耐薬品処理|酸やアルカリから素材を守る表面加工

耐薬品処理

耐薬品処理とは、金属や樹脂、コンクリートなどの基材表面に被膜や改質層をつくり、酸・アルカリ・有機溶剤による腐食、膨潤、溶解を抑える表面処理の総称である。化学プラントの貯槽や配管、めっき工場の処理槽、半導体製造装置の薬液ラインなど、腐食性の流体に長時間触れる部位で広く使われている。手法には樹脂ライニング、ガラスライニング、めっき、化成処理、塗装などがある。どれが最適かは、対象となる薬品の種類・濃度・温度によって大きく変わる。

耐薬品処理の歴史

工業的な耐食被覆の歴史は古い。19世紀後半には欧米で、鋼製容器の内面にガラス質を焼き付ける技術がすでに実用化されていた。これが現在のグラスライニングの原型にあたる。大きな転機は1938年に訪れた。米デュポン社のロイ・プランケットがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を発見したのである。ほぼすべての酸・アルカリに侵されないこの樹脂は、第二次世界大戦中に六フッ化ウランを扱う設備のシール材として使われ、戦後は化学工業全般に広まった。日本では1960年代の石油化学コンビナート建設をきっかけに、ゴムライニングやFRPライニングを手がける施工業者が数多く生まれている。

耐薬品処理が使われる現場

耐薬品処理が必要な現場は、重厚長大な装置産業から研究施設まで幅広い。半導体分野では耐食性だけでなく、ppbレベルの金属溶出も問題になる。このため、溶出の少ないフッ素系材料がほぼ標準になっている。主な用途は次のとおりである。

  • 化学プラントの反応槽・貯槽・配管(グラスライニング、フッ素樹脂ライニング)
  • めっき・表面処理ラインの薬液槽や排気ダクト(硬質塩化ビニル、FRP)
  • 半導体・液晶製造装置の高純度薬液ライン(PFA、PTFE)
  • 排煙脱硫装置や排水処理設備のコンクリート防食(エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂による塗装)
  • 研究所の実験台天板や排気フード(エポキシ系天板、セラミック系天板)

薬品による劣化の仕組み

金属は主に電気化学的な溶解反応によって劣化する。塩酸のような非酸化性の酸は鉄をすばやく溶かす。塩化物イオンはステンレス鋼の不動態皮膜を局所的に壊し、孔食を引き起こす。樹脂やゴムでは劣化の起こり方が異なり、溶剤が分子鎖のすき間に入り込んで膨潤したり、濃硫酸や硝酸などの酸化力の強い酸が分子鎖そのものを切断したりする。フッ化水素酸はガラスのケイ素成分と反応するため、グラスライニングには使えない。劣化の仕組みを見誤ると、高価な処理を施しても数か月で剥離や漏洩が起こることがある。

代表的な処理方法の比較

実際に採用する手法は、基材の材質と使用条件から絞り込む。主な方法の特性を下表に示す。数値は一般的な目安であり、薬品の組み合わせや施工品質によって変わる。

処理方法 主な材料 膜厚の目安 耐熱温度の目安 不向きな薬品
フッ素樹脂ライニング PTFE、PFA、ETFE 2〜3mm(シート) 150〜200℃ 溶融アルカリ金属、フッ素ガス
グラスライニング ホウケイ酸系ガラス 0.8〜2mm 約200℃ フッ化水素酸、高温の濃アルカリ
ゴムライニング 天然ゴム、ブチルゴム 3〜6mm 60〜90℃ 酸化性の酸、芳香族溶剤
FRPライニング ビニルエステル樹脂+ガラス繊維 2〜5mm 80〜120℃ 高濃度アルカリ、ケトン類
無電解ニッケルめっき Ni-P合金 10〜50μm 基材による 硝酸などの酸化性の酸

フッ素樹脂ライニング

フッ素樹脂は、耐薬品性で最も高い評価を受ける材料である。溶融成形できるPFAは、回転成形によって複雑な形状の内面にも継ぎ目のない層をつくれる。弱点はガスの透過である。塩化水素ガスや塩素が樹脂層を通り抜け、鋼板との境目で結露してライニングを膨らませる事例は少なくない。対策として、層を厚くしたり透過防止層を組み合わせたりする方法がとられる。

めっき・化成処理

寸法精度を保ちたい機械部品には、薄い膜で済む無電解ニッケルめっきがよく選ばれる。リン含有率10〜13%の高リンタイプは非晶質となり、耐食性が高い。アルミニウム合金には陽極酸化(JIS H 8601)で5〜25μm程度の酸化皮膜をつくり、封孔処理を加えて耐薬品性を補う。ステンレス鋼に対しては、硝酸やクエン酸による不動態化処理(ASTM A967)で表面の遊離鉄を取り除き、クロム酸化物の皮膜を整える。

評価試験と関連規格

性能の確認は浸せき試験が基本となる。プラスチックについてはJIS K 7114(ISO 175に対応)が、液体薬品に浸したときの質量・寸法・外観の変化を求める方法を定めている。米国ではASTM D543が同じ役割を担う。塗膜の耐液体性はJIS K 5600-6-1で評価する。標準条件は23℃で1週間程度の浸せきが多いものの、それだけでは実機の寿命を予測しにくく、実際の温度と濃度に近い条件での追加試験が欠かせない。ライニングを施工した後には、高電圧をかけてピンホールを探すスパーク試験も行う。

施工と保守の注意点

処理がうまくいくかどうかは、下地調整でほぼ決まるといわれる。鋼板にライニングする場合は、ブラスト処理でISO 8501-1のSa 2½程度まで表面をきれいにし、粗さをつけてからプライマーや接着剤を塗る。湿度85%を超える環境で施工すると、結露が原因で密着不良が起こりやすい。運転を始めた後は、定期修理のたびに目視とスパーク試験で膨れや亀裂を点検する。薬液の切り替えにも注意したい。耐性表で「可」となっている薬品同士でも、混ざったり温度が上がったりすると、思わぬ劣化が起こることがある。

選定とコストの考え方

調達の現場では、ライニングメーカーが出す耐薬品性表と、設備に想定している寿命を照らし合わせて仕様を決める。同じ容量の貯槽でも、フッ素樹脂ライニングの施工費はゴムライニングの数倍になることがあり、初期費用だけで判断すると選択を誤りやすい。たとえば40℃程度の希塩酸槽なら、ゴムライニングで10年以上使える例もある。しかし80℃を超える条件では、フッ素樹脂かグラスライニングでなければ保守の頻度が急に増える。補修のしやすさも見落とせない。ゴムやFRPは現場で部分補修ができる。グラスライニングの場合、現場でできるのは損傷部をタンタル製のプラグでふさぐ程度で、欠けが大きければ工場に持ち帰って再施工することになる。

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