ビッカース硬度計|ダイヤモンド圧子で微小硬さ評価

ビッカース硬度計

ビッカース硬度計は、ダイヤモンド四角錐圧子(頂角136°)を一定荷重で材料表面に押し込み、残留くぼみの対角線長から硬さ値HVを算出する装置である。微小領域からバルク材まで同一スケールで評価でき、焼入れ鋼、非鉄金属、セラミックス、薄肉部品、拡散層や表面改質層の硬さ分布測定に広く用いられる。圧子形状が幾何学的に自律的であるため、荷重範囲を変えても原理の一貫性が保たれるのが特徴である。

原理と算出式

ビッカース硬さは、くぼみ対角線の平均長さd(mm)と試験荷重Fから、HV=1.8544×F/d^2(F: kgf)で定義する。国際規格のSI表記ではHV=0.1891×F/d^2(F: N)を用いる。圧子は理想的弾塑性接触を前提にし、押込み後の永久くぼみの投影面積に対する圧力相当を硬さとみなす。対角線は対物レンズ付き顕微鏡で読取る。

試験の流れ

  • 試験面を研磨清浄し、段差や酸化皮膜を除去する。
  • 試料を水平に固定し、所定荷重と保持時間を設定する。
  • ダイヤモンド圧子を垂直に押し込み、保持後に除荷する。
  • くぼみの2本の対角線長を測定し平均dを求め、HVを計算する。
  • 必要に応じて複数点を測定し、統計値(平均・標準偏差)を算出する。

規格と試験条件

代表規格はISO 6507およびASTM E92である。保持時間は10〜15 sが一般的で、荷重はマクロ領域で約1〜100 kgf(≈9.807〜980.7 N)、微小領域で10 gf〜1 kgf(≈0.098〜9.807 N)を選ぶ。くぼみは互いに影響しないよう配置し、端面や他くぼみから十分な間隔(一般に2.5〜3d以上)を確保する。

試験片の準備

信頼性の高い測定には平坦性・表面粗さが支配的である。機械研磨からバフ仕上げまで段階的に行い、微小試験では鏡面レベルの仕上げが望ましい。脱脂洗浄で付着物を除去し、基材温度を安定させる。薄板やコーティング基材は、樹脂埋込で剛性を補うと測定再現性が向上する。

長所と注意点

ビッカース硬度計の利点は、金属から脆性材料まで適用範囲が広く、荷重スケールを変えても数式が共通で換算不要な点である。一方、光学測長の読み取り誤差や試料傾きに敏感で、表面の研磨状態が不十分だと系統誤差が増大する。極薄膜にはヌープ(Knoop)が適する場合があるため適材適所で使い分ける。

マイクロビッカースとナノ領域

微小荷重を用いるマイクロビッカースは、硬化層深さプロファイルや微細組織差の評価に有効である。さらに小荷重・小変位を扱うナノインデンテーションでは、連続荷重—変位曲線から弾性率なども求められるが、硬さ値の定義や解析法が異なるため、HVとの単純比較は避ける。

誤差要因と対策

  • 表面粗さ・残留歪み:鏡面研磨と応力除去で低減。
  • 試料傾き:水平調整と焦点深度の確認。
  • 積み上がり(pile-up)/陥没(sink-in):材質と加工履歴を考慮し、複数点で傾向確認。
  • 対角線読取りバイアス:自動画像処理または複数測定者で検証。
  • 温度・クリープ:一定環境下で保持時間を規格に合わせる。

校正とトレーサビリティ

圧子形状・荷重・光学測長の三要素を管理する。荷重は分銅・ロードセルで点検し、対物系はスケール(ステージミクロメータ)で倍率校正する。認定機関の基準片(証明書付き硬さブロック)で日常点検を行い、管理図で装置ドリフトを監視する。圧子の摩耗や欠けは定期点検で早期に交換する。

データの扱いと換算の注意

HVから引張強さや他硬さ(HB、HRCなど)への換算は、材質や組織に依存する経験式であり、万能ではない。設計・受入検査では、同一規格・同一手順での再現性を優先し、換算表は参考情報として扱う。報告書には試験荷重、保持時間、くぼみ写真、測定位置図、平均値とばらつきを記載する。

産業での活用例

  • 熱処理品の硬度分布(焼入れ・浸炭・窒化)の深さ方向プロファイル。
  • 溶接熱影響部(HAZ)の硬さマップ化と品質保証。
  • 粉末冶金材・鋳造材の組織ばらつき評価。
  • 薄肉プレス部品やばね材のロット間比較と受入検査。

装置の構成と自動化

ビッカース硬度計は、荷重機構、ダイヤモンド圧子、対物レンズ・カメラ、XYステージ、制御・解析ソフトで構成される。ステージ自動走査と画像処理により、多点測定やマッピングが容易になり、硬さの等高線表示や勾配解析が可能である。トレーサビリティのため、ユーザー権限管理や監査ログ機能を備える機種も多い。

試験条件設定の実務ポイント

  • 荷重選定:くぼみが適切に判読でき、塑性域が母材に代表的となる荷重を選ぶ。
  • 保持時間:材料の粘弾性や時効影響を考慮し規格値に従う。
  • 間隔設計:端面・他くぼみから十分に離し、局所硬化の影響を避ける。
  • 統計設計:n≥5などの反復で外れ値を検出し、工程能力と結び付ける。

安全・保全

圧子・対物系は精密部品であり、落下衝撃や乱暴なクリーニングは厳禁である。ステージは粉塵・切粉を避け、防塵カバーで保護する。電源・ソフトウェアは定期更新し、バックアップと校正記録の保存でコンプライアンスを満たす。

まとめの実務要点

  • 原理は単純、要は「良い面」づくりと「正しい読取り」。
  • 規格準拠(ISO 6507/ASTM E92)と校正で、社内・社外の整合を確保。
  • プロファイル化とマッピングで、熱処理・接合の品質を可視化。
  • 換算は参考、目的に合ったスケール選択が品質を左右する。