EPSモーター|高効率・静粛で精密操舵用電動機

EPSモーター

EPSモーターは電動パワーステアリング(Electric Power Steering)の駆動源であり、ドライバーの操舵トルクを検知して補助トルクを生成する電動機である。ブラシレス直流(BLDC)または永久磁石同期電動機(PMSM)が主流で、車載ECUのインバータによりベクトル制御(FOC)で駆動する。補助の応答性・静粛性・省エネ性はステアリング全体の操縦性と燃費(電費)に直結するため、磁気回路設計、巻線レイアウト、制御アルゴリズム、熱設計、EMC対策までを一体で最適化する必要がある。

役割と配置

EPSモーターは操舵力を補助するアクチュエータであり、レイアウトは「コラム式」「ピニオン式」「ラック直結式」に大別される。コラム式はステアリングコラム付近に配置して省スペース化を図る。ピニオン式やラック直結式は出力軸がラックアンドピニオンに近く、高出力化やダイレクト感に有利である。

構成要素

  • 回転子:希土類磁石を用いるPMSMが一般的で、磁束密度と温度特性を両立する。
  • 固定子:スキューや集中巻を最適化し、トルクリップルと鉄損を低減する。
  • 位置検出器:ホールセンサや高分解能エンコーダでロータ位置を推定する。
  • 冷却機構:自然空冷主体だが、高出力型ではヒートシンクと熱伝導シートを併用する。

作動原理

トルクセンサがステアリングホイールから入力された操舵トルクを検出し、ECUが目標補助トルクを計算する。FOCによりd-q軸電流を制御し、必要トルクを高効率で発生する。低車速では大きく、高車速では小さく補助するなど、車速連動マップで補助量を可変化する。

制御方式とアルゴリズム

電流制御はPWMインバータで実装し、電流ループ(高速)とトルク・車速ループ(低速)を階層化する。ノイズに強いSMOや拡張カルマンフィルタでセンサレス推定を併用する場合もある。路面からの反力を自然に返すため、フリクション補償、デッドバンド最小化、トルクリップル抑制を行う。

センサーと安全機能

  1. トルクセンサ二重化:冗長設計で故障検出時はフェイルオペレーショナルへ移行する。
  2. 電流・電圧監視:過電流・過電圧・過熱をハード/ソフトの二重で遮断する。
  3. 通信:CAN/FlexRayで車速・横G・VSC情報を受け、横滑り抑制と協調する。

故障モードと診断

主な故障はセンサ断線、ロータ磁石減磁、巻線短絡、ゲート誤動作、コネクタ接触不良などである。OBD用DTCを実装し、電流波形や位相ずれ、温度上昇から劣化を早期検出する。損傷進展を抑えるため、トルク制限やアシスト停止への段階的移行を設ける。

方式別の特徴

コラム式

軽量・安価でパッケージ効率に優れる。操舵系の上流にあるため、NVH面で有利だが、高出力化には制約がある。ステアリングコラムとユニット一体設計が多い。

ピニオン式/ラック直結式

ラック近傍に配置し、操舵系のバックラッシュ影響が小さい。中大型車で用いられ、直進安定性と路面フィードバックに優れる。ラックアンドピニオンタイロッドとの機械結合が短く、応答性に寄与する。

メリット

  • 燃費向上:油圧ポンプ駆動損がなく、アイドル時損失も最小である。
  • 制御自由度:車速や走行モードと連動し、操舵感を自在にチューニングできる。
  • パッケージ:エンジン非依存で電動化・ハイブリッド化に適合する。

課題

高温環境下での磁石減磁やコイル絶縁寿命、過大路面入力時の保護が課題である。大舵角時の電流上限と熱マージン確保のため、銅損・鉄損とトルクリップルの同時最適化が不可欠である。

主要仕様と設計指標

  • 定格/最大トルク(Nm):車両質量・前軸荷重・タイヤ外径から要求を算出する。
  • 応答帯域(Hz):操舵系共振を避けつつ路面情報を再現する。
  • 効率(%):実車負荷サイクルでの総合効率を指標化する。
  • NVH:通電コギングやスイッチング高調波の抑制が重要である。

関連機構との関係

ステアリングホイールからの入力はステアリングコラムを介し、ラックアンドピニオンで直線運動に変換され、タイロッドナックルへ伝達される。旧来の油圧系ではピットマンアームアイドラアームを含む機構も用いられたが、電動化により補助源はEPSモーターへ置換されつつある。サスペンションはストラット等との動的干渉も考慮する。

規格・信頼性・評価

機能安全はISO 26262に準拠し、ASIL達成に向けてハード/ソフト冗長化を行う。部品の信頼性はAEC-Q100/Q200、環境耐性はJASOやOEM規格で評価する。試験は熱衝撃、振動、耐湿、塩害、ESD、EMI/EMS、長期通電など実車負荷を模擬して行う。

開発トレンド

高出力化と小型・低騒音化が並行して進む。低レアアース磁石やコアレス風設計、SiCインバータによる損失低減が注目である。ADAS/自動運転との統合では、路面状況や車線情報に同期した操舵補助、ステア・バイ・ワイヤ移行を見据えた冗長アーキテクチャが求められる。