バルブボディ
バルブボディは自動変速機(AT)の油圧制御中枢である。内部に多数のスプールバルブ、チェックボール、オリフィス、アキュムレータ、セパレータプレート(通路板)を備え、ポンプが作るライン圧を各要素(クラッチ、ブレーキ、バンド、ロックアップ)へ適量・適時に配分する。現代ではTCM(変速制御用ECU)とソレノイドが連携する電磁油圧式が主流で、車速、スロットル開度、油温、ブレーキ信号などの入力に応じて通路内の圧力・流量を精密に制御する。
仕組みと構成
アルミ合金ダイカストの本体に迷路状の油路が加工され、縦横に伸びる通路をスプール(段付き円筒)とスプリングで切替える。セパレータプレートは薄鋼板で、ガスケットとともに上下の通路を仕切る。チェックボールは逆止機能と経路選択を担い、アキュムレータは作動圧の立ち上がりを緩和し衝撃を抑える。ライン圧を生成・調整するプライマリレギュレータ系と、各要素へ供給するシフト系の二層構造が基本である。
油圧回路と制御原理
- ライン圧:ポンプ吐出を基準とし、レギュレータバルブで過剰圧をバイパスして安定化する。
- シフト圧:各ギヤ用の回路に分岐し、選択ギヤのクラッチ・ブレーキへ導く。
- モジュレータ:アクセル開度や負荷に応じ、ライン圧補正を行い保持力と損失を最適化する。
- ロックアップ:トルクコンバータ内のクラッチ圧・解除圧を切替え、すべり低減と効率向上を図る。
ソレノイドと電子制御
ソレノイドはオン/オフ型とリニア型に大別される。オン/オフ型はデジタル信号でパイロット圧を切替え、下流のスプールを駆動する。リニア型は電流値に比例して圧力を連続調整し、ライン圧制御やロックアップ制御など精密な領域を受け持つ。TCMは学習値を保持し、摩耗や油温による特性変動を補正する適応制御を行う。
シフト品質とアキュムレータ
シフトショックは充填時間、圧力勾配、要素重なり量で決まる。アキュムレータ(ピストン+スプリング)は過渡圧を吸収して結合を滑らかにし、オリフィス径やスプリング定数、プレロードで性格が変わる。微小オリフィスやドリル径の公差は非常に重要で、数十μm差がショックや滑りに直結するため、製造管理とキャリブレーションが要である。
ロックアップ制御
ロックアップクラッチは燃費と発熱低減に寄与するが、低速高負荷域ではノッキング様の振動(ジャダー)が問題となる。これに対し、微小すべりを許容する制御やリニアソレノイドの高分解能化、ATF摩擦特性の最適化が採られる。バルブボディではロックアップ用の給排圧ラインと減圧回路、ダンパ通路の配置が重要設計点である。
耐久・不具合事例
- ボア摩耗:スプールとハウジングが摩耗し、クロスリークで油圧が逃げる。症状は変速遅れ、フレア、ギヤ抜け。
- 汚染・ワニス:ATF劣化や粉末混入でスプール固着。冷間時のみの不具合や間欠故障を招く。
- ガスケット破損:プレート間のリークで圧力経路が短絡。特定ギヤのみ異常が出やすい。
- ソレノイド不良:コイル断線、抵抗劣化、ストッパ摩耗。DTCとフェイルセーフ(固定ギヤ)に移行。
設計・製造の勘所
通路の最短化と交差の抑制は圧損低減に効く。鋳肌後のリーマ仕上げやホーニングでボア真円度・表面粗さを整え、スプール端面の面取りでエッジリークと噛み込みを防ぐ。プレート孔配置は加工性とサービス性の折衷で、熱変形・締結力分布を解析してガスケット面圧を均一化する。校正はスプリングの自由長と座屈、シム厚、オリフィス径の三点で行う。
点検・整備の要点
診断ではスキャンツールでソレノイド作動をアクティブテストし、ライン圧ポートで機械式ゲージ計測を行う。バキュームテストはボアリークの簡易判定に有効である。分解時はプレートとガスケットの位置関係、チェックボールの個数・位置を厳密に記録する。組付後は指定トルクで均等締結し、学習値のリセットと再学習ドライブを実施する。根本対策としてATFとフィルタの定期交換、冷却性能の確保が基本である。
燃費・熱マネジメント
バルブボディの圧力設定はポンプ損失と直結する。必要時のみライン圧を高める制御、低粘度ATFの採用、通路断面の最適化で損失を削減する。油温管理は摩擦特性と寿命に影響し、熱交換器の容量設計と温調バルブの作動域設定が要となる。
DCT/CVTにおける応用
DCTやCVTでも電磁油圧制御ユニットが存在し、クラッチ・プーリ・レンジ切替を担う。DCTではクラッチ充填・排出の対称性と応答が発進品質を左右し、CVTではプーリ油圧の高応答制御が比率変化速度と耐久に関与する。いずれもメカトロ一体化が進み、センサ直結で温度・圧力補正を緻密化している。
安全・フェイルセーフ
重大故障時は固定ギヤやライン圧最大化で機械要素の焼損を防ぐ。バルブボディの回路はフェイルセーフ経路を持ち、電源断でも基本走行を確保する設計が求められる。冗長なスプリング力設定やバルブ初期位置の工夫により、最悪条件でも過圧・無圧の両リスクを回避する。
用語と計測ポイント
- ライン圧ポート位置、各ギヤの目安圧、ロックアップ指令時の差圧を把握する。
- ソレノイド抵抗値・デューティ指令・油温の三点を同時監視し、因果を切り分ける。
- 学習値の状態(履歴・リセット基準)を作業記録として残す。
以上のように、バルブボディは油圧回路と電磁制御を統合し、伝達要素の作動を統括する要である。設計では流体・熱・材料・加工・制御の総合最適、整備では清浄度管理と学習値マネジメントが要諦となる。