分光放射計
分光放射計は、光を波長ごとに分解し、単位立体角・単位面積あたりの放射の強さを示す分光放射輝度を定量する計測器である。光源や表示デバイス、照明器具、環境光の評価に用いられ、波長分解能と放射測定のトレーサビリティが品質を左右する。一般的な分光光度計が透過・吸収の評価に主眼を置くのに対し、分光放射計は被測定物から出る光そのもののスペクトル分布と絶対量を測る点に特徴がある。
測定原理と物理量
分光放射計の基本量は分光放射輝度 L(λ)[W/m²·sr·nm] である。入射光はスリットとコリメータを通って回折格子で波長分離され、検出器上に分散して記録される。測定対象が面発光体や遠方の光源であれば輝度を、照明の照度評価では分光放射照度 E(λ)[W/m²·nm] を用いる。測定系は立体角、視野、入射瞳の定義が重要で、幾何学(BRDF等)との整合が精度を支える。
構成要素と光学系
典型的な分光放射計は、入射光学、分散素子、検出部、演算部で構成される。入射部はコサイン受光(照度用途)または望遠光学(輝度用途)を備え、不要光を遮断する。分散部は回折格子が主流で、高次回折を抑えるためのオーダソーティングフィルタが併用される。検出部は可視域にシリコンCCD/CMOS、近赤外にInGaAsを用いる。
- 入射光学:コサインディフューザ/望遠レンズ/ファイバ入力
- 分散素子:回折格子(ブレーズ角最適化)
- 検出器:CCD/CMOS、InGaAs、積分時間制御
- 迷光対策:内面反射抑制、スリット最適化
波長校正と放射校正
分光放射計の信頼性は校正に依存する。波長校正はHg/Ne等の線スペクトル光源で実施し、ピクセルとλの関係を多項式で近似する。放射校正は国家計量機関にトレーサブルな標準ランプ(タングステンハロゲン等)や積分球基準を用い、感度関数 S(λ) を確立する。校正は温度依存性や経時変化を含む不確かさ予算で管理し、周期的な再校正が前提である。
測定手順
分光放射計による安定測定には手順の統一が有効である。以下は代表例である。
- ダーク測定:入射を遮光し暗電流・オフセットを取得
- 参照測定:校正基準または既知光でゲインを点検
- 本測定:積分時間を飽和直前に最適化しSNRを確保
- 幾何条件:距離、入射角、視野、開口を記録
- 演算:迷光補正、波長再サンプリング、帯域補正
応用分野
分光放射計は照明評価(LEDのスペクトル、CCT、CRI/Ra、Rf/Rg)やディスプレイ測定(ガンマ、色域、輝度均一性)、AR/VRの視野内輝度評価、屋外の環境放射・分光日射、燃焼・高温体の温度推定(分光放射温度測定)などで用いられる。光生物学的安全性評価(青色光ハザード)でも分光データが必須となる。
他の計測器との違い
分光放射計は、透過・反射率を扱う分光光度計とは測定幾何と絶対量の観点が異なる。また、輝度計は視感度V(λ)で加重した光学量(cd/m²)を迅速に得る装置であるのに対し、分光放射計は波長ごとの分布を保持するため、演色や色度計算、規格評価まで一貫して行える。色差計は色空間上の差異を簡便に評価するが、スペクトルの形状情報は保持しない。
選定指標と仕様の読み方
分光放射計の選定では、波長範囲(例:380–780 nm、900–1700 nm)、帯域幅FWHM、迷光レベル、ダイナミックレンジ、NEI(最小可検放射)、SNR、絶対確度、視野角/コサイン特性、安定性(ドリフト)を確認する。ファイバ入力の有無、積分球や望遠アタッチメントなどの周辺光学も運用性に直結する。
よくある誤差要因
温度ドリフトや検出器の感度変動、ファイバ曲げによる結合効率低下、視野と被測定面のミスマッチ、フレア・迷光、コサイン誤差、標準ランプの経時劣化が代表的である。これらは遮光・黒体塗装、ベンチ安定化、定期校正、幾何学条件の再現で抑制できる。
データ処理と指標
分光放射計のスペクトルから、CIE 1931/2015に基づく三刺激値、色度座標、相関色温度CCT、演色評価(CRI、TM-30のRf/Rg)、放射束や光束換算(放射→光度換算)を計算する。帯域幅補正やインスツルメントラインシェイプのデコンボリューション、等間隔λ再サンプリングなどの前処理も重要である。
規格・参照フレーム
分光放射計の用語・測定条件はCIE、ISO、JISの枠組みに沿って整理される。視感効率V(λ)、輝度・照度といった光学量の体系、標準光源や幾何条件の定義、トレーサビリティの確保方法を理解しておくと、機種間比較や合否判定の一貫性が高まる。規格票の要点を運用手順に落とし込むことが実務上の肝要である。