平ワッシャ
平ワッシャとは、中央に穴のあいた薄い円板状の締結補助部品であり、ボルトや六角ナットの座面と被締結材の間に挟んで使用する座金である。英語ではplain washerまたはflat washerと呼ばれ、日本語では平座金と同義で用いられる。主な役割は座面の接触面圧を分散し、母材のめり込みや傷を防ぐことにあり、JIS B 1256(平座金)およびISO 7089、ISO 7090、ISO 7091に寸法や硬さが規定されている。単純な形状ながら締付け軸力の安定化に直結するため、機械設計・保全の現場で最も消費量の多い機械要素のひとつである。
定義と規格体系
JIS B 1256では、平ワッシャを並形・小形・大形の3系列に区分し、それぞれ内径、外径、厚さを規定している。例えば呼び径M10の並形では内径10.5mm、外径21mm、厚さ2mmが標準寸法である。国際規格ではISO 7089が硬さ200HV級の標準系列、ISO 7090が面取り付き、ISO 7091が精度の粗い製品グレードCに対応する。高力ボルト用にはJIS B 1186に基づく焼入れ座金が別途規定されており、強度区分8.8や10.9のボルトと組み合わせる場合は300HV級の高硬度品を選定するのが原則である。規格の詳細はねじの強度区分と併せて確認するとよい。
寸法系列の比較
同じ呼び径でも系列によって外径と厚さが異なる。呼び径M10を例にとると次の通りで、座面の状態に応じて外径を使い分ける。
| 系列 | 内径 | 外径 | 厚さ | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 小形 | 10.5mm | 18mm | 1.6mm | 狭小座面・軽量化 |
| 並形 | 10.5mm | 21mm | 2mm | 一般締結の標準 |
| 大形 | 10.5mm | 30mm | 2.5mm | 薄板・軟質材・長穴 |
機能と力学的な働き
締結部に生じる座面応力は、面圧p=F/A(F:軸力、A:受圧面積)で表される。平ワッシャを介在させると外径分だけ受圧面積Aが拡大し、面圧が低下する。アルミニウム合金や樹脂、塗装鋼板のように座面が柔らかい母材では、座金なしで締め付けると座面が塑性変形して初期軸力が数十%失われることがある。座面の平滑化によって摩擦係数のばらつきも減り、トルク法による締付け管理の再現性が向上する。ただし平坦な円板であるため、それ自体に強い緩み止め機能はない。振動環境ではスプリングワッシャーや歯付き座金、ねじロック剤との併用が検討される。長穴やキリ穴の径が大きい箇所では、頭部やナットの掛かり代を確保する目的でも欠かせない。ワッシャー全般の分類の中では、最も基本となる形式である。
材質と表面処理
一般用途では冷間圧延鋼板(SPCC、SPCE)や一般構造用の鋼材を素材とし、電気亜鉛めっき(三価クロメート)で防錆するのが標準的である。屋外の鋼構造物では溶融亜鉛めっき品を用い、めっき厚に応じて内径のクリアランスを大きく取る。腐食環境や食品機械ではSUS304やSUS316などのステンレス鋼、導電性が必要な電気部品では黄銅や銅、絶縁が必要な箇所ではナイロンやPTFEなどの樹脂製が使われる。異種金属の組合せでは電食が問題になりやすく、アルミ母材にステンレス座金を直接当てる場合は絶縁処理や塗装の要否を検討する。高温部では硬さ低下と応力緩和を考慮し、耐熱鋼や皿ばね座金への置換えも選択肢となる。
製造方法
量産品はプレスによる打ち抜きで作られる。せん断加工の性質上、板の入側にはだれ、出側にはバリが生じ、表裏で座面の性状が異なる。このため精度が要求される締結部では、だれ側を母材に向ける、あるいはバリ取り・面取り済みの製品を指定するといった管理が行われる。打ち抜き後は平面矯正、必要に応じて焼入れ焼戻し、表面処理の工程を経る。受入検査では内外径公差、板厚、平面度、硬さが確認項目となる。
選定の実務ポイント
選定では次の項目を順に確認する。第一に呼び径で、ボルト呼びに対して過大な内径は偏荷重と片当たりを招く。第二に外径系列で、薄板・軟質材・長穴には大形(いわゆるワイドワッシャ)を選び面圧を下げる。第三に厚さと硬さで、高強度ボルトに軟らかい座金を組むと座金がめり込み、軸力低下と緩みの起点になる。第四に表面処理で、母材との電位差、摩擦係数、使用温度を照合する。コスト面では、鉄製の三価クロメート品を基準とするとステンレス品は概ね2〜3倍、焼入れ座金はさらに高価になるため、汎用部と重要保安部で使い分けるのが現実的である。組込み工数を削減したい場合は、座金組込みボルト(セムス)やフランジ付きの六角ボルトへの置換えも有効である。
用途例
産業機械ではブラケットや架台の締結、軸受ハウジングの固定など、ねじ締結のほぼ全域で使用される。板金筐体では深座ぐりと組み合わせて頭部を沈める設計も多く、座金外径と座ぐり径の整合を図面段階で確認しておく必要がある。建築鉄骨、自動車、家電、家具に至るまで用途は広く、呼び径M3からM64程度まで市販品が流通している。単価が数円程度の部品でありながら、選定を誤ると締結全体の信頼性を損なうため、標準品の系列を社内規格として整備しておくことが望ましい。
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