FFTアナライザ|振動・音響の周波数解析に必須

FFTアナライザ

FFTアナライザは、時間領域の信号を高速フーリエ変換(FFT)により周波数領域へ変換し、スペクトル成分(振幅・位相・パワー)を高分解能で評価する測定器である。音響・振動・電力品質・回転機械などの解析で広く用いられ、周波数ごとのエネルギー分布や共振、ハーモニクス、サイドバンド、ランダムノイズの特性を明確化する。スイープ型スペクトラムアナライザと異なり、一定区間のデータを一括処理するため、低周波から中高周波までを同時に観測し、トリガ同期や平均化により高いS/Nと再現性を得られるのが特長である。

基本原理

信号はA/D変換でサンプリング周波数fsにより離散化され、区間長T=N/fs分のデータ列にウィンドウ処理を施してN点FFTを行う。周波数分解能はΔf=fs/Nで定まり、観測可能上限はナイキスト周波数fs/2である。折り返し(エイリアシング)を避けるため、前段に低域通過のアンチエイリアスフィルタを用いる。得られた複素スペクトルから振幅スペクトル、パワースペクトル、位相、コヒーレンス、伝達関数などを計算できる。

ハードウェア構成

FFTアナライザの入力部は、計測対象に応じたフロントエンド(アンプ、IEPE/ICP給電、電圧・電流プローブ、チャージアンプ等)と、広ダイナミックレンジのA/D(しばしば24-bit)で構成される。高精度クロック、アンチエイリアスフィルタ、レンジ切替、AC/DC結合、差動/シングルエンド選択、外部トリガやタコ入力(回転同期)を備える機種も多い。筐体や入出力の接地設計は、ノイズ低減と安全確保の観点で重要である。

窓関数とリーケージ対策

有限長データは区間端で不連続となりスペクトルが広がる(リーケージ)。そこでハニング(Hann)、ハミング、ブラックマン、フラットトップなどの窓関数を用いて端点を緩和する。フラットトップは振幅精度に優れ、ハニングは周波数分解能とサイドローブ抑制のバランスが良い。解析目的が周波数同定か振幅校正かで使い分ける。整数周期収録(信号周期とTを整合)もリーケージ抑制に有効である。

窓関数の使い分け

  • 振幅精度重視:フラットトップを選択(校正用途、ゲイン測定)
  • 周波数分解能重視:ハニング/ブラックマンでサイドローブ低減
  • 連続監視や擬定常ノイズ:ハミングなど計算コストと妥協

周波数分解能と時間分解能のトレードオフ

分解能Δfを細かくするにはNを増やす(Tを長くする)必要があり、短時間での変化検出能は下がる。ゼロパディングは表示を滑らかにするが理論分解能は変わらない。実運用ではΔf、観測帯域、更新レートを同時最適化する。

設計指標

  1. Δf=fs/N、観測帯域=0〜fs/2
  2. 必要観測時間Tと対象の準定常性を整合
  3. タコ同期やオーダートラッキングで回転変動に追従

平均化と統計処理

平均化はランダム成分を抑え再現性を高める。リニア平均は安定測定に、指数平均は変動追従に、ピークホールドは最大値捕捉に有効である。パワースペクトル密度(PSD)は[単位例:V²/Hz, m²/s⁴/Hz]で帯域幅に依存しない比較を可能にする。表示はdB、RMS、ピーク、オーバーオールなどを選べる。

コヒーレンスと伝達関数

2チャネル測定ではコヒーレンスγ²で入出力の線形関係やノイズ影響を評価する。インパルス応答から周波数応答関数(FRF)H1/H2を求め、共振周波数・減衰比・モード形状推定に応用する。

実務用途

FFTアナライザは製造・保全・研究開発の多様な現場で利用される。回転機のベアリング故障診断(ケージ周波数、転動体通過周波数)、ギヤのサイドバンド、ポンプのキャビテーション、構造物の共振、音響の1/3オクターブ分析、電力の高調波・THDやフリッカ評価などが典型例である。タコメータ入力と組み合わせればオーダートラッキングで加速・減速中のスペクトル変化を捉えられる。

  • 振動解析:加速度計/速度計で機械の不具合を特定
  • 音響評価:騒音源寄与や遮音・吸音材料の効果検証
  • 電力品質:整流・インバータによるハーモニクスの監視
  • 構造健全性:打撃試験でモーダルパラメータ推定

測定設定と運用のコツ

入力レンジは飽和を避けつつS/Nを稼ぐよう適正化する。センサ感度(例:mV/g, mV/Pa)を正しく設定し、ケーブル種別や極性、AC/DC結合を確認する。接地ループや外来電磁ノイズは差動入力やシールドで抑制する。トリガ条件(レベル、スロープ、外部)を明確化し、必要ならサンプリングと信号周期を同期させる。

校正とトレーサビリティ

音圧は音響校正器(例:94 dB 1 kHz)、振動は基準加速度計/シェーカで感度校正を行い、校正履歴を残す。レンジ検証、窓関数の記録、Δfや平均回数など測定条件のメタデータ化は、再現性や品質保証で不可欠である。

表示・解析機能

重ね描き、ウォーターフォール、スペクトログラムで時間変化を視覚化し、ピークサーチやカーソルで周波数・レベルを定量化する。クロススペクトルで相互関係を捉え、ケプストラムで反射や繰返し成分を抽出する。レベルメータやトレンド表示と併用すれば、製造ラインの監視や設備診断の意思決定を迅速化できる。

導入時の選定ポイント

必要帯域とΔf、チャネル数、同時サンプリングの可否、フロントエンド互換性(IEPE、電荷、ブリッジ)、内蔵ストレージ/PC連携、リアルタイム性、ファイル形式(例:WAV, CSV, TDMS)、スクリプト連携やAPI、保守・校正体制などを総合評価する。適切に設定されたFFTアナライザは、現象の可視化と定量化を両立し、設計改善・不具合解析・品質管理に強力な基盤を提供する。