HVジャンクションボックス|高電圧回路の集約・保護ユニット

HVジャンクションボックス

HVジャンクションボックスは、電気自動車やハイブリッド車の高電圧系統で電力を安全かつ効率的に分配・遮断する中枢ユニットである。高電圧バッテリーからの直流電力を集約し、インバータ、OBC(オンボードチャージャー)、DC-DCコンバータ、電動コンプレッサ、PTCヒーターなど複数負荷へ配電する。内部には主回路用コンタクタ、プリチャージ回路、ヒューズやパイロヒューズ、電流・電圧センサ、HVIL(High Voltage InterLock)などを備え、起動時の突入電流抑制、異常時の遮断、整備時の感電防止を担う。英語では HVJB(High Voltage Junction Box)や PDU/BDU に類似用語が見られるが、車両実装や機能分担で名称が変わる場合がある。

構成要素と基本機能

HVジャンクションボックスの典型構成は、銅製バスバーと定格に応じたヒューズ群、正極・負極のメインコンタクタ、プリチャージ抵抗+プリチャージリレー、シャントまたはホール式の電流センサ、分圧型電圧センサ、衝突時に瞬時遮断するパイロヒューズ、サービスプラグ、そしてHVIL回路である。これらが集合し、配電・計測・保護・整備安全を一体で実現する。

動作原理(起動・遮断シーケンス)

起動時は、まずプリチャージリレーのみを閉成して抵抗経由でDCリンクコンデンサを充電し、電圧上昇が閾値に達したらメインコンタクタを閉じる。これにより突入電流と接点損傷を抑える。停止や異常時はメインコンタクタを開放し、必要に応じてパイロヒューズが機械的に回路を切り離す。HVILが開いた(カバー開放・コネクタ抜去)場合は高電圧を自動遮断し、整備者の安全を確保する。

設計要件(定格・絶縁・熱設計)

車載では400 V級や800 V級が主流であり、定格電圧・定格電流・短時間耐量(I²t)、クリープ距離・クリアランス、部分放電開始電圧、発熱と放熱、導通抵抗低減が主要要件である。樹脂材はCTIや難燃性を考慮し、ガスケットやポッティングでIP等級と耐結露性を確保する。バスバーは断面・メッキ(Sn/Ni等)・締結トルク管理により温度上昇を抑える。

安全規格・適合

HVジャンクションボックスは、車両全体の電気的安全(例: ISO 6469-3)、機能安全(ISO 26262)、高電圧部の絶縁協調(IEC 60664の考え方)や車両規則(例: UN R100)などに整合する設計が求められる。絶縁抵抗・耐電圧・誤組付け防止・フェイルセーフ動作の検証が不可欠である。

配置とインターフェース

搭載位置はバッテリーパック近傍やフロントコンパートメントなどで、配電距離・温度環境・衝突時保護を総合評価する。高圧ハーネスはシールドやルーティングでEMIとノイズ結合を抑え、サービスプラグは整備性の高い位置に設置する。外部インターフェースはインバータ、OBC、DC-DC、補機へDCラインを提供し、診断線やHVILラインをECUへ接続する。

故障モードと対策

  • コンタクタ溶着・接点摩耗:突入抑制、アーク管理、適正定格選定、温度監視で対策する。
  • ヒューズ溶断・短絡:I²t整合、下流機器の保護協調、短絡時のアーク遮断経路を確保する。
  • 絶縁劣化・結露:材質・クリープ距離・ベント構造・シール強化、コーティングで耐環境性を高める。
  • センサ故障・配線断:二重化(必要時)、レンジ監視、合理的なOBD診断とフォールトコード管理を行う。

製造・組立と品質管理

筐体はスナップフィット+ガスケット、またはポッティングで封止する。バスバーはプレス成形後に表面処理を行い、ワッシャやナットの向き・トルクをポカヨケ化する。EOLでは耐電圧試験、絶縁抵抗、導通抵抗、HVIL連続性、リーク電流、機能シーケンス試験を全数実施する。トレーサビリティ確保のためロット・トルク・温度履歴を記録する。

検証試験(信頼性・環境)

熱サイクル、振動・衝撃、塩水噴霧、湿熱、化学薬品曝露、粉塵・高圧洗浄(例: IP6K9K想定)を行い、クラックやシール不良、メッキ劣化、接触抵抗上昇を評価する。電気的には耐サージ、ESD、部分放電、長期通電での温度上昇とドリフトを確認する。

用語とバリエーション

車両やメーカーによりPDU(Power Distribution Unit)やBDU(Battery Disconnect Unit)と呼ばれる場合がある。PDUは負荷側配電機能を強調し、BDUはバッテリー直近での遮断を強調する傾向があるが、実機では両者の機能を兼ねることも多い。いずれもHVジャンクションボックスと近縁のユニットである。

同義語・略語

HVJB、PDU、BDU、HVIL、DCリンク、プリチャージ、パイロヒューズなどが関連語である。文脈に応じて機能・搭載位置・保護方式が異なるため、仕様書で用語の定義域を明確にすることが望ましい。

重要な設計指標

  • 定格電圧・電流、および短絡耐量(I²t)
  • クリープ距離・クリアランスと部分放電限界
  • 接続点の温度上昇、導通抵抗、電圧降下
  • 遮断時間、プリチャージ時間、診断カバレッジ
  • IP等級、耐振・耐衝撃、寿命(サイクル数)