燃料タンク
燃料タンクはガソリンや軽油、ジェット燃料などの液体燃料を安全かつ確実に貯蔵・供給する容器である。自動車や建設機械、発電機、船舶、航空機に至るまで広く用いられ、衝突や振動、温度変化、腐食環境といった厳しい条件下でも漏洩や蒸発損失を最小化する設計が求められる。現代の燃料タンクは単に容器としての密閉性だけでなく、蒸発ガス管理、残量計測、モジュール一体化、軽量化、リサイクル性など、多面的な要求を満たすシステム部品として位置づけられる。
用途と機能
燃料タンクの基本機能は貯蔵、供給、気相管理の三つである。貯蔵では容量確保と形状制約の両立、供給ではポンプ吸い込み口での渦・空気混入防止や偏摩耗抑制、気相管理では熱膨張や標高差で変動する圧力を安全弁・ベンチレーションで制御する。さらにスロッシング抑制のためのバッフル板やフォーム、残量検知用フロート式・可変抵抗式・容量式センサ、転倒時に流出を防ぐロールオーバーバルブなどを備えることで、運用の信頼性を高める。
構造と材料
- 鋼板製:プレス成形と周溶接で剛性と耐衝撃性に優れる。内面処理で防錆・耐燃料性を付与する。
- アルミ合金製:比強度と耐食性に優れ軽量である。溶接品質の確保が要点となる。
- 樹脂製(HDPE多層):ブロー成形で自由形状・軽量・低コストを実現。EVOH等のバリア層で蒸発ガスを低減する。
- CFRP/FRP:競技車両・航空分野で採用。高比強度だが成形・検査の管理が重要である。
- 二重殻・ライナ:外殻で機械強度、内殻・ライナでバリア性・耐薬品性を確保する。
付属機器とモジュール一体化
燃料タンクには給油口(フィラーパイプ)とキャップ、ベント系、圧力・真空レリーフ、ロールオーバーバルブ、チャコールキャニスタ接続部が設けられる。自動車ではフューエルポンプ、フィルタ、レギュレータ、燃料温度・レベルセンサを一体化したポンプモジュールを搭載し、スワールポットやジェットポンプで燃料を集める。これにより低残量・高横加速度下でも安定供給が可能となる。
設計要件と規格
設計では耐圧・耐衝撃・耐振・耐透過・耐腐食を満たし、火災安全、静電気対策、車両衝突時の離脱・損傷モードも評価対象となる。蒸発ガス規制に対応するため、タンク単体の透過量、車両システムとしてのキャニスタ吸着・パージ性能、オンボード診断(OBD2)での漏れ検知ロジック等を考慮する。小型船舶・産業設備・航空用途では所管法規やJIS/ISO等の適合が求められ、表示・通気・試験圧などが細かく規定される。
製造方法と品質管理
鋼板製はプレス成形後に周溶接し、非破壊検査でシーム品質を確認する。樹脂製はブロー成形時に多層共押出しでバリア層を挿入し、ネックやフランジ部の寸法精度・面圧分布を重視する。いずれもリークテスト(加圧・減圧・ヘリウム)、耐圧保持、スロッシング耐久、振動・温度サイクル、落下・衝突試験などで信頼性を担保する。製造後の清浄度管理はポンプ・インジェクタ保護の観点で重要である。
取付と保守
燃料タンクは車体側のブラケットとストラップで支持し、防振ゴムで共振と摩耗を抑える。締結部のボルトは規定トルク管理し、塩害地域では被覆・防錆処理を併用する。保守では滲みや臭気、給油時の逆流、残量表示の不一致、ドレン部の腐食を点検し、ベント閉塞やキャニスタ飽和、パージ不良がある場合は排出ガス系も合わせて診る。改造時は容量・重量・重心・耐火クリアランスの変化に留意する。
故障モードと対策
- シーム割れ・ピンホール:溶接条件・腐食環境の見直し、材料変更で対処する。
- 樹脂クラック:ストレスクラック防止のためリブ設計・肉厚最適化と耐薬品性評価を行う。
- 透過過多:多層バリア設計や材料グレード変更で低減する。
- 負圧変形:ベント系容量・配置の再設計、弁作動圧の最適化で改善する。
- 残量計誤差:センサ形式とタンク形状の整合、スロッシング補正のマップ見直しを行う。
産業・航空用途の要点
産業貯蔵では二重殻や防液堤を設け、検液監視で漏洩を早期検知する。航空用は防爆・不活性化システム、クラッシュワージ構造、ブレダー方式の採用がある。高高度や広温度域に対応するため、通気・膨張・収縮余裕を厳密に設計し、燃料性状変化と材料適合性(Oリング・ライナ)を検証する。
環境対応技術
蒸発ガスはチャコールキャニスタとORVRで回収し、エンジン運転時にパージして燃焼させる。樹脂多層化での低透過化、締結部のガスケット最適化、表面積低減の形状設計が有効である。LCA観点では軽量化による燃費寄与、材料の再資源化、バイオ燃料対応(エタノール混合燃料に対する溶出・膨潤評価)が焦点となる。
安全上の注意
給油や整備では静電気放電対策として接地を取り、火気・火花源を排除する。圧力解放前の開放作業は保護具を着用し、換気を確保する。保管では日射・熱源を避け、転倒・落下・刺突のリスクを低減する配置とする。これらは燃料タンクの寿命・信頼性・環境負荷を左右する基本要件である。