方向地絡リレー
方向地絡リレーは、零相電圧V0と零相電流I0の位相関係から地絡の進行方向を判別し、内外部故障を選別して選択遮断を実現する保護継電器である。リング系統や並列線路、配電線の分岐点、変圧器二次側などで、無方向の51G/51Nでは選択性が確保しにくい場面に適用される。測定は零相回路を対象とし、CT残差結線で3I0を、VT開放三角結線で3V0を取り出す。方向判定は主として有効電力成分P=Re[V0·I0*](ワットメトリック)または無効電力成分Q(バルメトリック)に基づく。国際的にはANSI機能番号67N/67Gとして区別され、デジタルリレーではメモリ電圧や負相偏極などの高度な安定化機能を備える。
動作原理と構成要素
方向要素は、動作量Ir(一般にI0)と偏極量Vp(一般にV0)から得られる比較トルクにより判定する。代表式はT∝|Vp||Ir|cos(φ−θc)であり、φはV0に対するI0の位相角、θcは系統の接地方式や負荷特性を踏まえて設定する特性角である。抵抗接地系ではI0がV0にほぼ同相で流れるためθc≈0〜30°が用いられ、消弧リアクトル系ではI0がV0に対しおよそ−90°の位相となるためQ成分を用いる方が安定する。方向判定の符号で内向き(母線側故障)と外向き(線路外側故障)を明確に分離し、選択遮断を実現する。
検出方式のバリエーション
ワットメトリック法(P方式)
V0とI0の有効電力P=|V0||I0|cosφを用いて方向を決める方式である。抵抗接地や有効接地系で有効成分が支配的なときに高い感度と安定性を示す。地絡抵抗の変動に対しても閾値と角度設定を最適化することで誤判定を抑制できる。変圧器中性点抵抗接地や配電線の高抵抗地絡で広く用いられる。
バルメトリック法(Q方式)
無効電力Q=|V0||I0|sinφを用いる方式である。消弧リアクトル(Petersen coil)接地では健全相の容量電流が卓越し、P方式は地絡抵抗や発電機の有効分に影響されやすい。Q方式はV0とI0の±90°近傍の関係を利用して方向弁別を安定化し、単相アーク地絡でも良好な選択性を確保する。
メモリ電圧・負相偏極
故障直後はV0が一時的に低下し方向判定が不安定化する。このため故障前のV0位相を保持するメモリ電圧や、負相電圧V2/負相電流I2を偏極量に用いる手法が実装される。V2偏極は三相不平衡に強く、電圧喪失時や開閉動作の過渡でも安定に働く。
計測回路と配線
零相電流は三相CT二次の和結線で3I0を得るか、零相フィルタ内蔵CTを用いる。零相電圧はVTの開放三角結線(Vab+Vbc+Vca)の端子から3V0を取り出す。高調波や残留磁化の影響を低減するため、デジタル化前にアナログフィルタを挿入し、ソフトウェア側でも3次高調波抑制や位相追従(PLL)を用いる。VT断線・極性誤配線監視、CT飽和検出は必須である。
設定項目と推奨方針
- 動作電流(I0ピックアップ):健全時の容量不平衡3I0の最大値×安全率以上に設定する。
- 特性角θc:系統の接地方式と故障時等価回路から導出し、P方式は0〜30°、Q方式は−90°近傍を起点に現場実測で微調整する。
- 電圧監視(V0ブロッキング):V0が閾値未満では方向判定を保留し誤動作を防ぐ。
- 段階構成:瞬時要素+時限要素(定時限または逆時限)で上下流の選択性を確保する。
- 残留容量電流補償:線路総容量から推定した充電電流を演算で補正して感度を確保する。
保護協調と適用シナリオ
環状配電、変電所の母線分岐、発電機の系統連系点など、潮流の向きが一定でない箇所で威力を発揮する。上位側は外向きブロック、下位側は内向き動作とし、51G/51Nや距離保護(地絡用21G)と時間協調を取る。分岐数が多い線路では各フィーダで同一の判定基準を採用し、連系点の逆潮流条件も含めて整合性を確認する。
系統接地方式と挙動
有効接地や低抵抗接地では地絡時のV0・I0が大きく、P方式が高感度に動作する。高抵抗接地では故障電圧の立ち下がりが小さいため、V0監視閾値に注意する。消弧リアクトル接地ではQ方式が適し、アーク再点弧を伴う単相地絡でも方向弁別が安定する。非接地系では健全相の容量電流が支配的で選択性が難しいため、補償と角度設定の最適化が不可欠である。
誤動作要因と対策
容量電流・不平衡の影響
長距離ケーブルや多回線並列では充電電流が大きく、健全時でも3I0が流れる。分岐不平衡や帰路電流によりPやQが閾値を跨ぐ可能性があるため、残留容量電流の補償、方向判定の二重監視(59N監視付き67N)を併用する。
計器誤差・鉄共振・CT飽和
VTの鉄共振や配電用小容量VTでは3次高調波が増加し方向判定が乱れる。高調波抑制フィルタと無効分監視を加える。CT飽和は位相回転を生むため、立上り直後のトランジェントブロックや2周期平均などで安定化する。
試験・検証手順
- 二次注入:V0とI0の位相を掃引し、特性角θc付近で極性反転点が設計値と一致することを確認する。
- 一次注入:母線側・線路側に対して意図的なI0を流し、方向マップを実系統条件で検証する。
- 系統再現:開閉操作や無負荷投入などの過渡波形(COMTRADE)を再生し、ブロッキングの有効性を評価する。
デジタル実装上の要点
現代の数値リレーはPLLでV0位相を安定化し、メモリ電圧・負相偏極・適応特性角で過渡を吸収する。保護動作・故障記録・振る舞いはIEC 61850のGOOSEで相互連携し、選択遮断と再閉路の整合を高速化できる。さらに、零相インピーダンスの推定により地絡距離推定を行い、故障点標定の迅速化に寄与する。運用では定期校正、ファームウェア整合、設定の一元管理を行い、更新時は過去データとの回帰試験で選択性を保証する。