シリンダーヘッド
シリンダーヘッドは内燃機関の最上部に取り付けられる構造部品で、燃焼室の上面を形成し、吸気・排気ポート、バルブ機構、点火栓または燃料噴射弁、冷却・潤滑経路を集約する中枢である。シリンダーブロックとヘッドガスケットを介して密着し、高温高圧の燃焼ガスを確実に封止しつつ、ガス交換効率と熱管理、剛性、NVHのバランスを実現することが求められる。
機能と役割
シリンダーヘッドの主機能は、燃焼室の形成と封止、吸排気流路の整流、バルブの案内・支持、点火・噴射の配置、さらに冷却水・潤滑油の分配である。設計では、出力・効率・排出ガス・耐久性の指標を満たすため、燃焼・ガス交換・熱応力・振動の複合要件に応える総合最適化が必要である。
材質と製造法
材質はアルミニウム合金が主流で、軽量かつ熱伝導に優れる。鋳造法は重力鋳造、低圧ダイカスト、砂型鋳造などが用いられ、熱処理(例:T6)で強度と寸法安定性を確保する。高負荷ディーゼルでは鋳鉄や合金鋳鉄を採用する場合があり、耐熱割れやシートリセッションに対して高い余寿命が得られる。バルブシート・ガイドは硬質材をインサートし、摩耗と焼付きに対処する。
燃焼室形状
代表的な燃焼室はペントルーフ型で、中央点火栓配置により火炎伝播距離を短縮し、ノック抑制と高圧縮比の両立を図る。スキッシュ領域は乱流強度を高め、希薄燃焼や高速燃焼を支援する。ディーゼルではボア側の耐熱対策と噴霧貫徹性、壁面濡れ低減が重要で、噴孔数・開口角・リターンフローを総合的に合わせ込む。
バルブ機構
- バルブ配置は4バルブが主流で、吸気2・排気2により流量と燃焼安定性を高める。
- 駆動方式はSOHC/DOHCが一般的で、直押しタペットやロッカーアームを用いる。
- 可変バルブタイミングやリフト機構はポンピングロス低減とトレードを最適化する。
- スプリングのサージ抑制、シート/ガイドの芯出し精度が高回転安定性を左右する。
吸気・排気ポート
ポートは圧力損失を抑えつつスワール/タンブルを付与し、混合気形成と燃焼速度を高める。ショートターン半径や断面遷移、表面粗さの制御は流れのはく離を抑制し、流量と充填効率の両立に寄与する。開発では流量計測とCFDを併用し、実機燃焼との整合を検証する。
冷却・潤滑経路
冷却水ジャケットは排気バルブ周りのホットスポットを優先的に冷やすよう配路と断面を設計する。キャビテーション抑制や局所沸騰の回避が寿命確保に直結する。潤滑はカムジャーナル・リフタ・ロッカー摺動部に供給し、オリフィスで流量を制御する。油帰路の配置は泡立ちと滞留を避けるよう高低差とドレンホールを最適化する。
シールとヘッドガスケット
ヘッドガスケットはMLSが一般的で、燃焼ガス・冷却水・オイルの各気密/液密を一体で確保する。シール性能は面粗さ、面圧分布、熱歪みの影響を強く受けるため、ヘッド面の平面度とボア周りの剛性が要である。締結はヘッドボルトのトルク+角度法やTTY方式で均一なクランプ荷重を与え、熱サイクル後の再現性を高める。
加工と公差管理
- デッキ面:フェースミル仕上げで平面度・うねり・Rzを規定値内に管理。
- バルブシート:カッタで多段角度を加工し、当たり幅・同軸度・同心度を保証。
- ガイド:内径と真直度を管理し、ステムとのクリアランスで油消費と焼付きの両立を図る。
- 圧漏れ試験:水没または空気加圧により鋳巣や微小割れを検出する。
センサと付属部品
ガソリンでは点火栓、ディーゼルではグロープラグとインジェクタが主搭載品である。ノックセンサ、カムポジションセンサ、EGR通路、二次空気通路、PCVポートなどがヘッドに組み込まれ、エミッションと運転性に寄与する。シール材やプラグ座面形状も熱伝導と整備性の観点から選定される。
故障モードと対策
代表的な不具合は、過熱による歪み・割れ、ガスケット抜け、シートリセッション、ねじ孔損傷である。原因は冷却不良、デトネーション、過大締結、潤滑不足などが多い。対策としては冷却配路の見直し、材質・肉厚の最適化、面圧再配分、座面硬化、ねじ補修ブッシュの適用などがある。
設計指標と評価
流量特性(流量係数)、スワール/タンブル指数、圧力損失、熱解析(CHT)、剛性・固有値、表面温度分布、重量とコストが主要KPIである。試験ではフローベンチ、エンジンダイナモ、熱疲労リグ、NVH評価を組み合わせ、量産バラツキと性能の感度を把握する。
組立とサービス性
組立ではデッキ面とガスケットの清浄度を確保し、規定順序でヘッドボルトを段付き締結する。カムタイミングは基準マーキングに従い設定し、バルブクリアランス(シム/アジャスタ)を規格内に合わせる。サービスでは平面度測定、圧漏れ検査、座面当たりの転写確認などで再使用可否を判断する。
最近の動向(設計・製造)
近年はダウンサイジング過給により排気ポート周りの熱負荷増に対応した耐熱設計、水路の三次元最適化、軽量化のためのリブ配置見直しが進む。CFDとトポロジー最適化、3Dプリント砂型の活用により、短期で高効率ポートと均一冷却を両立する開発が一般化しつつある。ハイブリッド向けでは低負荷高効率領域の燃焼安定を重視した燃焼室・ポート設計が中心となる。