産業用ロボットコントローラ
産業用ロボットコントローラは、ロボット本体の各軸サーボを統合制御し、位置・速度・トルクを高精度に指令する中枢装置である。ティーチングデータやプログラムを解釈し、軌道生成、補間、加減速、外部I/O連携、セーフティまでを一元管理する。実時間性を担保するため高速周期(例:1 ms)で制御ループを回し、フィールドネットワーク経由でサーボドライブや周辺機器と同期するのが一般的である。
基本構成と役割
コントローラはCPU/RTOS、モーション制御ボード、フィールドバスIF、デジタル/アナログI/O、ストレージ、通信ポートで構成される。主な役割は①軌道生成(PTP/直線/円弧補間、スムージング)、②制御則実行(位置・速度・トルク)、③安全監視、④プログラム実行・スケジューリング、⑤外部装置連携(PLC、センサ、治具)である。
運動学と軌道生成
前進/逆運動学によりTCP(ツール先端点)と各関節角を相互変換する。関節型、SCARA、デルタ、直交型など機構に応じた運動学モデルを持ち、奇異点回避や関節限界、速度・加速度・ジャーク制限を満たすように軌道を生成する。ブレンド(スムーズ停止回避)やルックアヘッドでサイクルタイム短縮と振動抑制を両立する。
制御方式(位置・速度・トルク)
標準は位置制御を基軸に速度前置・トルク補償を組み合わせる。高応答用途では電流(トルク)閉ループまで含むカスケード制御を行う。モデルベースのフィードフォワード、摩擦補償、重力補償、振動抑制フィルタを併用し、追従誤差とオーバーシュートを抑える。
プログラミングと開発環境
ベンダ言語(例:RAPID、KRL、INFORM)に加え、Gコード的記述やブロック命令を備える。最近はオフラインプログラミング、デジタルツイン、シミュレータ連携により、干渉検証やタクト見積りを事前に実施する。APIやスクリプトで外部アプリから動作生成・監視も可能である。
通信・フィールドネットワーク
サーボやI/OとはEtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP、CC-Link IE TSN等で同期通信する。上位とはOPC UA、MQTT、HTTP/RESTで監視・トレース・品質データ収集を行う。時刻同期(IEEE 1588 PTP)で多装置の協調やトレーサビリティを高精度化する。
セーフティ機能と規格
緊急停止、STO、SLS、SSM、SLPなど機能安全を実装し、PL d〜eやSIL対応を満たす。エリア監視、仮想フェンス、セーフティエンコーダにより危険源を制御する。協働用途では力・速度制限や停止監視が鍵となる。
セーフティ補足
安全は二重化、自己診断、故障時フェールセーフが基本原則である。制御と安全は論理的に分離し、検証・妥当性確認を徹底する。
ティーチングとキャリブレーション
ティーチペンダントで位置教示やパス編集を行い、工具(TCP)とワーク座標系を定義する。キャリブレーションで剛性・バックラッシ・リンク誤差を補正し、絶対精度と再現性を高める。外部測定器やビジョンを用いた自己較正も用いられる。
用語補足
- TCP:ツール先端の代表点
- 奇異点:ヤコビ行列が特異となる姿勢
- ブレンド:連続軌道化のためのコーナ丸め
ビジョン・力制御との統合
2D/3Dビジョンで位置補正・ピッキング・パレタイジングを実現し、力覚センサでコンプライアンス組立や研磨の接触力一定化を行う。コントローラはセンサ入力を高速サイクルに取り込み、補間中でもオンザフライで軌道修正する。
外部軸・多ロボット協調
ポジショナ、トラバース、スライダなど外部軸を追加し、ワーク追従や作業域拡張を図る。マスタ軸基準の同期や位相制御で複数ロボットの衝突回避と協調搬送を実現する。
性能指標と選定ポイント
- 精度:絶対精度、繰返し精度、パス誤差
- 応答:制御周期、ルックアヘッド、速度/加速度限界
- 耐環境:粉塵・油・温度、ノイズ耐性
- 拡張性:I/O点数、外部軸、ユーザ演算、API
- 互換性:フィールドバス、上位通信、時刻同期
- 安全:機能安全レベル、セーフティI/O
実時間OSと信頼性
制御はジッタの小さいRTOS上で動作し、割込み遅延を抑制する。ログ・トレース・アラームの整備、ストレージの耐久性、電源瞬断対策が信頼性に直結する。冗長ファン、熱設計、EMC対策も重要である。
データ活用と保全
駆動電流、位置偏差、温度、振動等を常時収集し、異常予兆を検知する。ダッシュボードでOEE、タクト、停止要因を可視化し、レシピ管理やバージョン管理で品質の一貫性を保つ。セキュリティでは認証・暗号化・権限分離を徹底する。
導入チェックリスト
- 対象機構と可搬質量、タクト要求に見合う制御性能か
- 既存設備とのバス/プロトコル適合、時刻同期の可用性
- 安全要件と保守体制、長期供給・ライフサイクルの確認
- オフライン検証、シミュレーション、デジタルツインの有無