円筒埴輪|古墳の周囲を囲み聖域を区画する土器

円筒埴輪

円筒埴輪とは、日本の古墳時代において古墳の墳丘上や周囲に並べられた土製の焼き物であり、最も基本的な形態を持つ埴輪の一種である。円筒形の形状をしており、底部から上部まで中空の構造を持つ。円筒埴輪は、墳丘の斜面の崩落を防ぐ土留めとしての機能や、聖域を区画する垣根としての役割を果たしたと考えられている。その起源は弥生時代後期の吉備地方で見られる特殊器台・特殊壺に求められ、古墳時代の成立とともに日本各地の前方後円墳などの墳丘に定着した。本項では、その歴史的背景、種類、製作技法、および考古学的な意義について詳述する。

円筒埴輪の起源と成立

円筒埴輪のルーツは、弥生時代後期の吉備地方(現在の岡山県周辺)において、首長の葬儀に用いられた特殊器台および特殊壺にあるとされる。これらの供献土器が、古墳時代の幕開けとともに簡略化・形式化され、巨大な墳丘を飾る円筒埴輪へと進化した。当初は装飾性の高い文様が施されていたが、次第に量産を目的とした機能的な造形へと変化していった。この変化の過程は、地域の豪族による支配体制の強化や、大和王権を中心とした政治秩序の形成と密接に関連している。

円筒埴輪の種類と特徴

円筒埴輪は、その形状や付随する構造によって大きく二つの型に分類される。一般的に想像される単純な筒状のもの以外にも、祭祀的な意味合いを強く持つ形態が存在する。これらは古墳の規模や被葬者の権威に応じて使い分けられ、形象埴輪が導入された後も、墳丘の主要な構成要素として使い続けられた。

普通円筒埴輪

最も一般的な形態であり、単に円筒状の胴部を持つものである。胴部には、粘土の帯を積み上げた継ぎ目である「突帯(とったい)」が巡らされ、その間には焼成時の破裂を防ぐための「透孔(すかしあな)」が開けられている。円筒埴輪の透孔の形は、円形、方形、三角形など時期によって変化し、編年の重要な指標となる。

朝顔形埴輪

円筒埴輪の上部に、広口の壺を載せたような形状を持つものである。その名の通りアサガオの花が開いたような姿をしており、供物や酒を捧げるための壺が一体化したものと解釈されている。朝顔形埴輪は、列をなす円筒埴輪の中に一定の間隔で配置されることが多く、特定の祭祀ポイントを示す指標であった可能性が高い。

配置と機能

円筒埴輪が古墳に配置される目的は、単なる装飾に留まらない。考古学的な調査に基づくと、主に以下の三つの機能が想定されている。

  • 土留め効果:墳丘の斜面に沿って密に並べることで、雨水による土砂の流出や崩落を防ぐ工学的役割。
  • 聖域の画定:死者の世界である墳丘と、生者の世界を視覚的に分かつ「垣根」としての役割。
  • 祭祀の舞台演出:墳頂部やテラスに並べることで、葬送儀礼を行うための荘厳な空間を作り出す視覚的効果。

製作技法と変遷

円筒埴輪の製作には、主に土師器の製作技法が用いられた。粘土を輪状にして積み上げる「輪積み法」が一般的であり、表面はハケ目調整やナデによって整えられた。古墳時代中期以降になると、製作効率を上げるために「タタキ技法」が導入されるなど、工芸技術の進展が見られる。

時期 円筒埴輪の特徴 主な透孔の形状
前期 特殊器台の面影を残し、底部が広い。 円形・楕円形
中期 突帯が発達し、定型化が進む。 方形・三角形
後期 小型化し、簡略な作りが目立つ。 円形(小)

考古学的意義

円筒埴輪は、出土数が極めて多く、その形態や製作技法の変化が細かく研究されている。これにより、古墳の築造年代を決定する「編年」の基準として非常に重要な役割を担っている。また、円筒埴輪の供給源を特定することで、当時の地方勢力間の交流や、中央政権による生産体制の管理状況を明らかにすることができる。円筒埴輪は、文字資料の乏しい古墳時代において、当時の社会構造を映し出す貴重な物証なのである。