ポリテトラフルオロエチレン|耐薬品性と低摩擦に優れたフッ素樹脂

ポリテトラフルオロエチレン

ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)を重合して得られるフッ素樹脂の一種である。略称はPTFEで、デュポン社(現在はケマーズ社が事業を継承)の商標「テフロン」の名でも広く知られる。炭素の主鎖をフッ素原子がすき間なく覆う構造をもち、ほぼすべての薬品に侵されない耐薬品性、約260℃で連続使用できる耐熱性、固体の中でもきわめて小さい摩擦係数をあわせもつ。半導体製造装置から調理器具まで用途は幅広いが、溶融しても流動しないため、一般的なプラスチックとは異なる成形法が必要になる。

偶然から生まれた樹脂

発見は1938年4月にさかのぼる。デュポン社の化学者ロイ・プランケットは、冷媒の研究のためにテトラフルオロエチレンのガスをボンベに詰めて保管していた。ところがバルブを開けてもガスが出てこない。ボンベを切断すると、内部に白いろう状の粉末が残っていた。ガスが自然に重合していたのである。この物質はどの溶剤にも溶けず、当初は使い道が見つからなかった。状況を変えたのは第二次世界大戦中のマンハッタン計画である。ウラン濃縮に使う六フッ化ウランは非常に腐食性が強く、配管やシール材にPTFEが採用された。テフロンの商標登録は1945年、民生品としての本格的な販売は1950年前後に始まった。

分子構造が生む特性

化学式は −(CF2−CF2)n− と表される。C−F結合の結合エネルギーは約485 kJ/molで、有機化合物の結合の中でも特に強い。さらにフッ素原子は水素より大きく、炭素鎖をらせん状にねじりながら外側から隙間なく覆う。そのため、酸やアルカリ、有機溶剤が主鎖にとりつけない。侵されるのは溶融したアルカリ金属、高温のフッ素ガス、三フッ化塩素などごく一部に限られる。表面エネルギーが低いことも特徴で、水も油もはじく。焦げつかないフライパンはこの性質を利用したものである。

項目 代表値
比重 2.14〜2.20
融点 約327℃
連続使用温度 約260℃(低温側は−200℃程度まで使用可)
動摩擦係数(対鋼) 0.04〜0.10
比誘電率(1 MHz) 約2.1
吸水率 0.01%未満

誘電率と誘電正接がともに低く、周波数による変化もほとんどない。高周波回路の基板や同軸ケーブルの絶縁体に使われるのはこのためである。

射出成形ができない理由と加工法

PTFEは熱可塑性樹脂に分類されるが、融点を超えても溶融粘度が1010〜1011 Pa·s程度ときわめて高く、ほとんど流れない。一般的な樹脂の射出成形では粘度が102〜103 Pa·s程度であることを考えると、桁違いの値である。このため、粉末冶金に近い方法で成形される。代表的なのは、原料粉末を金型に入れて常温で20〜50 MPa程度の圧力をかけて予備成形し、そのあと炉で360〜380℃に加熱する方法である。この工程は圧縮成形と焼結を組み合わせたもので、丸棒や板、ブロックといった素材の大半がこれでつくられる。

原料粉末の違い

原料は重合方法によって性格が分かれる。懸濁重合で得られるモールディングパウダーは圧縮成形やラム押出に、乳化重合で得られるファインパウダーは助剤を混ぜて押し出すペースト押出に向く。ファインパウダーからはチューブや電線被覆、シールテープが生まれる。水に分散させたディスパージョンは、ガラスクロスへの含浸やコーティングに用いられる。規格ではASTM D4894がグラニュラー(モールディングパウダー)を、ASTM D4895がファインパウダーとディスパージョン由来の樹脂を扱い、国際的にはISO 12086が材料の分類と試験方法を定めている。

弱点を補う充填材入りグレード

すぐれた性質の裏側に、明確な弱点もある。荷重をかけ続けると少しずつ変形が進むクリープ(コールドフロー)が大きく、耐摩耗性も低い。軸受やピストンリングに純粋なPTFEを使うと、短期間ですり減ったり、締め付けたボルトが緩んだりする。対策として、充填材を混ぜたグレードが用意されている。

  • ガラス繊維入り(15〜25%):耐クリープ性と耐摩耗性を改善した汎用品
  • カーボン入り:熱伝導性と耐摩耗性が高く、水中や無潤滑の摺動に向く
  • ブロンズ入り(40〜60%):圧縮強さと熱伝導に優れ、油圧機器のシールに多用される
  • グラファイト入り:相手材を傷つけにくく、軟らかい金属との摺動に使われる

ただし、充填材を加えると純度が下がり、電気特性や耐薬品性はわずかに低下する。ブロンズ入りは強酸に弱く、半導体用途では金属汚染の原因にもなる。現場では「薬液に触れる部品は無充填(バージン)材、摺動部品は充填材入り」と使い分けるのが基本である。

産業分野での使われ方

最も量が多いのは化学プラントの配管ライニングやバルブシート、ガスケット、パッキンといったシール用途である。半導体工場では、高純度の薬液を流すウエハー洗浄槽や継手に欠かせない。電気分野では耐熱電線の被覆や高周波基板に使われ、建築では膜構造の屋根材として、ガラス繊維布にPTFEを含浸させた膜材が東京ドームなどに採用された。延伸加工で微細な孔をつくった延伸PTFEは、1969年にボブ・ゴアが開発したもので、防水透湿素材やフィルター、人工血管に使われている。

ほかのフッ素樹脂との違い

PTFEの加工しにくさを改良するために、溶融成形できるフッ素樹脂が後から開発された。PFAはPTFEとほぼ同等の耐熱性をもちながら射出成形ができ、半導体向けの継手やチューブに用いられる。FEPは耐熱温度が約200℃とやや低いものの透明性が高い。ETFEは機械的強度にすぐれ、電線被覆や建築膜に使われる。価格はPTFEがもっとも安く、PFAは数倍に達することが多い。切削でつくれる形状ならPTFE、複雑な形状を大量につくるならPFAという選び方が一般的である。

切削加工と取り扱いの注意点

素材ブロックから部品を削り出す場合、寸法管理が一番の悩みになる。PTFEは線膨張係数が約10×10−5/Kと、鉄の8倍以上ある。そのうえ19℃付近と30℃付近で結晶構造が変わり、19℃の転移では体積がおよそ1%も変化する。冬場の工場と夏場の検査室とで測った寸法が合わない、というトラブルはこの性質が原因であることが多い。精密部品では、測定温度を23℃前後に決めて材料を十分に置いてから検査するのが現場の常識となっている。刃物は切れ味のよいものを使い、熱をこもらせないことも大切である。焼結品には内部応力が残っていることがあり、加工後に変形する場合はアニール処理を行う。

安全面では、400℃を超えると分解が始まり、有毒なフッ素化合物のガスが発生する点に気をつけたい。このガスを吸うと、インフルエンザに似た症状が出るポリマーヒューム熱を起こす。加工くずを焼却したり、溶接作業の近くでPTFE部品を加熱したりすることは避ける必要がある。

PFAS規制と製造方法の変化

かつて乳化重合では、乳化剤としてペルフルオロオクタン酸(PFOA)が使われていた。PFOAは自然界でほとんど分解されず、人体への蓄積が問題になった。米国環境保護庁の削減プログラムを受けて、主要メーカーは2015年までにPFOAの使用を止め、代替の乳化剤に切り替えている。現在はさらに広い範囲のPFAS(有機フッ素化合物)全体を規制する動きがあり、欧州では2023年にREACH規則による包括的な制限案が公表された。PTFE自体は安定な高分子であるが、製造時や廃棄時の環境負荷をどう扱うかが議論の焦点となっており、ユーザー企業でも代替材料の検討や調達先の情報収集が進められている。

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