加速度計
加速度計は、物体の運動状態を表す加速度(m/s² あるいは g)を電気信号として出力する計測器である。機械の振動監視、構造物のヘルスモニタリング、自動車や鉄道における走行評価、スマートフォンや産業ロボットの姿勢推定、家電の防振制御、航空宇宙での打上げ・分離イベント計測など適用範囲は広い。検出原理は主に慣性質量とばね・ダンパ系に生じる相対変位や力を電気量に変換することであり、圧電式、MEMS容量式、サーボ式(力平衡式)など各方式が計測帯域・分解能・直流応答の可否で棲み分ける。設置時の取り付け剛性、質量負荷、ケーブル取り回し、信号処理(フィルタ、A/D、校正)まで含めてシステムとして最適化することが重要である。
動作原理と基本モデル
加速度計の基本は質量 m、ばね定数 k、粘性係数 c の 1 自由度モデルで表される。入力加速度 a に対し、検出子の相対変位 x が生じ、圧電素子の荷重、あるいは可動電極の容量変化として読み出す。共振周波数 fn≈(1/2π)√(k/m) と減衰比 ζ=c/2√(km) が周波数応答を規定し、測定帯域は一般に fn の 1/3〜1/5 以下に設定する。感度は mV/g や pC/g、容量式では fF レベルの変化に対する電荷増幅器のゲインで規定される。
方式の種類(圧電・MEMS容量・サーボ)
- 圧電式:PZT 等の圧電素子で力→電荷へ変換。高帯域・高耐環境・ノイズに強く、IEPE/ICP で取り扱い容易。ただし DC(静加速度)には応答しない。
- MEMS容量式:可動櫛歯の容量変化を読み出す。DC〜中帯域、低消費電力、小型で多軸対応が容易。スマートデバイスや産業 IoT に広く用いられる。
- サーボ式(力平衡):検出した変位を電磁力で打消すクローズドループ。広ダイナミックレンジ・低ドリフト・高直線性で精密計測や重力加速度変化の測定に適する。
主要仕様と用語
- 測定レンジ:±2 g、±16 g、±200 g、±5000 g など用途に応じ選定。
- 感度:mV/g または pC/g。温度係数(%/℃)も確認する。
- ノイズ密度:μg/√Hz。低周波ドリフトや 1/f ノイズの影響を考慮。
- 周波数応答:−3 dB 帯域、共振周波数、位相遅れ。
- 直線性・ヒステリシス・クロスアクシス感度(%)。
- ゼロ点・オフセットドリフト、バイアス安定度。
- 耐環境:耐衝撃、耐湿、動作温度、保護等級。
信号取り扱いと電気インタフェース
圧電式は高インピーダンス源であるため電荷増幅(pC→V)や定電流励起の IEPE/ICP を用いて長距離配線と広帯域・低ノイズを両立する。MEMS容量式は内蔵アンプが多く、I2C、SPI、あるいはアナログ電圧出力でホストに接続する。A/D 変換は有効ビット数とサンプリング周波数が重要で、アンチエイリアスフィルタにより折返し雑音を防ぐ。FFT による振動解析、RMS/ピーク換算、エンベロープ検波などの信号処理で機械診断指標(軸受異常、アンバランス、ミスアライメント等)を抽出する。
校正・トレーサビリティ
加速度計の校正は、レーザ干渉計トランスデューサで既知の正弦加速度を与える一次校正、もしくは参照センサとの比較による二次校正が一般的である。周波数特性・位相・感度の不確かさを評価し、JIS や ISO に基づくトレーサビリティ体系を確立する。現場では重力反転や静止 6 面法でオフセットを点検し、温度サイクルでドリフトを把握する。
取り付け(マウント)と機械的配慮
- 取り付け剛性:接着、磁石、ねじ固定の順に剛性が向上する。高周波測定ではねじ・ボルト固定が望ましい。
- 質量負荷:センサ質量が計測対象のモード形状や共振を変えないよう msensor≪mstructure を満たす。
- 位置・方向:重心・節点・固定端など目的に応じ配置。三軸はアライメント誤差を抑える。
- ケーブル:フレキシブル配線で引張・曲げの機械入力を低減し、マイクロフォニックノイズを防ぐ。
測定モード(DC/AC)
静加速度(重力、姿勢、長周期傾斜)を扱う場合は DC 応答可能な MEMS 容量式やサーボ式を用いる。一方、機械振動や衝撃などの AC 成分では圧電式が高い S/N と広帯域を提供する。アプリケーションにより高レンジ・広帯域と低ノイズ・高分解能はトレードオフである。
応用分野の例
- 回転機監視:ベアリング異常、アンバランス、ギヤ欠損の早期検出。
- 構造ヘルス:橋梁・建物・プラント配管の常時微動解析、地震応答記録。
- 自動車:乗り心地評価、エアバッグ・横滑り制御、EV バッテリ保護。
- ロボット:姿勢推定、フィードバック制御、衝突検知。
- 電子機器:スマートフォンの画面回転、手ぶれ補正、振動検知スリープ解除。
選定のポイント
- 目的周波数帯:必要帯域の少なくとも 2〜3 倍の共振周波数を確保。
- レンジと分解能:最大入力と最小検出加速度を同時満足する感度・ノイズ密度を選ぶ。
- 環境条件:温度、湿度、衝撃、電磁ノイズ、取り付けスペース。
- 出力形式:IEPE、アナログ、I2C、SPI、デジタル内蔵処理(FIFO、割り込み)の要否。
- 校正・付属品:校正証明、マウントアダプタ、ケーブルの互換性。
誤差要因と対策
- クロスアクシス感度:取付角度誤差とセンサ固有の直交感度。機械アライメントとマトリクス補正で低減。
- 温度ドリフト:温度係数の小さい素子、温度補償回路、ソフトウェア補正を併用。
- ケーブル誘起:固定・拘束で機械入力を抑制し、シールドで電磁ノイズを低減。
- 共振励起:質量追加やマウント変更、フィルタで影響帯域を回避。
データ解析の実務
時間波形からピーク、RMS、クリストファー係数などの統計量を算出し、周波数領域では FFT、パワースペクトル密度(PSD)、オーダートラッキングを用いる。異常検知では閾値、特徴量+機械学習、自己回帰モデルなどが併用される。サンプリング周波数は最高成分の少なくとも 2.5〜5 倍とし、ウィンドウ関数で漏れを抑える。
安全・取扱い上の注意
加速度計は過大衝撃で感度低下やオフセットシフトを起こすことがある。静電気対策、適正トルクでの締結、ケーブルの曲げ半径遵守、コネクタ防水・防塵に配慮する。使用後は異常熱・湿気を避け保管し、定期的に校正履歴を更新することが望ましい。