微細加工|μm単位で形を作る精密加工技術

微細加工

微細加工とは、マイクロメートル(μm)からナノメートル(nm)の寸法で材料に形を与える加工技術をまとめて呼ぶ言葉である。英語ではmicrofabrication、またはmicromachiningという。半導体デバイスの回路形成のほか、MEMS、光学部品、医療用カテーテル部品など、扱う対象は幅広い。加工する単位が小さくなると、工具の刃先の丸み、光の波長、材料の結晶粒の大きさといった物理的な制約が結果を大きく左右するようになる。そのため、通常の機械加工とは異なる発想が必要になる。

構想から産業技術になるまで

出発点としてよく挙げられるのが、物理学者リチャード・ファインマンが1959年に行った講演「There’s Plenty of Room at the Bottom」である。原子の単位で物を操作できる可能性を示した内容だが、当時は思考実験の色合いが強かった。1974年には東京理科大学の谷口紀男が精密工学会の講演で初めて「ナノテクノロジー」という言葉を使い、加工精度が1nmに近づく将来像を論じている。実用化を引っ張ったのは、1960年代以降の集積回路製造である。1965年に提唱されたムーアの法則のとおり、トランジスタの集積度はおよそ2年ごとに倍になった。この要求に応えるために、露光やエッチングの技術は急速に進歩した。1980年代には、ドイツのカールスルーエ原子力研究センターがLIGAプロセスを開発した。X線リソグラフィ、電鋳、成形を組み合わせた方法で、幅に比べて深さが大きい(高アスペクト比の)金属微細構造を作れるようになった。

加工原理による分類

手法は、材料を取り除く「除去加工」、材料を積み上げる「付加加工」、形を変える「変形加工」の3つに大きく分けられる。代表的な手法と、加工できる寸法の目安を下の表にまとめた。

分類 代表的な手法 最小加工寸法の目安 主な対象材料
除去加工 ドライエッチング、放電加工、マイクロ切削 数nm〜数十μm シリコン、金属、セラミックス
付加加工 薄膜堆積(CVD・スパッタ)、電鋳、マイクロ3Dプリンティング 原子1層分〜数μm 金属、酸化物、樹脂
変形加工 ナノインプリント、マイクロプレス 10nm前後〜数十μm 樹脂、薄い金属板

フォトリソグラフィとエッチング

半導体分野で中心となる技術がフォトリソグラフィである。まずシリコンウェハの上に、光に反応する樹脂(フォトレジスト)を塗る。次にマスクのパターンを縮小して投影・露光し、現像する。そのあとエッチングで、パターンを下地に写し取る。解像できる最小の線幅Rは、レイリーの式でR = k1 × λ / NAと表される(λ:露光に使う光の波長、NA:投影レンズの開口数、k1:プロセスで決まる係数)。式のとおり、波長が短いほど細い線が描ける。そのため光源は、g線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)と短波長化が進んだ。現在の最先端品では、波長13.5nmの極端紫外線(EUV)が使われている。エッチングには、薬液を使うウェット方式と、プラズマ中のイオンやラジカルを使うドライ方式がある。深い溝が必要なMEMSでは、ボッシュプロセスが定番である。エッチングと、溝の側壁を守る膜の堆積を数秒ごとに交互に繰り返す方法で、アスペクト比20を超える垂直な溝も作れる。

工具やビームで直接削る方法

マスクを使わず、形を直接作り込む方法も多い。切削加工では、刃の直径が0.1mm以下の超硬エンドミルや、単結晶ダイヤモンド工具を使う。これを毎分4万〜10万回転の高速スピンドルに取り付け、金型やレンズの面を仕上げる。放電加工の場合は、直径0.02〜0.05mmほどの細いワイヤを電極にするワイヤ放電加工で、小さな打ち抜き型を作れる。レーザー加工で近年注目されているのはフェムト秒レーザーである。パルスの長さが10-15秒単位と非常に短いので、熱が周りに伝わる前に加工が終わる。熱による変質層がほとんどできないのが利点である。集束イオンビーム(FIB)や電子ビーム描画は、数nmの細かさまで加工できる。ただし一筆書きのように1か所ずつ順番に加工するため、処理が遅い。用途は試作、マスク製作、不良解析などに限られやすい。

現場での使い分けとコスト感

量産の現場では、精度よりも「段取りの手間と設備の償却」で手法が決まることが多い。EUV露光装置は1台200億円を超える水準とされ、同じパターンのチップを大量に流す半導体工場でなければ元が取れない。対照的に、医療機器や時計部品のように数百個単位のロットで形が頻繁に変わる製品では、マスク代がかからない微細切削や放電加工が選ばれやすい。マイクロエンドミルは刃先がすぐに摩耗する。1本数千円〜数万円の工具が数時間で寿命を迎えることも珍しくない。この工具費を見積もりに入れておかないと、赤字の案件になりかねない。また、寸法が小さいほどバリ取りは難しくなる。後工程まで含めて工程を組めるかどうかで、受注時の見積もりの精度が大きく変わる。

応用分野の広がり

微細加工が使われている製品は、身の回りにたくさんある。半導体以外でも、部品を小さくすることがそのまま性能向上や製品の小型化につながる分野で採用が広がっている。主な用途は次のとおりである。

  • 演算用・記憶用の半導体チップ(回路線幅2nm世代の量産が2025年に始まった)
  • スマートフォンに入っている加速度センサーやマイクロフォンなどのMEMS
  • インクジェットプリンターのノズル、細い流路を持つ分析チップ(μTAS)
  • カメラ用レンズを成形する金型、回折光学素子
  • ステントや注射針などの医療機器部品

加工環境と計測

ごく小さな塵が1つ付くだけで回路が断線するため、加工はクリーンルームの中で行う。空気の清浄度はISO 14644-1で決められている。目安としては、最先端の半導体の露光工程でISOクラス1〜3、MEMSや光学部品でクラス5前後である。温度の管理も欠かせない。鋼の線膨張係数は約11×10-6/Kなので、長さ100mmの部品は温度が1℃変わるだけで約1.1μm伸び縮みする。精密加工を行う部屋で室温を20℃±0.1℃程度に保つのは、このためである。仕上がりの評価には、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、白色干渉計などを使う。表面粗さは、日本ではJIS B 0601に基づくRaやRzで表すのが一般的である。測定器の細かさが加工寸法に追いつかなければ、品質を保証できない。その意味で、計測技術と加工技術は切り離せない関係にある。

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