ドライバモニタリングカメラ
ドライバモニタリングカメラは、運転者の視線、まばたき、頭部姿勢、居眠り兆候、スマートフォン操作などの不注意状態を検知し、警報や支援制御につなげる車載センサーである。夜間やサングラス着用時にも機能するよう近赤外線と高感度イメージセンサーを用い、画像を車載ECUでリアルタイム解析して運転注意義務の維持を支援する。高度運転支援ADASやレベル2/2+のハンズオン監視の信頼性を担保する中核要素であり、ヒューマンファクタと電気・光学・情報処理が交差する複合技術領域である。
役割と目的
ドライバモニタリングカメラの第一の役割は、運転者の覚醒度と注意配分を推定し、ハンドル介入や警報閾値を適切化する点にある。機能例として、視線外しの時間判定、閉眼率PERCLOS、欠伸や船漕ぎ動作の検知、前方長時間注視不足の検知などがある。結果は警報、シート振動、トルク付与、速度抑制などのHMI/制御に連携される。
動作原理
ドライバモニタリングカメラは、IRイルミネータ(一般に850/940 nm帯)で顔面を照明し、NIR感度を高めたセンサーで取得した画像から顔領域とランドマークを抽出する。虹彩・瞼縁・鼻梁・口角・耳介などの特徴点を追跡し、頭部姿勢推定(yaw/pitch/roll)と瞼開度、視線ベクトルを算出する。環境光カットフィルタやグローバルシャッタ方式でフリッカや動体ブレの影響を抑える。
検出アルゴリズム
顔検出はHaarやDNN/CNNベースのマルチスケール検出を用い、ランドマーク回帰で眼・口周りの形状を高精度に推定する。視線推定は瞳孔中心と角膜反射(グリント)の幾何から視線方向を導く手法や、画像から直接ベクトルを推論する学習手法がある。まばたきは瞼縁距離の時系列から判定し、PERCLOSや瞬目頻度の閾値で覚醒度を推定する。ロバスト化のため、時系列Kalmanやパーティクルフィルタを併用する。
構成要素
- カメラモジュール:CMOSセンサー、レンズ、IRカット/パスフィルタ、シャッタ方式
- IRイルミネータ:LEDまたはVCSELアレイ、拡散光学系、ドライバ回路
- 処理ユニット:SoC/DSPまたは統合ECU、AIアクセラレータ
- 筐体・熱設計:放熱、耐振、結露・埃対策
- ソフトウェア:画像前処理、検出・追跡、状態推定、診断・自己テスト
設置位置とHMI
設置はステアリングコラム上、メーターフード内、センタースタック上部などが一般的である。視線の幾何と遮蔽物の少なさ、ステアリング角依存の小ささ、エアバッグ作動影響を考慮する。HMIは音・光・触覚を組み合わせ、誤警報時の不快感を抑えつつ行動変容を促す強度設計が重要である。
車両システムとの連携
検知結果はCAN/LINやEthernet経由でADAS、PSC、IVIに共有される。ハンズオン監視、ACC・レーンキープの引継ぎ、緊急停止支援との整合を図る。OTA更新によるモデル改良や診断UDSとの連携も実装される。
設計・評価指標
主要指標は検出率、誤検知率、遅延、温度範囲、振動耐性、電磁耐性である。光学ではFOV、有効解像度、F-number、SNR、イルミネータの放射安全(IEC準拠)を確認する。人要因では姿勢多様性、体格差、眼鏡・サングラス・マスク、ヘッドレスト干渉、昼夜・逆光・トンネル遷移などのテストカバレッジが求められる。
実装上の課題と対策
直射日光やヘッドアップディスプレイの反射は眼領域コントラストを低下させるため、NIR帯選定とフィルタ、露光制御、偏光要素で緩和する。サングラスは偏光・濃色で透過が低く、グリント消失を招くため、テクスチャ特徴と頭部運動モデルを併用する。発熱は暗電流増加とノイズ悪化を招くため、放熱経路と駆動デューティの最適化が重要である。
規格・ガイドラインの動向
各地域の安全評価では運転者状態監視の評価項目化が進みつつあり、量産では機能安全ISO 26262、サイバーセキュリティISO/SAE 21434、SOTIFコンセプトに沿った要求定義が一般化している。照明の眼安全はIEC規格に準拠して評価する。
プライバシーとデータ保護
顔画像の取り扱いは最小化が原則である。推定はエッジで完結し、外部送信を避け、記録はイベント指標や匿名化特徴量に限定する。モデル改良時は車外に出ない検証プロセスや暗号化、アクセス制御を徹底する。
開発プロセスと検証
要件定義→光学・電気・機械設計→アルゴリズム開発→HIL/PIL→車両評価の流れで進める。被験者試験は年齢・性別・体格・文化圏を広く含め、実路での日射・雨天・夜間・市街地/高速を網羅する。故障診断はイルミネータ断線、センサー異常、視野遮蔽、レンズ汚れを自己検出し、故障時のフェール動作を定義する。
将来技術
視線推定の高精度化、マルチモーダル化(ステアリングトルク、呼吸・心拍推定、車内音声)、クラスタカメラやHUDとの統合表示が進む。省電力AIアクセラレータとOTAで継続的に性能を更新し、個人差適応やコンテキスト理解を高めることで、運転者中心の安全性と快適性が両立する。