予熱|溶接・熱処理の品質を左右する加熱工程

予熱

予熱とは、溶接や熱切断などの加工を行う前に、母材をあらかじめ所定の温度に加熱する処理である。溶接時には局所的な急熱・急冷が避けられず、熱影響部の硬化や低温割れ、残留応力の増大といった問題を引き起こしやすい。予熱を施すことで冷却速度を遅くし、これらの欠陥を防止するとともに溶接継手の機械的性質を向上させる。中・高炭素鋼や合金鋼、鋳鋼など溶接性が低下しやすい材料において特に重要な作業とされる。

目的と効果

予熱の主な目的は、低温割れの防止、硬化組織の生成抑制、延性・靱性などの機械的性質の向上、変形・残留応力の低減、およびブローホールの発生防止である。溶接後の冷却速度が遅くなることで、溶接金属中に閉じ込められた拡散性水素が外部へ放出しやすくなり、熱影響部の硬さも低下するため、低温割れが発生しにくくなる。また、予熱によって溶接部付近の温度勾配が緩やかになるため、溶接変形や残留応力の発生も抑制される。

予熱温度の決定

予熱温度は材料の炭素当量、板厚、継手形状、拘束度、溶接方法、使用する溶接材料、作業環境(気温・天候)などを総合的に考慮して決定する。一般的な目安として、低炭素鋼(炭素含有量0.2%以下)では予熱が不要な場合も多いが、炭素含有量が0.2%を超えると100〜200℃程度が目安となり、炭素量が増加するにつれて予熱温度も高くする必要がある。また、板厚が厚くなるほど冷却速度が速くなるため、炭素当量が同じ材料であっても板厚の増加に応じて予熱温度を高く設定することが推奨される。冬季など外気温が低い環境下では、通常より高めの予熱温度を設定することが望ましい。

炭素当量と予熱温度の関係

炭素当量(Ceq)は、炭素以外の合金元素の影響を炭素量に換算した指標であり、溶接性の評価に広く用いられる。炭素当量が大きいほど熱影響部の硬化が大きくなり、低温割れのリスクが高まるため、必要な予熱温度も高くなる。マルテンサイト系ステンレス鋼では200〜400℃程度の予熱が行われ、拡散性水素を放出させるとともに冷却速度を低下させてマルテンサイト相の析出を抑制する。一方、オーステナイト系ステンレス鋼は通常予熱を行わず、パス間温度も鋭敏化を防ぐために低く抑えることが求められる。

予熱方法と加熱設備

予熱方法には、ガスバーナーによる火炎加熱、電気抵抗加熱器、赤外線電気ヒーター(遠赤外線ヒーター)、炉加熱(誘導加熱を含む)などがある。ガスバーナーによる加熱は簡便性に富んでいるが、長時間均一な温度に保持するにはサーモスタット付きの電気抵抗加熱器などが適している。遠赤外線ヒーターは加熱効果が良好で加熱範囲も広く、現場で広く使用されている。予熱作業においては加熱温度だけでなく、加熱速度や加熱範囲も重要であり、開先部だけを加熱するのではなく溶接線から約100mm離れた範囲が所定温度に達するよう幅広く加熱することが基本である。

温度管理

予熱温度の確認には表面温度計や温度チョーク(テンプスティック)が用いられる。測定位置は溶接線の両側約50mmとするのが標準的である。温度チョークは特定の温度に達した時点で色が変化するため、現場での簡易確認に適している。温度が不均一なまま溶接を開始すると、局所的な急冷が生じて予熱の効果が損なわれるため、均一な加熱を確認してから溶接を開始することが不可欠である。

パス間温度との関係

多層盛り溶接では、各パスの溶接前に保持する温度をパス間温度という。予熱温度とパス間温度は密接に関連しており、溶接中に予熱温度を下回らないよう管理することが求められる。高炭素当量材料では、パス間温度を高く保つことで熱影響部の最高硬さを低下させ、低温割れを防止できる。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼のようにパス間温度を低く抑える必要がある材料では、過度な加熱が炭化物析出による鋭敏化を招くため、予熱・パス間温度管理の方向性は材料に応じて正反対になることがある。

鋳鋼への適用

鋳鋼の溶接補修において予熱は特に重要な工程とされる。予熱を行わずに溶接すると、溶接熱による急熱・急冷で溶接部が硬化し、割れなどの致命的な欠陥が生じる。一般的に鋳鋼の予熱温度は炭素当量から推定され、炭素当量が高いほど高い予熱温度が必要になる。溶接補修が終了したら速やかに炉に戻して徐冷する方法も採用されており、溶接後に後熱処理を行うまでの間は300〜400℃で30分から1時間程度の直後熱処理を施すか、溶接部を100℃以上に保持することが遅れ割れ防止に有効とされる。

熱処理との関係

予熱は溶接前の処置であるのに対し、溶接後熱処理(PWHT)は溶接完了後に行う処理であり、両者は目的が異なる。焼なましに代表される後熱処理は、残留応力の緩和と組織の均質化を主な目的として600〜650℃程度で行われることが多い。予熱が主に割れの防止と硬化抑制を担うのに対し、後熱処理は溶接部全体の機械的特性を安定させる役割を担う。適切な予熱が行われ、溶接中も予熱温度が維持されていれば、鋳鋼溶接における直後熱処理が不要になる場合もある。

予熱が不要な場合と省略の条件

炭素含有量が0.2%以下の低炭素鋼で板厚が薄い場合は、一般的に予熱が不要とされる。ただし、板厚が25mm以上になると溶接部が急冷されやすく割れが生じる危険があるため、低炭素鋼であっても予熱の要否を検討する必要がある。また、開先面に結露のおそれがある場合や外気温が極端に低い場合は、予熱の省略判断に際して特別な注意が求められる。溶接の種類によっても要求が異なり、大入熱溶接プロセスでは急冷を避けやすいため、割れ発生のリスクが低下する場合がある。

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