pH計
pH計は溶液中の水素イオン活量を電位として検出し、ガラス電極と参照電極の起電力からpH値を算出する計測器である。ネルンストの式に従い、25℃で理論感度は約59.16 mV/pHとなる。校正用バッファで感度とゼロ点を補正し、温度補償(ATC)により温度依存性を補う。実験室から現場プロセス、食品・水処理・医療・農業まで広く用いられ、測定手順・電極メンテナンス・誤差対策が品質管理の鍵である。用途に応じ、ベンチトップ型、携帯型、オンライン解析計が選定される。
測定原理
ガラス膜の内外で生じる水素イオン選択的電位差を参照電極と比較して測る。理論電位はE=E₀+(2.303RT/F)×(pH内−pH外)で表され、25℃で2.303RT/F≒59.16 mV/pHとなる。実機では膜組成・膜厚・イオン強度・温度・塩橋拡散電位などにより理論からの乖離が生じるため、実測に基づく校正が不可欠である。
ネルンスト応答と温度
感度は温度に比例して変化し、25℃を外れるとmV/pHの傾きが増減する。ATC機能は温度を検出して計算補正を行うが、溶液の化学平衡自体も温度で変わるため、最終的な評価は測定温度で実施するのが妥当である。
電極構成
一般的にはガラス電極とAg/AgCl参照電極を一体化した複合電極を用いる。参照電極はKCl溶液を塩橋として試料と電気的につなぎ、安定電位を供給する。ダイヤフラム(多孔質部)の形状・材質は目詰まり耐性や流出安定性に影響する。高アルカリ域でのナトリウム誤差、強酸域での酸誤差を低減するために特殊ガラスを採用した電極もある。
校正(ゼロ点と感度)
2点または3点校正が基本である。まずpH7付近でゼロ点を合わせ、続いて使用域に近い酸性またはアルカリ性バッファで感度(スロープ)を決める。一般にpH4.01・7.00・10.01などの標準バッファが用いられ、校正は測定温度で行う。スロープは理論の95〜105%が目安、外れる場合は電極の劣化や汚染を疑う。
バッファ溶液の取り扱い
バッファはトレーサブルな規格品を用い、使い回しや混入を避ける。CO₂吸収でpHが変動するため容器は密閉し、期限内に更新する。温度ごとの標準値表に従って補正値を適用する。
測定手順
- 電極の外観・液絡部・内部液残量を点検する。
- 電極を純水で洗浄し、残液を拭き取る(擦らず押さえる)。
- 試料を適切に撹拌し、気泡を避けて電極を浸漬する。
- 温度平衡を待ち、表示の安定後に読み取る。
- 測定後は電極を洗浄し、保存液(KCl)に浸して保管する。
誤差要因と対策
- 温度差:試料・電極・バッファの温度を揃えATCを使用する。
- 低導電率水:塩橋電位が不安定となるため、低イオン系対応電極を選ぶ。
- タンパク質・油脂汚れ:酵素系や界面活性剤入りの洗浄液で膜とダイヤフラムを洗う。
- 有機溶媒・強酸強塩基:耐薬品型電極や特殊ガラスを選定する。
- 攪拌・気泡:膜面に気泡を付着させない。過度な撹拌は電位変動を招く。
アルカリ誤差と酸誤差
高pH域ではNa⁺がガラス膜に干渉してpHを実際より低く表示する(ナトリウム誤差)。強酸域では膜の非理想応答によりpHを高く表示する(酸誤差)。これらは電極設計と測定条件の最適化で低減できる。
機種の種類と特徴
ベンチトップ型は高分解能・データ管理・GLP対応が可能である。携帯型は防塵防滴と衝撃耐性を備え現場向きである。オンライン型は流通セルや自動洗浄・自動校正機構を備え、長期安定運用に適する。ISFET型はガラスを用いず応答が速く、破損リスクが低いが、参照系の安定化設計が重要である。
メンテナンス
電極は乾燥させない。保管はKCl保存液に浸漬し、長期未使用後は純水で再水和する。ダイヤフラムの目詰まりは軽い超音波洗浄や再充填で解消を図る。感度低下・ドリフト増大・応答遅れが顕著な場合は交換時期である。一般に使用環境で寿命は半年〜1年程度が目安である。
規格・トレーサビリティ
機器とバッファは規格(JIS・ISO)に適合し、校正はトレーサブルな標準に結び付ける。監査対応のため、校正履歴・スロープ・オフセット・使用者ID・時刻を自動記録できる機種が有用である。検証用に独立した標準液で日常点検を行い、許容差を超えた場合は再校正・保守を実施する。
安全・取扱い上の注意
フッ化水素酸はガラスを侵すため、ガラス電極は使用不可である。濃酸・濃アルカリは保護具を着用し、廃液は法令に従い分別回収する。温度衝撃は膜破損の原因となるため急冷・急加熱を避ける。
主な応用分野
上水・下水・排水処理の自動制御、化学プロセスの中和・反応監視、めっき浴やボイラ給水の管理、飲料・乳製品・発酵食品の品質管理、土壌・養液の管理、臨床・製薬・研究開発の試験などに広く用いられる。適切な電極選定と校正・温度管理・洗浄を組み合わせることで、現場でも実験室レベルの再現性を確保できる。