kHz前後まで下げれば発熱は抑えられるものの、甲高い金属音が目立つ。病院や事務所ビルの空調では静音を優先して10kHz以上、密閉盤内に収める場合は温度上昇を避けて低めに設定するなど、現場ごとの調整が欠かせない。

選定と保守の勘所

容量はモーターの定格出力ではなく定格電流で選ぶのが基本である。同じ3.7kWでも極数や効率クラスによって電流値が異なり、出力だけで合わせると過電流トリップを招きやすい。汎用機の多くは周囲温度−10〜50℃を仕様範囲としており、盤内温度がこれを超えると寿命は急速に縮む。主回路の電解コンデンサは温度が10℃上がるごとに寿命がおよそ半分になるとされ、冷却ファンとともに定期交換部品の扱いとなる。メーカーが示す交換目安は、平均周囲温度40℃・24時間運転の条件でおおむね5〜10年である。国際規格ではIEC 61800シリーズが可変速駆動システムの安全性やEMC要件を定めており、海外向け設備では適合確認が求められる。

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