日射計
日射計は地表に到達する太陽放射を電気信号に変換して定量化する計測器である。測定対象は全球日射(直達+散乱)、直達日射、斜面日射などで、気象観測や太陽光発電(PV)の性能監視、建築環境工学の熱負荷計算、農業気象など幅広い用途に用いられる。代表的な原理は熱電対を直列接続したサーモパイル型と、分光選択性のあるシリコンフォトダイオード型である。出力は通常「W/m²」で表し、余弦応答や分光感度、温度係数などの特性が精度を左右する。規格はISO 9060やIEC 61724-1が広く参照され、機器選定と設置・校正・保守を体系化している。
原理と構造
日射計(全球日射用サーモパイル型)は黒色塗装の受感面で放射エネルギーを吸収し、温度差をサーモパイルで検出して電圧に変換する。半球ガラスドームは対流・長波放射の影響を低減しつつ、太陽短波域(おおよそ285–2800 nm)を透過させる。余弦応答(入射角に対して出力がcosθに比例する性質)を高めるために受感面形状や拡散板が工夫され、ドーム加熱・換気は結露・霜・汚染を抑えてゼロオフセットの発生を低減する。水平器・三脚・架台により水平を確保し、影の混入を避けるため周囲の障害物との位置関係も重要となる。
種類と用途
- 全球日射計(Pyranometer):水平面や傾斜面の広帯域放射を測る。PVの発電性能評価、建築の入熱評価、農業の光合成有効放射推定の基礎データに用いる。
- 直達日射計(Pyrheliometer):太陽方向のみの直達成分を高い指向性で測る。サン・トラッカーに搭載し、DNIを得てCSPや詳細な天空成分分離に活用する。
- 参照セル(Reference Cell):シリコンセルを用いてPOA(平面面内)日射を電流で近似する。応答が速くPV監視に便利だが、分光感度がシステムのモジュールと整合するかに注意が要る。
校正と規格
日射計の校正は、試験所トレーサビリティ(室内校正)と現場での比較校正(基準器との並置)を組み合わせて実施する。ISO 9060:2018はサーモパイル型に対し「Spectrally Flat Class A/B/C」などのクラスを定め、応答時間、非直線性、温度依存、方向応答、ゼロオフセット等の指標で性能を規定する。PV監視のIEC 61724-1は、監視クラス(A/B/C)に応じたセンサー選定、加熱換気、データ記録間隔、設置高度・清掃頻度の推奨をまとめ、実運用での一貫した品質確保に寄与する。
設置とメンテナンス
設置では水平を厳密に合わせ、天空の遮蔽物(建物・樹木・アンテナ)や鏡面反射源(メタル屋根・水面)を避ける。ケーブルは紫外線と水の侵入を考慮して配索し、接点は防水コネクタと適切な接地・サージ対策を施す。架台固定には耐候性のあるボルト・ナットを使用する。維持管理はドーム清掃、乾燥剤交換、加熱・換気ユニットの点検、レベリング再確認を定期的に行う。積雪・黄砂・花粉・海塩粒子は短時間で汚染を引き起こすため、季節ごとの清掃頻度見直しが有効である。
測定値の補正とデータ処理
実務では、余弦誤差・温度ドリフト・ゼロオフセット(ドームとボディ間の長波放射差による擬似出力)を理解し、必要に応じて補正係数を適用する。POA変換では水平面全球日射から傾斜面日射へ、PerezやHay-Daviesなどの天空拡散モデルを用いて推定する。参照セルを用いる場合は、分光ミスマッチや温度係数の差異に留意し、PVモジュールの実挙動と整合させる。データは1分〜10分の平均化でノイズを抑え、欠測・スパイクは品質フラグで管理する。
PVシステムでの活用
日射計は発電量の期待値と実測の差分から性能指標(PR)を算出し、汚れ(Soiling)やストリング断線、インバータのクリッピング、過熱による出力低下を早期検出する。現場では水平面全球日射計とPOA参照セルを併用し、モデリングによる期待POAと実測POAの比を監視する運用が一般的である。加えて、気温・モジュール背面温度・風速の同時記録により、温度係数や冷却効果を含む診断精度が高まる。
測定の不確かさ管理
不確かさはセンサー固有誤差(直線性、温度係数、方向応答)、設置由来(レベルずれ、影、汚れ)、データ処理(サンプリング、平均化、補正モデル)に分解して評価する。年次点検では基準器との並置比較で系統誤差を測り、季節変動や周辺環境の変化を反映して補正パラメータを更新する。許容範囲を超えるズレが生じた場合は、清掃・再水平化・配線点検・校正の優先度で是正措置を行う。
トラブル事例と対策
結露や霜は朝夕のゼロオフセット増大を招くため、ドーム加熱・換気で抑制する。鳥害や落葉による一時的な影、建築改修に伴う恒常的な影の発生、ケーブル被覆の紫外線劣化、端子の腐食なども出力低下の原因となる。突発的な異常値はサージや接点不良、データロガー設定の変更が疑われるため、ログと現物の双方を点検し、原因を切り分ける。
導入時のチェックポイント
目的(気象観測・研究・商用PV監視)に応じて求めるクラス(ISO 9060)、応答速度、環境耐性(IP、温度範囲)、加熱換気の要否、メンテナンス計画、データロガーの入力レンジ・分解能を整理する。設置後は初期校正証明、設置図、清掃・点検手順、品質フラグ仕様を台帳化し、年次レビューで更新する。これにより、日射計の測定信頼性とデータ活用価値を長期にわたり維持できる。