不足電圧リレー
不足電圧リレーは、系統電圧や装置端子電圧が所定値を下回ったときに遮断器や接触器を開放させ、機器の誤動作や過熱、トルク低下、同期外れなどを未然に防止する保護要素である。国際的にはANSIデバイス番号で「27」と呼ばれ、配電盤、モータ制御センタ、非常用電源、発電設備、系統連系インバータなどに広く実装される。電圧ディップや長時間のブラウンアウトに対して、一定遅延で遮断する「定時限」動作が一般的であり、不要動作を抑えるためのヒステリシス(復帰電圧の余裕)を備える。検出相は単相・三相のいずれにも対応し、三相では相別・線間別・最小値選択などのロジックで誤検出を抑えつつ確実な遮断を狙う。
動作原理
基本原理は電圧のRMS監視である。計器用変圧器(VT)で一次系を絶縁・降圧し、整流平滑+比較器、あるいはA/D変換+デジタル処理で実効値Vrmsを算出する。RMSは周期Tにおける二乗平均の平方根で定義され、v(t)の歪みや高調波の影響を受けにくい。設定電圧Vsetを下回ると動作遅延タイマが起動し、遅延経過後にトリップまたは接触器を開放する。復帰はVreset(通常はVsetより高い)で行い、電圧の微小揺らぎによるチャタリングを防止する。三相系では各相RMSを計算し最小相を評価する方法、線間電圧の最小を用いる方法、不平衡検出を組み合わせる方法などが採られる。
整定値と時間特性
整定の目安は、定格電圧Unの80〜90%程度をVsetとし、動作遅延tdは0.1〜2.0 s程度の範囲で選ぶのが通例である。短時間の始動電流やタップ切替に伴う瞬時低下を許容しつつ、ブラウンアウトや長めの電圧ディップは確実に遮断するという設計思想である。過度に高い整定は保護の抜けを招き、過度に低い整定は不要動作を誘発するため、負荷の最小動作電圧と系統の電圧品質(規定範囲、許容ディップ)を両面から評価して決める。
ヒステリシスとチャタリング防止
投入電圧(Pick-up)と落電圧(Drop-out)に差を設けるヒステリシスは数%〜数%台が一般的である。例えばVset=0.88Un、Vreset=0.92Unのように整定すると、境界付近のノイズや高調波で接点が断続する現象を抑制できる。接触器自体の保持電圧にも余裕度を見込み、系としてのチャタリング防止を図るのが望ましい。
適用例
代表例はモータ回路である。電圧低下時はトルクが概ね電圧二乗に比例して低下するため、過負荷・失速・温度上昇のリスクが高まる。そこで不足電圧で接触器を開放しモータを保護する。制御電源(DC24 Vなど)の不足ではPLCやリレー回路の誤動作を誘発し得るため、制御盤にも適用する。発電機やUPSでは母線電圧の低下を検出して母線切替・遮断器トリップ・負荷遮断のシーケンスを開始する。系統連系機器では、不足電圧要素を過周波・不足周波、ROCOFと組み合わせ、島状運転防止の一要素として用いる。
系統電圧低下の原因
電圧低下の典型要因は次のとおりである。
- 短絡・地絡故障に伴う過渡的な電圧ディップ
- 大容量モータやトランス励磁突入による起動時電圧降下
- 負荷急増、無効電力不足、力率低下
- 配電系のタップ切替・コンデンサ開放・調相設備不具合
- 長距離送電での電圧降下、末端系のインピーダンス増大
実装方式
機械式では電磁石とスプリングで落電圧特性を得る方式があり、電源喪失時に確実に開放する利点がある。静電子式は整流平滑と比較器でしきい検出を行い、小型・安価である。マイクロプロセッサ式はサンプリングによりRMS、ベクトル位相、ひずみ率の監視が可能で、自己診断やイベント記録、複合ロジック(最小相・不平衡・時限曲線選択)を備える。試験規格としては保護継電器の一般規格(例: IEC 60255系列)に準拠する設計が多い。
整定手順の実務ポイント
実務では次の順で検討すると整合が取りやすい。
- Un、VT比、許容電圧変動(規格・電力品質データ)を把握する。
- 負荷の最小動作電圧(接触器保持、モータ許容、制御電源余裕)を整理する。
- 想定ディップ波形の継続時間分布に対し、tdを選定する。
- 上位・下位保護(過電流、周波数、再加圧シーケンス)との時間協調を確認する。
- 試験電源で投入・復帰・動作遅延を検証し、帳票化する。
試験・保全
定期点検では、可変電源で段階的に電圧を下げ、動作点・復帰点・時限を測定する。端子接触抵抗やVT二次回路の断線、設定値の誤変更、記録装置の時刻ズレなども併せて点検する。イベント記録や動作回数を活用し、不用意なトリップの傾向を解析して整定を微修正することが有効である。環境条件については温度範囲、振動、ノイズ耐量(サージ、静電気、伝導妨害)への適合を確認し、盤内の配線取り回しで外来雑音を低減する。
関連保護要素と組合せ
過電圧リレー(ANSI 59)、不足周波数(ANSI 81U)、過周波数(ANSI 81O)、電圧不平衡、ROCOF(df/dt)、逆電力(ANSI 32)などと組み合わせることで、より堅牢な系統保護が構成できる。設備の重要度に応じて段階的トリップや負荷遮断(LS)を設け、サービス継続性と安全性のバランスを最適化することが望ましい。