変圧器損失
変圧器損失とは、入力電力のうち熱などとして消費され有効出力に変換されない成分の総称である。主に鉄心に起因する「鉄損」と巻線に起因する「銅損」に大別され、さらに漏れ磁束や構造物に誘起される付加損、誘電体損、機械損(振動・騒音に伴う微小損)などが含まれる。鉄損は無負荷時でも一定で、素材・周波数・磁束密度に依存する。一方、銅損は負荷電流に比例して増加し、温度と周波数特性(交流抵抗の増加)を強く受ける。効率 η は一般に η = Pout / (Pout + Ploss) で表され、損失低減は熱設計・信頼性・省エネの観点から極めて重要である。
損失の分類と基本式
代表的な損失は次のとおりである。鉄損はヒステリシス損と渦電流損の和として扱い、巻線損は直流抵抗による I^2R に交流効果を加味して評価する。付加損は漏れ磁束が金属部材に誘起する渦電流で生じる。
- 鉄損:Pfe ≈ kh・f^alpha・Bmax^beta + ke・f^2・Bmax^2・t^2(Steinmetz 近似と渦電流成分)
- 銅損:Pcu = I^2・Rac(Rac は温度・表皮効果・近接効果を含む実効抵抗)
- 付加損(構造物損):漏れ磁束による部材内渦電流
- 誘電体損:絶縁材の損失正接 tanδ に起因
鉄損(ヒステリシス損・渦電流損)
ヒステリシス損は磁化反転に伴うエネルギー損で、材料依存定数 kh と指数 alpha, beta(概ね alpha ≈ 1、beta ≈ 1.6〜2 程度を用いることが多い)で近似され、Bmax を下げると低減する。渦電流損は板厚 t と周波数 f に対して二乗的に増大し、ラミネーション(薄板化)や高抵抗材料(珪素鋼板、高周波ではアモルファスやフェライト)で抑制する。磁束分布の不均一やジョイント部の磁気抵抗上昇は局部過熱(ホットスポット)を招くため、コア形状・積層方向・ギャップ管理が重要となる。
銅損(巻線損)
銅損は負荷電流に伴う I^2R で、巻線温度 T により抵抗が増える。銅の温度係数を αCu ≈ 0.00393 1/K とすると R(T) ≈ R(20℃)・{1 + αCu・(T − 20)} で見積もれる。50/60 Hz でも導体断面が大きいと表皮効果・近接効果で Rac が増加する。高周波用ではリッツ線や層間配列最適化で交流抵抗を低減する。端子・リード・はんだ部の寄生抵抗も実機の損失バジェットに含めるべきである。
付加損・誘電体損・機械損
付加損は漏れ磁束がクランプ・タンク・シュラウド等の金属に鎖交して発生する渦電流損である。スロットシールド、非磁性スペーサ、磁束経路の制御で抑える。誘電体損は高電圧・高周波で顕在化し、絶縁紙・樹脂・油の tanδ 管理が要点となる。機械損はコア磁歪に伴う振動・音響エネルギーで、クリップ応力や積厚方向の管理、ダンピング材で抑制する。
試験法と分離評価
実務では無負荷試験と短絡試験で損失を分離する。無負荷試験は二次側開放・一次側定格電圧印加で鉄損(および励磁電流)を測定する。短絡試験は二次短絡・一次から定格電流となる電圧を加え、銅損(および等価インピーダンス)を求める。温度上昇は抵抗法または熱電対で評価し、定常後の Pcu を補正する。高精度用途ではカロリメトリ(発熱量計測)や電力計の誤差(位相・高調波)も考慮する。
周波数・波形・高調波の影響
鉄損は f と Bmax に強く依存するため、インバータ駆動や整流負荷による非正弦波励磁では高調波成分が損失を押し上げる。銅損は電流の高調波実効値 Irms の増大で増える。PWM で dV/dt が大きい場合、巻線間容量経由の置換電流が増え、誘電体損・シールド損が無視できなくなる。スペクトル設計(スイッチング周波数・デューティ・スルーレート)とフィルタで波形品質を制御することが肝要である。
材料・構造と低減策
鉄損低減には低損失材(無方向性珪素鋼、高周波域のアモルファス/ナノ結晶、フェライト)の採用、積層板の薄板化、適切な Bmax 設定が有効である。銅損低減には導体断面の最適化、巻線レイアウト(レイヤー交互・インタリーブ)、リッツ線、端子設計の抵抗低減が効く。付加損は漏れ磁束の閉路化・シールド位置の最適化で抑える。熱設計ではコア・巻線の熱抵抗ネットワークをモデル化し、風冷/油冷/樹脂含浸の採否を決める。
定格・効率と運用
定格効率は想定負荷点での Pfe と Pcu の和で決まり、無負荷連続運用が多い設備用では鉄損の小さい設計、平均負荷が高い電源用では銅損の小さい設計が有利となる。配電用では 1 日負荷曲線に基づく「等価損失最小化」、機器内蔵用では温度上昇限度(クラス 105/120/130/155 等)内に収めることが最優先となる。整備面ではタッピング設定、締結部の緩み防止、絶縁劣化の監視(部分放電、油中ガス分析)が損失の長期悪化抑制に寄与する。
設計計算の実務上の要点
初期見積もりでは材料データシートの Steinmetz 係数から Pfe 曲線を作り、巻線は Rac/Rdc 比を Dowell 近似で評価する。損失バジェットは「鉄損」「銅損」「付加損」「誘電体損」「その他」に分け、熱解析(伝導・対流・放射)と連成させて反復設計する。試作段階では無負荷/短絡試験とサーマルカメラでホットスポットを抽出し、コアギャップ・配線経路・締結条件を微調整する。高調波環境では実負荷波形を用いた実効値演算で見積もり誤差を抑えることが重要である。
規格・評価指針
配電/電力用は IEC 60076 系や JIS の該当規格、電子機器内蔵用は素材規格と安全規格の要求を参照し、試験電圧・周波数・温度条件を明確化する。効率表示や省エネ評価では測定不確かさ、電力計のクラス、温度補正の方法をドキュメント化し、再現性ある比較を行うことが望ましい。
コメント(β版)