運転席エアバッグ
運転席エアバッグは衝突時にステアリング中央から展開し、頭部・胸部の減速度とステアリングとの直接衝突を抑える受動安全装置である。ステアリング内のモジュールに折り畳まれたバッグ、点火装置、ガス発生器、カバー、固定部品が収まり、衝突検知後数十msで膨張する。現行車ではシートベルトのプリテンショナやロードリミッタ、ニーエアバッグなどと統合制御され、乗員体格や着座位置に応じた展開量・タイミングを最適化することで二次障害の低減と保護効果の安定化を図る。
構成と作動原理
モジュールはカバーを内側から破断するシーム構造を持ち、バッグは耐熱・低通気のナイロン基布にコーティングを施す。点火信号はECUからスクイブ(点火薬)へ送られ、ガス発生器が急速に発熱・発生したガスでバッグを膨張させる。通気孔(ベント)と織り密度で内部圧を制御し、胸部荷重を抑える。
- バッグ:頭部・胸部の受けを形成する主構造
- インフレーター:ガス発生器(ピロテクニック式、ハイブリッド式)
- スクイブ:点火素子。抵抗監視で断線・短絡を診断
- カバー:展開時に破断する薄肉部を設計
制御アルゴリズムと展開条件
ECUは前後・横・ヨーなどの加速度センサ信号を統合し、車速・衝突角度・重ね合わせ量から展開要否を判定する。近年はマルチステージ点火とパルス幅制御で出力を調整し、シートベルト着用、座席スライダ位置、ステアリングコラム位置、OCS(乗員分類)などの情報も取り込み最適化する。軽微衝突や遅い重ね衝突では非展開とする境界条件を厳密化する。
乗員保護のメカニズム
保護の要諦は衝撃エネルギの時間分散と接触面の拡大である。バッグは顔面・胸郭に対し広面で受け、通気で圧力を逃がすことでピーク荷重とHIC(頭部傷害基準)を低減する。オフセット衝突に合わせた非対称形状、デフレクタやテンタコードで膨張姿勢を制御し、上方への逸走を抑える。
相互連携とシステム設計
運転席エアバッグはプリテンショナ付シートベルト、ロードリミッタ、ニーエアバッグ、可潰ステアリングコラムと協調する。ベルトで初期拘束し、コラム変形で二次吸収、バッグで頭部・胸部を受ける三層設計が基本である。CAN経由で他制御と連携し、二次衝突やロールオーバーシナリオでも誤展開を抑える。
安全規格と評価
要件は法規(例:UN規則、FMVSS)およびNCAPで定義され、成人ダミーだけでなく小柄体格やOOP(out-of-position)条件、ベルト有無、オフセット・小重なり衝突を含む。評価指標はHIC、胸部減速度・変位、頚部合成値、顔面荷重などである。
誤作動防止と故障診断
SRS警告灯は自己診断でスクイブ抵抗、回路短絡、電源低下、コネクタ接触不良を監視する。衝突検知は冗長センサと二重投票論理で誤作動を抑制し、イベントデータレコーダに展開条件を記録する。メンテナンスではステアリング脱着時にクロックスプリング損傷を避け、通電・静電気に注意する。
設計パラメータ
- 展開時間:初期点火から約30~50msで有効支持を形成
- バッグ容量:おおむね50~70L(車室・ステアリング位置で最適化)
- ベント径・数:胸部荷重と減速度波形のチューニング要素
- シーム強度:展開軌道・破断挙動の再現性確保
整備・交換・リコール
運転席エアバッグは一度展開したら交換が原則である。バッテリマイナス端子を外し、残留電荷放電後に作業する。保管・輸送は危険物規制に従い、誤作動防止キャップと指定姿勢を守る。リコール事例では発生ガス成分、インフレーター劣化、湿度影響などが論点となる。
環境・リユースの配慮
廃棄時はピロテクニック処理または無害化手順に従う。リサイクル設計ではモジュール分別、ハーネス無鉛化、バッグ材の再資源化可能性を検討する。
歴史と技術の進化
初期の単段式からデュアルステージ、アダプティブ出力、OCS連動、しわ抑制パターン裁断、薄肉カバーの破断制御へ発展した。将来は高解像度センサと機械学習による個別最適化、より低温・クリーンなガス生成、軽量・低CO2素材が焦点である。